転生しちゃった
法衣ボーイの正体は!?
「ボク…………神族に転生しちゃった」
――――マジで!?
僕は眼前の水色の法衣を纏った赤髪くんに駆け寄り――――。
「え、英星?」
顔を触る。
ぷにぷにとした肌の弾力が伝わってきた。
――――――温かい。
「紫電…………!」
「くすぐったいよ英星…………! ごめんね。心配かけちゃって…………」
紫電が僕を優しく抱きしめた。
「う…………っ! うううううううう……ううううううううううう………………っ!」
「え…………英星?」
僕は紫電の胸の中で、ひたすら泣いて懺悔する。
「ひえん……! おめんなひゃい! おめんなひゃい~~~っ!! おくあ……おくあひえんを……ひえんを…………!!」
「ごめん。せっかくだけどなんて言ってるか解んないや…………。あ……謝ってくれてるのかな?」
僕はこくこくと首だけで肯定した。
「しょうがないよ。英星操られてたみたいだったし…………」
「れも……れも…………!」
それを視ていたワイズマンが地団駄を踏みつつ叫ぶ。
「キルンベルガー様! こういういい雰囲気、私は大嫌いなんですけど! いつまでこのお涙頂戴の茶番を観ていればいいのですか!?」
「あのコウモリの紋章…………! 探した……探したぞ…………! 400年の時を越えて…………やっと…………やっと逢えた!」
「は? キルンベルガー様、私にも解るように仰っていただけますでしょうか」
キルンベルガーはしばし考え込んで、驚くべきことを言い出す。
「もう十分戦果は得られた。ここは退くぞ」
「はえ? い、いや、あいつらを殺せるまたとない機会ですが」
キルンベルガーはワイズマンを眼から熱線が出んばかりに睨みつけた。
「ワイズマン……貴様、私の命が聞けないと申すか!?」
「そ、そのようなつもりでは…………! わ、私はただ…………!」
キルンベルガーは「ふん!」と鼻から声を出すと。
「……そうだな。更なる試練を与えるのも一興か。……ワイズマン!」
「は、はいぃい!?」
「お前に我が力を授けよう…………!」
辺り一帯が暗くなり、キルンベルガーの瞳が青白く光った。
それを見たワイズマンの身体が軋みをあげる。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
バキバキと耳を塞ぎたくなるような轟音を立て、ワイズマンの骨格が変わっていく。
「あれは…………!? どうしたのかしら?」
「い、粋!? もう大丈夫なの?」
「ええ! さっきあんたが出した光のおかげで治ったみたい!」
粋の左腕は真っ赤に染まっている。
そうか。治ったのか。それはよかった。
「だけど…………!」
粋は思い切り振りかぶって……。
「ぶふぅっ!!」
頬をぶん殴ってきた。僕はごろごろと横転して10メートルほど進み、止まる。
「うわああああああん! 痛いよおおおおお! 何すんの粋の意地悪~っ!!」
「そのぐらいで泣くな! あたしはもっと痛かったんだからね!!」
「英星お兄さん」
「王児…………!」
王児も治ったのか。Tシャツもデニムも血でどす黒いな。
……なんてことを思っていると、本の背の部分で頭を殴ってきた。
どしゃっという音とともに顔面から地面に埋まる。
「英星」
疲れた様子でお兄ちゃんがゆっくりと近づいてくる。
「ひいいいいい! 来ないで! 来ないでえええ! これ以上痛いのはイヤ――っ!」
ぱあんっと翼で頬をひっぱたかれた。
「自分の命を粗末にするものではない! 人生を生き切るのも務めのうちだ!」
お兄ちゃんは小さな肩を怒らせて引き返していった。
うう……グーで殴られて、本でも殴られて、翼でもはたかれて……。
あー痛かった。
…………あれ? あと1人忘れているような――――。
「英星♪」
紫電が笑顔で立っている。
しかしその笑顔の裏には底知れない黒さが感じられた。
「ひっ!」
「ボク…………一番ひどかったよねえ。だって英星に殺されちゃったんだもん。覚悟はできてるぅ?」
「ご、ごごごごめんなさいごめんなさい! ちょっとどうかしてまして……!」
「ごめんなさいで済んだら警察はいらないって聞いたことないかなあ?」
「ゆ、許してくれたんじゃなかったの!?」
紫電はなおもにっこり笑って言う。
「しょうがないよ、とは言ったけど許したかどうかは…………別だよねえ?」
スタスタと歩いてきた。僕は恐怖のあまり、地面に這いつくばったまま微動だに出来ない。
「あはははは。英星これまでの仲間の殴打でおたふくみたいな顔になってるじゃないか」
何をされるんだろう…………? まさか……まさか僕を………………!?
紫電はおたふくな僕の両腋を持って立たせると――――。
「めっ!」
額をこつんとしてきた。えっ、そんだけ…………?
「紫電――――っ!! 紫電やっぱり優しかった! うわーん! このままラブホ行こうよーっ!!」
がばっと紫電に抱きつく。
「いやいや、いくら何でもその言葉は使っちゃダメでしょ……ボクたち未成年だし、男同士――」
「貴様ら――――っ!! せっかくの私の変身を誰も見ていないとはどういうことだ――――っ!!」
蚊帳の外にされて怒り狂ったワイズマンが、紫色の炎の塊を吐き出した。
「わあああああ! 危ないっ!」
紫電がとんっと地面を蹴り、僕らは宙に浮いた。
――――宙に浮いたぁ!?
「し、紫電なにこれ!? ちゅ、宙に浮いてる!!」
「神族に転生して、空を飛べるようになったんだ! その飛翔の能力の一環で今は宙に浮いてるんだよ」
僕と紫電はワイズマンに向き直る。
ワイズマンの大鎌は更に大きくなり、自身の背丈もマンションの6階ほどの大きさにまでなっていた。目玉は3つになり、その手足には爬虫類のような黄緑色の鱗が見られる。もはや怪物のそれだ。
「ふははははははあ! キルンベルガー様の力を得た私に敵などいない!」
「英星! いくよっ!」
「うんっ!!」
仲間たちから因果応報のお仕置きを受け、英星は怪物ワイズマンと対峙する!!
次回もお楽しみに!