頼もしき死神たち
デュークを残し、英星と紫電は2人で逃げる!
僕と紫電はデュークの「悪は必ず勝つ」という言葉を信じ、自ら開けた穴から乱戦状態の寝室を飛び出した。
必ず帰って来いよ! デューク・フィレゾー!
大穴の先は森に繋がっていた。寝室が1階でよかったなあ。
紫電からスニーカーを受け取り、急いで履いた。
「壁に沿って逃げれば大聖堂の入口に近づくはずだよ!」
「でも……粋たちを捜さなきゃ!」
「そうだね……、とにかく大聖堂に入れそうな場所を探しながら進もう!」
僕らは森の中を大聖堂の壁に沿って進む。
《ドグマブラスト》によって地表はごっそりと消失し、砂岩が剝き出しになっていた。
我がカースながら恐ろしい。
紫電の両目は相変わらず血走っている。僕はニヤニヤしながら、
「紫電~。随分と必死だね~。そんなに僕を心配してくれてたの~?」
「いや、寝てないんだ。ここ日本で言えば国会でしょ? 国会で寝るなんて、それこそ絶対悪だよ」
国会というのはお兄ちゃんなりの例えなんだろうけど。
……お兄ちゃんは無事だろうか。
さっきはきつい言い方しちゃったなあ。
「そういえば紫電。あんたのワープでこんな所とっととオサラバできないの?」
「さっきから試してるんだけど、飛ぶのさえ無理なんだ。英星を助けた時はできたんだけどなあ」
そう言って紫電は眉尻を下げる。
なぜ飛ぶことすらできないんだろうか。
「じゅるるるるっ!」
茂みから禍々しい音がした。
「なんだろう!? 英星!」
「う、うんっ!」
僕と紫電は身構える。
すると茂みの中から5匹のデススライムが飛び出して来た。
真ん中の奴は鉢巻をしているけど、なんなんだろうあれ。
彼ら(?)は僕らを見つけて安堵したのか、一斉に体を縮める。溜息をついたらしい。
……ええっと、こいつらもう味方なんだよね。
味方だと考えた瞬間、なんだかかわいく見えてくるから不思議だ。
鉢巻デススライムの体の一部がこんもりと小さな山のように盛り上がった。そしてくいくいとその山を振る。
「ついて来てって言ってるみたい! 行こう英星!」
ああ、デススライムはかわいいなあ。1匹ペットにしたいわ。
デススライム隊に誘導され、僕らは再び走り出す。
「この先は大きなステンドグラスがあるみたい。灯りに触れないようにね! 見つかっちゃう!」
紫電にも誘導され、僕らは闇を駆ける。
……だが僕の運動神経が想いに応えてくれない。
「ちょ、ちょっと待って……! つ、疲れた……!」
「英星……、30秒も走ってないけど……」
四つん這いになって息を整える。
「英星……! そこは!」
え? どうしたの紫電。
なんとなく左を見ると、僕は大きなステンドグラスから漏れた灯りを全身に浴びていた。
神界の大聖堂名物、透明度の高いステンドグラスだ。
その先には多くの神族たちが驚いたような顔をしている。
「げっ……」
僕は固まった。
「いたぞおおおおおお!!」
「きゃあああああああ!!」
ステンドグラスを突き破り、神族たちが雪崩のように突っ込んで来た。
紫電は腋に僕を抱えると、そのまま近くの巨大な樹の陰に隠れる。
「うう……紫電ごめんなさい。ごめんなさい……」
「いいよいいよ……。でも……あれだけ言ったのになあ……」
神族たちは隊を二手に分け、僕らを捜す。だが、そんな僕のやらかしの功罪で大聖堂を護る神族の数が目に見えて手薄になった。
僕らは目を合わす。
――突っ込むなら今しかない!!
2人と5匹で大聖堂に向かって風のように駆け出した。
「ごめんねー!」
流れるような身のこなしで、立ちはだかる神族たちを紫電が次々に斬り倒す。
カッコいいなあ。
「《ブラッディエッジ》!」
僕もカースで神族たちを料理していく。
僕もカッコいいなあ。
「じゅるっ! じゅるじゅるっ!」
デススライムたちは神族たちを齧り殺していく。
こいつらはえげつないな。
「英星! ダメだ敵が多すぎるよ!」
剣を払いながら、紫電が珍しく弱音を吐いた。
「くっ! 粋たちの寝室はどこ!?」
「ぴぎゃ――っ!」
ああっ! デススライムに神族の放った矢が刺さっている!
デススライムが1匹蒸発するようにして消えた。
「紫電! デスリンが! デスリンがぁ!」
「いつの間に名前付いてんの!」
このままでは残りのデスすけ、デスお、デスたろう、そしてデシューの命も危うい。
紫電は敵の攻撃を防ぐだけで精一杯だ。
僕もかろうじてデススライム隊を護っている。
「紫電、さすがにこれは詰んだんじゃあ……!」
「あきらめるのは早いですよ!」
もはや壁のようになっている神族たちの向こうから、何者かの声がした。
次の瞬間、神族の壁が大鎌によって一掃される。
粋と王児、それからお兄ちゃんを引き連れて、不敵な笑みを浮かべながら。
大鎌を携えたワイズマンが立っていた。
なんとワイズマンが登場!
神族たちから逃げきれ! 英星たち!!
次回もお楽しみに!