悪の定義とは
敵の悲鳴が木霊する。
晴れてエンディング…………とはいかないんだろうなあ。
――――聞こえたのはワイズマンの悲鳴だけだった。
ワイズマンは哀しいぐらい悠然と倒れていたが、キルンベルガーは…………。
「これがスペルか…………。くだらんな」
「やっぱ全然効いてないか」
僕はごまかしに舌を出す。
「英星の魔力で効かないのか…………! ならボクの剣でっ!」
紫電が一陣の風となってキルンベルガーに斬り込んだ。
荒波の剣は稲妻を帯びている。
きっと紫電が基本スペルを放ったんだろう。
きゃわ~カッコいい!!
――ところがキルンベルガーは紫電にふっと息を吹きかけた。
「あ~れ~っ!!」
古すぎるセリフとともに、紫電は地の果てまで飛んでいく。
カッコわる。
でもなんかこれ……ヤバくない?
暗雲が立ち込める。
「ワイズマン。連中の相手は任せた」
「待って下さい。私ボロボロです」
「……ふん。世話が焼ける」
キルンベルガーの両眼から暗黒の光が放たれ、ワイズマンの傷が一瞬で癒えた。
せっかく瀕死にしていたのに!
回復のカースも使うのか。
回復するラスボスはレアだな。
「お兄ちゃん! 回復するなんてこの悪党どもウザい!」
「我慢しろよ……私はそもそも戦うのも本意でないぞ」
僕がウザいと言い終わるか終わらないかあたりだったろうか。
空気が再び張り詰めるのを感じた。
「黒髪の子供よ。今なんと言った」
「え? ウザい……悪党………………って…………」
キルンベルガーの眼光が目に見えて鋭さを増す。
「『悪党』か……。かつて我々死神族は悪と言われ迫害を受け続けた。貴様に我々の何が解る」
「いやいやいやいや。あんたらどこからどう見ても絶対悪でしょ!」
ギロリと睨みつけられ、僕は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
「絶対悪? かつてそう言った愚劣な神もいたな。厳星とかいう――」
お父様を貶められ、僕は声を絞り出して叫ぶ。
「お、おお、お父様を…………お父様を侮辱するなあッ!」
「ほう……父か。お前の父は厳星か。ならば話は早い。私自ら貴様らを殄戮するとしよう。絶対悪の強さ……思い知るがいい…………」
キルンベルガーの瞳が金色に光った。
「いかん英星! 目を瞑れ!」
お兄ちゃんの声がする。
「遅いよ。お兄ちゃん…………」
僕は近くの岩場に身を隠していた粋のもとへスタスタと歩いて行く。
「ねえ粋」
「どうしたの英星? 早くこいつら倒して――」
「死んで」
「え?」
僕は薄笑いを浮かべてダルボワ文字で綴りを刻む。
「ちょっ、ちょっと英星?」
「粋、あんたを殄戮してあげる!!」
「逃げろ粋ッ!!」
お兄ちゃんが綴りを刻んでいる。でもそんなの関係ない。
僕はもう綴りを書いたもーん♪
「《ポイズンナイフ》!!」
猛毒のナイフを掌に生成し、粋の左肩を深々と斬りつけた。
「ぎゃああああああああ!!」
粋の悲鳴。なんて心地いいんだろう。もっと鳴いて。もっともっと。
「粋。あんた左利きでしょ? だからまずは利き手を封じたよ」
左の肩口から激しく出血しながら、粋は僕の手を右手1本で押さえようとする。
愚かな小娘。骨が見えているじゃないか。いい眺め。
健気に抵抗したところで、僕の破壊衝動を増幅させるだけだ。
そこにもう2本の華奢な腕が加わる。
これは王児の腕か。
「英星……お兄さん………………!!」
「読書はいいの? 王児?」
「それどころじゃないです…………!!」
「王児も殄戮してあげる! 文字通り出血大サービスだよ!」
「それ冗談のつもりですか……? 全然笑えません……!!」
……うーん、2対1か。分が悪いな。
粋と王児は必死で僕の腕を持ち、ナイフを徐々に押し返す。
「どうしちゃったの…………? 英星………………!」
鬩ぎ合いを続けていると、後ろから声が聞こえてきた。
「清き光よ! 彼の者を救わん……《シャイニングブレス》!」
黄緑色の眩い光が僕を包みかけるが、ナイフで切り払う。
光は霧散して消えた。
「無駄だよ馬鹿兄貴。今の僕はキルンベルガー様の魅了にかかっているんだ。お前のゴミみたいな状態回復スペルなんて効かない! あははははははははっ!!」
「………………くそっ!!」
この無能な兄から始末してやろう。
ダルボワ文字で綴りを刻む。
「王児……! 止め……て…………!」
死にぞこないの粋がかすれ声で言う。
毒が回ってツラそうだなあ。左腕ももう使い物にならんだろう。
あとで楽にしてやる。
しかし、王児が綴りを刻む僕に飛びかかり、腕に嚙みついてきた。
「放せクソガキっ!」
勢いよく王児の腹にナイフを突き刺す。
「あ……! ぁ…………ぁぁ………………!」
何度か「あ」と繰り返し、膝から崩れ動かなくなった。
「……ごふっ!」
王児は血の塊を吐き出す。
赤い色がみるみる足元に広がっていくぞ。見ていて綺麗だ。
雑魚が。
「いやあああああああああああ!! 王児!!」
死にぞこないがギャーギャー騒ぐな。
「キルンベルガー様あああああああ! ご覧下さい! 人間を狩りました! 我らに楯突く人間をこの愚神・英星が狩りましたああああ!!」
僕はキルンベルガー様に満面の笑みを見せ、戦果を報告する。
「くっくっくっくっ! キルンベルガー様。こやつこのまま死神族になれるのでは? 私も加勢してきますね」
「いや。待て。もう少し試す」
「た…………試す? 試すとは一体…………?」
「いいから黙って見ていろ。加勢は許さん」
キルンベルガー様とワイズマン様は何か大事なことを話し合っておられるようだな。
もっと手柄をあげねば。
――――この時、背後から猛然と砂煙が近づいて来ていることに僕は気付いていなかった。
とんでもないことになった!
…………次回もお楽しみに!




