タイムリープした私が最初に手をつけたこと
毎日書くつもりが 初っぱなから失敗しました。フィクションではあるのですが、中世くらいの世界観というとき、文明の発達レベルに見合った生活レベルを、矛盾なく導き出すために現実を参考にしたかったのです。
なんか想定より、主人公の行動と発想が堀田が想定していたよりも前向きで明るいことと、
普通の子にしては、ちょっと知識がありすぎるかもな――というのは気になりますが。
世界が厳しいことは伝わるでしょうか。
現実問題として、転生したって、そんなに上手くはいかないものだと思います。記憶がなければ、現代人みたいな発想はできません(発想には、その土壌となる知識が必要です。けれども、どれ程賢かろうと 書物のなかには、たとえ王宮の図書室だろうと当時最先端の学術見解までが限界です。なので、記憶がない限り、現代っぽい発想をすることは極めて難しい。
さらに言えば、迷信のオンパレードですよ……
なぜ、また甦ったのか。それは知らない。せっかく転生できるのなら、かつての日本に転生できたらよかったのにと思う。
それでも目が覚めた時に見えた天井と、小さくなった手のひらと、窓から差し込む光が床に落とした影が短いこと……から、自分が少女の姿に変わっていることに気付く。
(ここから人生やり直し、ってこと?)
それとも、悪夢を見ていたとでもいうのだろうか。記憶には靄がかかったかのよつに、ハッキリとは思い出すことができない。
(思い出したくもない――)
突然、捕まえられて――狭い部屋に押し込められて、受けたことも。終わりがない苦痛と恥辱に耐えかねて、やってもいないことをやりました、と言わされた。私は魔女ですと、認めたら拷問からは解放されたけれど。処刑台まで歩かされるなか、身に覚えのないことで責められ罵声を浴びせかけられたこと。近所で可愛がっていたはず――なついていてくれたはずの小さな男の子が、わたし目がけて投げつけた石が額に当たったこと。顔が切れて血が流れるのを見て、歓声が上がったこと。その男の子の両親がそれを見て、よくやったと子どもを誉めていたのが――本当に悲しかったこと。
なんでそんな目に遭わされるのかも分からないままに、みんなの目の前で磔にされて、下の薪に火をつけ、さらに油をかけられて――わたしは焼き殺された。
苦痛までは、思い出せないのはせめてものことだった。それでも、感じた恐怖と、くやしさと――悲しみは、胸のなかにある。
そんな罪をおかしたはずもない私を、あんなひどい目に遭わせた人間たちに、復讐してやりたい。せめて、同じ目に遭わせてやりたい。真っ黒い感情が心の底から沸いてきて、涙が滲んでくる。
コンコンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「もう、熱は下がったのね?」
かつて、流行り病で死んだはずの母の姿がそこにはあった。
「はい……お母様。」
なぜか涙が出た。わたしに、悪意じゃないものを向けてくれる人がいる。それどころか、体調を気遣ってくれたのだと。それだけのことが、やけに眩しく思えた。
―――――
それから先の2年ほ母とはかつてないほど仲良くできていたと思う。母が向けてくれる穏やかな感情、ちくちく言ってくる小言さえもが、私を心配してのことだったとわかったから――それが正しくなくっても、母の言うとおりにしても大して困らないと思える範囲のことは、ありがとうと素直に従った。
しかめ面でピリピリしていた母の笑顔が増えたと思う。私はそれから、たくさんの事を自分から母に訊ねて、教えてもらうようにした。
――特に炊事を。幼いお前にはまだ早いと言われたけれど、私には気になることがあったから。
ひとつ前の、拷問のはてに焼き殺された人生のなか――母の死因となった流行り病。それは、前世の知識から推測すると、感染性の胃腸炎の一種だったのではないか――そういう気がするのだ。
(この世界のシステムって不衛生だよなぁ……)
手を洗う水道が存在しない。さすがにトイレの中身や洗い物に使った汚水は 穴に埋めたり決まった場所に捨てるようになっている。川などにそのまま流したりはしないけれど……それでも川の水を洗濯のすすぎには利用したりするし、その川からの水は飲食以外の生活用水に使われている。
(トイレの中身は肥料だし……)
細菌やウィルス、寄生虫……そのリスクは前世の日本の比ではない。
食事前の手洗いですら、街中の貴族は水差しから洗っているとも聞くけれど、使用人はもちろん、庶民にそんな贅沢はできるわけもなく――共用の盥に水を張ったそのなかで行うのが常である。立場が低い女はもちろん後になる。
まして日常生活の手洗いはそれ以下である。誰かが感染源を持ち込めば、あっという間に病原体が伝播される状況が出来上がっているのだ。
(せめて、流行り病が起きる時期までには――母を不衛生な手洗いと、生水から遠ざけておかないと。)
庶民が「お茶を飲む」など贅沢である。が、せめて流行り病の時期くらいは、一度沸かして細菌やウィルスを死滅させた安全な飲み物を飲んでほしい。お湯を注ぐことで、衛生面で不安の残る洗いかたをされる食器もある程度消毒できて、一石二鳥である。でもそれを母にお願いしたところで無駄なのもわかっている。
(だったら、私がやるしかない。)
残念ながら、この世界にはまだ、「細菌」「ウィルス」といった概念がないのだ。少なくとも庶民の間では、昔から伝えられてきたことを踏襲するように続けられている。
普段はそれでも上手くいくけれど、病気などが流行りはじめると――貧しい発展途上国では、先進国では問題になりにくい病で多くの人が命を落としていることと同じような理屈で……その影響は深刻になる。
けれども、その理屈を母親に説いたところで伝わらない。前世の、日本では常識みたいなレベルの清潔概念は、今生の世界では――近くの街で医者として人を助けていた先生ですら理解が難しい話のようだった。
細菌学、といわれるものが発展したのは、前世でも120~30年ほど前で、日本に持ち込まれた……東大の医学部出身のエリートたちが最先端のドイツから持ち帰ったのが、現代では官僚や軍医としての本職よりも文豪としての名前残る森鴎外が活躍していた頃の話である。
清潔にするということが大事だということはなんとなく理解され、「そうするものだ」と踏襲されていても、「(感染症の原因となる細菌やウィルスを身の回りから減らすために)清潔にする」という概念はあるわけもなかった。
だから、見た目にすごく汚れたわけでもないなら、手洗いの水は平気で共用するし、使いまわす。煮込んだものがいいと言われたらそのまま煮込んだものばかりを食べさせようとするし、逆に生のフルーツが効くと言われたら生の果実に留まらず野菜でも生物ばかりを与えてくる。
ちょうど、流されやすい人が、テレビやネットで言われたことをそのまま鵜呑みにしてしまうのと同じだ。知識がないぶん、もっとひどいかもしれない。
(説明しようがない……)
つまり、平和的におさめるためにできることはただ一つ。母を動かそうとするのではなく、その役割を私が担ってしまうようになること――だ。
(あの流行り病が訪れる前までに。)
目下のやるべきことが決定した私は、まずは当時は私に甘かった父親にねだることで、自分用に手を洗うための盥を確保することにした。
新風を巻き起こす!って夢がありますよね
でも、なかなか そう簡単にはいかないとは思います。不可能ではないでしょうけどね。
迷信がオンパレードというのもありますが、
それだけじゃないのです。
その人が信じていることそのものは別に迷信ではなかったけれども、その人の考えのある部分は間違っていて、そのせいで人が大量に死ぬことになった。
それは近代の史実として存在します。
上にちょっと記載した森鴎外の話。
若くして東大の医学部を出て国費でドイツに留学し、当時最先端の細菌学を持ち込んだ超絶エリート。森鴎外は、ゆえに潔癖だったらしいです。
それはいいとしても、そのプライドゆえに、「すべての病気の原因は細菌だ」という誤った信念をもってしまい
それを「医学の常識」として定説化させてしまった、過ちをおかしています。
彼は、(ビタミンB不足による)脚気の原因を推定した若き医者の、有益な意見を許せず握り潰してしまうのです。そのせいで、陸軍兵士がたくさん倒れてしまいました。
さらに、同じようにドイツのコッホのもとで細菌学を学んでいた北里柴三郎が、やはり脚気の原因は細菌ではないと認めてから(こちらが正しい)は彼のやることを徹底的に認めずに弾圧しました。
(森鴎外は軍医のトップに君臨するほどの超絶エリート官僚) おかげで、その時、福沢諭吉に助けられなければ、北里柴三郎でさえ研究できる環境さえ日本では危なかったほどです。 ―――ってお伝えすれば伝わるでしょうか。
森鴎外が無能なアホだった訳じゃないですよ。
頭脳で言えばとんでもない秀才、いえ天才ですよ。無茶苦茶勉強できたうえに、軍医はれるくらいには体もしっかりしていて、文豪として名を残せるくらいの作品を作り出す感性の持ち主ですよ。
阿呆なわけがないです。
でも過ちはおかします。そして、主流となったものを覆すことは、
同等にはれるはずのエリートですら厳しいのですよ。
時代が違えど、同じですよ。
戦後の日本ですら。
公害として社会で習う、有機水銀中毒の「水俣病」
この原因が、チッソという企業の工場排水から垂れ流された有機水銀によるものだと、
正しい状況分析を重ねて、医療者としての倫理観のもと患者を救おうと尽力した医師は、利権がらみで公権力で圧迫されて大学の地位を追われています。
国家に歯向かったわけでもないレベルのことで、有機水銀による被害を拡大させないために必要なことをしただけでも認められずに、結果的に多くのかたが犠牲になってしまいました。
社会的な立場がすでにあり、周囲から能力を認められている。そんな男性ですらそういう憂き目に遭うのですよ? 戦後の日本、すなわち、私たちの身の回りと法制度もほぼ遜色ない数十年前ですら。
もっと昔ならどうなると想像できるでしょうか。
まして、そういうバックグラウンドを持ちもしない――さらに女で立場も弱い、そんな状況で、
主張したことは正論でも鼻で笑われるのがふつうです。よくて門前払いですよ。もしも、そこで文句がつけられないように証明なんかしようものなら、逆に怒りを買って潰されると思います。
すでに権力がある立ち位置の人間のメンツを潰すって恐ろしいことですよ?
基本的に、プライドが高いエリートというものは己の間違いを認めません。
仮に本人が認めたくても、周囲がさせません。
その人の社会的信用に傷がつくことはその人一人の問題では済まなくなる。周りがいやがる場合もあります。それこそ、その人の主張に沿って事業拡大をしていたような企業があったとしたら何千万どころか億単位の損益が出たり株価が暴落し経営が傾くなどマイナスを食らうかもしれません。
問題が解決しないのは、そこには、一筋縄ではいかない事情が存在するからです。
もうひとついうなら、善と悪とかそういう単純でわかりやすい話じゃないから余計に難しくなるのです。
上で記載した森鴎外がそうやったせいで陸軍兵士が病に倒れたのは事実ですが、では鴎外が悪人だったのかとか、人としてクソだったのかというとそうではないのです。
人も社会もそういうものなのだ、ということです。
転生したさきの社会は、この地球上の史実のなかとは違うから大丈夫だろう、って?
同じような心をもつ人間が営む社会です。多少の違いは出るかもしれないけど、大きくは変わらないんじゃないかなと堀田は思うのですが……
逆に、都合のいいことばかりが起こると思うならなぜかを知りたいところです。神様の加護?まぁ、そんな神様がいて、自分とか一部だけに特別な恩恵を与えてくれるんだとしたらあるかもしれませんね。
ずいぶんと依怙贔屓が過ぎる神様で、何を基準に加護を与えてやる人を選別しているのか知りたいところですが。
まぁ、すごく運良く?
特権階級として生まれたり、しかも父親とかの強力な援護射撃を得られるというような超ラッキーな設定だったらうまくいくこともあるかもしれませんが。
それって宝くじで一等前後賞をあてるというよりも、確率低いことのように思います……
転生なんてできたとしたら たぶん 平民です。現代よりはハードモードだと堀田は思いますよ~。




