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第123話 罪悪感


「平和な国に!」

「美味しいワインに!」

「揺れない大地に!」

「「「かんぱーい!」」」


 俺達はグラスを掲げて乾杯をし、グラスに入ったワインを飲む。


「いやー、敵国でもなくて、トラブルもなさそうな国って良いなー」


 俺はそう言いながらイッキ飲みして空になったマリアのグラスにおかわりのワインを注ぐ。


「そうね。ここなら安心して冒険もできるし、表を歩けるわ」

「だよな。どうする? すぐにでも旅立つか?」

「そうねー……このレイルの町はきれいだし、少し滞在してゆっくりするのも良いんじゃない?」


 俺達は叔母上に南方のギリスからこのエイミル王国のレイルという港町に連れて来てもらった。

 レイルは特別大きい町というわけではないが、治安が良く、住みやすい町だ。


「私は安心して表を歩けるのが良いですね。まあ、一人では無理ですけど」


 マリアが安心できる町っていうのは大きい。

 マリアは荒くれ者恐怖症だからこういう治安の良いところで心の傷を癒してほしいのだ。


「じゃあ、少しの間、この町で旅の疲れを癒すことにするか。その間に今後の計画やエイミルのことを調べよう」


 エイミルは俺達の出身国であるエーデルタルトとは国交がほぼないため、詳しくない。

 目的地であるウォルターに行くためにはこの国を抜けないといけないし、国の地理や町の情報を調べ、今後のルートを決めてからこの町を出発した方が良いかもしれない。


「じゃあ、明日も休みね。今日はゆっくり飲みましょう……あら? ワインがもうないわ」

「あ、私が頼んできますよ」


 マリアはそう言うと、立ち上がり、部屋を出ていった。


「働き者ねー」


 リーシャが感心するが、マリアは自分が飲みたいだけだと思う。

 実際、あいつがほぼ飲んでるし。


「好きにやらせておけ。ようやく海に落ちる恐怖から逃れられたんだから」


 叔母上の仕事を手伝うために無人島に行ったのだが、あのマリアが珍しく、海にも落ちずに不幸な目に遭わなかった。

 

「それもそうだけどねー。しかし、まーた、あのベッド?」


 リーシャが不満そうにこの部屋に設置されているベッドを見る。

 ベッドは一つしかないが、サイズはかなり大きく、3人で寝るには十分すぎる大きさだ。

 叔母上の屋敷や豪華な軍船で寝たやつとほぼ変わらない。


「不満か? この町の一番の宿屋で一番の部屋なんだぞ」


 俺達は叔母上のアシュリー号という豪華客船に乗ってきたため、そこでかつて過ごした暮らしを思い出し、安い宿屋には泊まる気になれなかったのである。

 それで金にも余裕があったため、一番良い部屋を借りたのだ。


「部屋自体はいいけどね。また、3人で寝るのかーって思っただけ」


 そうは言ってもお前はすぐ寝るじゃん……いや、そういうことか。


「お前は別に気にせんだろ。それにいい加減、マリアを受け入れたらどうだ?」


 友達だろ。

 しかも、唯一の。


「受け入れてはいるわよ。ただ、あなた達って、たまに抱き合って寝てるわよね? 私を放っておいて」


 たまにな。


「お前は飛空艇から落ちる夢を見ていないからそう言うんだ。朝起きたらでかい熊におはようって言われていないからそう思うんだ」

「ふぅ……情けない……」


 リーシャが呆れたような顔でため息をつく。


「マリアを抱いて寝ると落ち着くんだよ。何しろ、そうしていると、あいつが夢に出てきて俺だけは助かる」

「最低ね。私は出てこないの?」

「お前は逆。お前だけは絶対に助かる」


 多分、こいつが不幸な目に遭う想像ができないからだろう。


「…………ねえ? マリアを抱いた?」


 こいつの言う抱くとはそういう意味だろうな……


「抱いてない。そんな暇があったか? それにマリアの荒くれ者恐怖症を見るに少し落ち着かせた方が良い」


 可哀想だし、無理をさせる気はない。

 身分の差が開きすぎているため、あいつは絶対にノーとは言えないだろうし。


「結婚前に手を出す気はあるわけね……あなたって手を出すのが本当に早いわ」


 今さらそれを言う?


「俺はロンズデールの名において約束を違えない。だったら同じことだろう」


 王家の人間が約束を破ったら人心が離れるわ。

 というか、あの国で女性関係の約束を破ったら普通に刺されるから嫌。


「ふーん、別にいいけどね……」


 リーシャがプイッと横を向いた。

 嫉妬をしているようにも見えるが、頬がちょっと染まっている。

 本当にこいつの感情がわからん。


「お待たせしましたー」


 俺達が話していると、マリアがワインを持って戻ってきた。


「良いやつにしたか?」

「一番良いやつらしいです。最初の日くらいは贅沢にしましょう」


 マリアが嬉しそうに皆のグラスにワインを注いでいく。


「金はあるし、数日は贅沢をしようぜ」

「そうですねー……あれ? リーシャ様はどうされたんです?」


 マリアがプイッと横を向いているリーシャに気が付いた。


「別に……」

「俺とマリアがくっついて寝ているのを見て、嫉妬したんだとさ」


 さすがに抱くとかそういう話をするのはやめておく。


「あー、なるほど……でも、仕方がないじゃないですか。殿下と寝ていると、飛空艇から落ちそうになると助けてくれるんですよ」


 マリアが嬉しそうにそう言うと、横を向いていたリーシャが責めるような目で俺をじーっと見てくる。


「…………そうか。さすがは俺だな」


 あー、罪悪感がー。

 俺の夢ではお前だけが落ちてるわー。

 そして、俺は助かったって、ホッと胸を撫で下ろしていたわ……


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よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ま、まぁ、実際落ちそうになったら誘拐のときみたいに、全力で助けると思うし? セーフだよね?
[一言] で、殿下は王族なので下々の者を犠牲にしても助からないといけないから……(震え声)
[一言] 夢の話、そういうとこありますよね、殿下って。 ってツッコミたくなりました。笑 いつも楽しく読んでます。更新ありがとうございます
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