両親の墓前で
やっと現実世界に戻って来た英星たち!
しかし粋の調子は相変わらずで……。
視界が戻った時、僕らは「幸せになれる本」の上にお尻をつけて座っていた。
粋も無事だし、何より何より。
その次に目に留まったのは僕らを取り囲むメイドさんの群れ。
……あれ? なんか嫌な予感が……。
「粋お嬢様! 粋お嬢様――っ!」
「ぎゃあああああああああ!」
20人ほどのメイドさんが、タイムサービスの商品を狙う主婦のように殺到した。
あっという間にもみくちゃにされる。
「ちょ、ちょっと待ってください! 落ち着いて! 落ち着い……ふもごっ!」
紫電もメイドさんたちの波に呑まれる。
落ち着かないメイドさんたちに、僕らはしばらくもみくちゃにされ続けた。
……粋も騒音と振動で起きたようだ。
「お嬢様! 粋お嬢様!」
またメイドさんたちの大合唱が始まった。
「やめて! あたしお嬢様じゃない! ホントは……ホントは……!」
「粋! 粋! 無事だったのか! メイドたちから聞いたぞ! 本に吸い込まれたとかなんとか……!」
「粋! 結婚記念日の旅行を切り上げて帰って来たわ!」
気品のある中年の夫婦が部屋の前に立っていた。
粋はその夫婦を一瞥すると、刃物のような言葉を返す。
「パパとママじゃん…………偽物の」
「い……粋!?」
そんなことより粋を含む僕らはメイドさんたちのスクラムで押し潰されそうだ。
このメイドさんたちの存在意義が解らなくなってきた。
ラグビーだったら競技場でどうぞ。
―――
――翌朝。
結局粋の屋敷に泊まらせてもらった僕らは、「粋を見かけた」という紫電の案内を受けて神社に来ていた。
「あんたなんでこんな所に来たのよ」
「ちょっと剣の修練を……」
「ぷぷーッ、英星も一緒にやったらどうだ! 手取り足取り教えてもらえ!」
紫電に手取り足取り教えてもらう?
――それはちょっと魅力的かも……勢いに乗ってキスとか出来たりして……!
ぐへへへへ。僕の煩悩は朝から全開だ。
……ん? あれか? あれが粋か?
お墓の前に碧い髪の少女がいる。
「しっ! あんまり詮索するのもあれだから、ここから見守っときましょ。それにしても神社の砂利道って歩きづらいなあ。みんな、転ばないようにね」
そう自分で言った瞬間。
僕はバランスを崩し、顔面から玉砂利の海へとダイブした。
「びえーん!! いたいよー! いたいよー! うわあああああん!」
「こいつまたやらかしやがった!」
「……ま、いつものことだよね」
「――誰かいるの?」
「で、バレるというわけか」
「あんたたちか……」
「ご、ごめん粋ちゃん! 悪気はなかったんだ……」
「まあ、あんたたちは悪気がある人間には見えないし? 別にいいわよ」
「うう……いたいよお……」
粋は、お父さんとお母さんの形見の指輪に金色のチェーンネックレスを通し、首から下げていた。
……もう指に入らないんだろうか。
「これは……お父さんとお母さんのお墓?」
「そう……そうよ……」
僕らの目の前には、「広瀬家之墓」と彫られたお墓が建立されていた。
「本物の……パパとママの……お墓よ…………」
「ほん……ものの……」
粋はお墓に向き直り、瞼を閉じて手を合わせる。
僕らもお墓に向かい、手を合わせた。
――帰り道のこと。神社の鳥居をくぐった所で、僕は勇気を持って粋に持ち掛けた。
「ねえ粋。僕らと一緒に来ない?」
「……あんたたちと?」
「イヤかな……? すごく壮大な旅をしてるんだよー」
僕は渾身のセールストークで粋を誘う。
「あんたたち旅してるの?」
「そうだよ。壮大な旅だよー。すごく壮大なんだよー」
「それじゃどんな旅か解んない」
……あれ? おかしいなあ。渾身のセールストークが。
「ええっと、ちょっと長くなるんだけど、粋ちゃんにはボクから話すよ……」
―――
「へえー、人に害をなす死神を倒して、人間を護るのね」
「そう! 壮大な旅でしょー?」
「あんたの説明はよく解んない」
粋はジトっと僕を見て言った。
「うっ……! 僕だってちゃんと説明しようとしてるんだもん! 一生懸命やってるんだもん!」
「えーっと、そして英星を神界に帰したいって思ってる。それが最終目的だよ」
粋は大きく溜息をつき、空をしばらく見上げてから。
「……解ったわ。そしたら……一応今の両親に報告してくるから。あんたらについて行ったら、あたしの両親を殺した奴を見つけ出して殺せるかもね~」
「ええ? い、粋ちゃん?」
「ウソウソ。……でもこれから言うことはウソじゃないわ。……あたしは、広瀬粋。武久じゃない。もし武久って呼んだらホントにぶっ殺すから」
「た、たけひ……その名字は……?」
「あたしの新しい方の名字よ……。あたしね……。お父さんとお母さんが殺されてから……親戚の家の養子になるまで……もう言葉で言い表せない大変な毎日だった。でも……」
粋は一旦言葉を切り、続けた。
「今の両親に心を開いたことなんて一度もない。……せめて最後ぐらいはバイバイって言わなきゃね」
粋はそう言って悲しげに笑うと、真摯な顔になって歩き出した。
もう戻ってこない粋の幸せな過去。
……次回もお楽しみに。




