僕の最期
粋たちとの合流に成功した英星たち!
「英星! 紫電! よかった無事だったのね!」
粋が目を潤ませて歓喜の声を上げる。
「あんたら……身体は? 大丈夫なの?」
「ワイズマンさんが駆けつけて治してくれました。問題ありません!」
王児がその小さな胸を誇らしげに張った。
「お兄ちゃんも無事そうでよかった!」
「……早く逃げるぞ」
お兄ちゃんは僕の言葉には反応せず、くるりと背を向けてしまった。
うむむ、やっぱり怒ってんのか。
「2人ともなんかあったの?」
粋が戸惑って僕らを交互に見る。
そりゃああんなこと言ったら……許されないよね……。
「私はデュークの援護にでも行きましょうかねえ。姫様たちはどうかご無事で」
ワイズマンが僕とすれ違い、一人奥へと進みかけたその時。
「ねえワイズマン。僕ら……、死神族を散々痛めつけたよね。」
ワイズマンの背中に話しかける。
濃紫の魔道衣が静かに上下していた。
「それでも僕らを助けてくれる。……どうして?」
魔道衣が小刻みに震え出した。どうしたんだ?
「くくくくく! 我らが姫様は随分とお優しいですねえ。しかもご自分の心に正直であられる!」
……近くで見るワイズマンの笑いは正直怖かった。
「そんなの……『私が助けたいから』に決まっているじゃないですか!」
「ワイズマン……!」
「それに、私は記憶力には自信があるのですが……姫様から痛めつけられたなどという記憶はございません。あったとしても失念してしまいました」
ワイズマンは飛びかかって来た神族を一薙ぎ。
「死神族というのは自分の心に正直なのです。姫様も……その真っすぐさをゆめゆめお忘れなきよう……」
それだけ言ってワイズマンは大聖堂の奥へと駆け出した。
「ワイズマン! 必ず! 必ず帰って来なさいよ――っ!」
ワイズマンは背を向けたまま、軽く手を挙げて返事をした。
「……もういい。行くぞ! 紫電! お前の足は速いな?」
お兄ちゃんが焦れたように話し始める。
「う、うん」
「私は今空が飛べない! すまんがお前の肩に乗っけてくれ! 私は足が遅いのだ!」
「解った!」
そういえばお兄ちゃんも空を飛んでいないな。
何か見えない力が働いていて飛べないのかも。
「いいか!? 脱出口までの経路は私の頭に入っている! これよりは紫電が先頭だ。お前らついて来いよ!」
お兄ちゃんは紫電の肩に乗っかり、「右! 左!」と指示を出しながら煌びやかな廊下を進む。まさかこの廊下が鮮血に染まる日が来ようとは。
僕らもカースやスペルで応戦する。
しかし全ての攻撃を防げる訳ではない。脱出口へと進むうち、僕らの身体に1つ、2つと傷が増えていった。
「雷星さん! 脱出口ってどこなんですか!? これ以上は……があっ!」
「王児!?」
王児の右肩を神族が投じたジャベリンが後ろから貫いていた。
「あ……! あ……! 槍……槍がオレの肩に……!」
「王児! 落ち着いて!」 「王児が! 王児がやられたわ!」
「王児ッ!」
「うっ! うううううっ! 痛い……痛いよう……ママぁ……!」
王児は茫然自失のまま、白目を剝いて倒れた。
「あああああっ! うぅぅ!」
だが王児の右肩に刺さったジャベリンの穂先に体重がかかり、王児の生々しい呻き声が響く。
大聖堂の赤いカーペットに投げ出された賢者の書が、王児の血で濃い赤に染まっていった。
「ぎゃあああああああああ! 痛い! 痛いよおおおおお!」
王児は血まみれのままのたうち回る。
「王児! お願い落ち着いて!」
駆け寄った僕に王児がすがりつく。
早く王児の傷を癒さなければ……!
僕は王児に刺さっているジャベリンの柄をカースで断ち切ると、
「ちょっと辛抱してねっ!」
気合とともにジャベリンの穂先を引っこ抜いた。
「ぎゃうん!!」
まさに栓を抜いたように血が噴き出し始めた。
僕はコウモリの紋章を輝かせる。
他の味方もいっぱいいっぱいだ。全く余裕がない。
さあ、傷が塞がり始めたぞ。あと少し!
不意に死神城と大聖堂で見た悪夢が思い出される。
それは厳星が裏切り、お兄ちゃんも裏切るというもの。
まさか――あれは正夢……? だとしたらお兄ちゃんも……お兄ちゃんも裏切ってしまうんじゃあ……!
お兄ちゃんを振り返ると、スペルで周りの神族を焼き払っていた。
――そんな訳ないよね。
僕の胸の中にずるりと異物が入った。
気付くと味方のスペルによる弾幕をくぐり抜け、1人の雑兵が伸ばした槍が――
槍が――……。
僕の薄い胸板を紙のように貫いていた。
「ごふっ……!」
「英星ッ!」 「英星っ!?」
「げうううぅううぅぅ!!」
血が濁流のようになって口から溢れる。
槍が胸から抜き放たれ、弓形に上半身が反って。
真っ先に駆け付けてくれたのはお兄ちゃん。
お兄ちゃん……ごめんね……。
先に逝くよ……。
僕が最期に見たのは血相を変えた兄の顔だった。
英星死す――――




