#1:ひよるとの出会い
僕はみぎゃー。
45歳のブラック企業勤めのサラリーマンだ。
今日も夜遅くまで会社のPCで作業をしながら、ふと考える。
「あ~、毎日毎日残業続きで嫌になるな・・・。
いっその事マゾにでもなれたら理不尽も楽しめるのかね。
だけどマゾにななんてなったら周りからイジられるよなぁ。
ハァ。いっそどこかに、マゾだけの国って無いのかなぁ。」
そんな事をボヤきながらいつの間にか僕の意識は飛んでいた。
これはそんな僕が見た夢なのか、意識が別世界に飛んだのか。
そんな不思議な世界の話だ。
「ん・・・う・・・」
ふと気が付くと僕は、瓦礫が散乱する荒野で寝ていた。
「あれ、さっきまで仕事をしていたのに、夢・・・か?」
しかし曇天から落ちた小さな雨粒が頬に当たった時、
その冷たさと水の感触にこれは夢では無いと感じた。
「夢じゃない・・・のか?
だとすると、何だコレは。感覚があまりにリアル過ぎる。」
すると、まだ脳内で理解が追い付かない僕の方に向けて、
遠くの方から複数の男達が走って来るのが見えた。
「キャアァァ~、助けて~!!
魔族達に襲われる~、ひ弱な僕達じゃ簡単に襲われちゃう~。」
甲高い叫び声。
男性のそれとは到底思えない、何とも弱々しいものだった。
いくら何かのピンチに見舞われているとは言え、
成人男性があげる叫び声としてはあまりに情けなかった。
そしてその後ろから先ほどの男性達よりも多数の影が見えた。
それは魔物達のようだった。
ゲームやアニメで見た事のある風貌。
オーク、ゴブリン、ガーゴイル・・・。
確かにアイツらに追いかけられたら、普通の人間なら逃げるしか無い。
そして僕はそれらがこちらに向かって来ている事に気付き、
すぐに自身の身を案じた。
「何だアレは!?あんなヤツらがここまで来たら僕も襲われる。
早く逃げないと。」
しかし起きたばかりで思ったように体が動かず、
間もなくして男性達が僕の元にすがり付いて来た。
「助けて下さい!!僕達、めちゃくちゃ弱いんです!!
非力だし、頭も悪くて・・・どうしようも無いんです!!
お願いだから、何とかしてぇ~。」
それはあまりにも情けないお願いだった。
しかし、僕にどう出来るわけが無かった。
魔物達はすぐに追いつき、やがてその中のリーダー格と思われる
二足歩行で猪の姿をしたオークが喋り出した。
「ブヒヒ、お前もこいつらの仲間か。ならば一緒に食ってやるぞ。
さぁ、お漏らしするなら今のうちだぞ?」
僕は突然の事に驚きながらも、事の重大さをすぐに察した。
このままでは食われてしまう。
それならば何の抵抗もせずにいるよりもせめて、一矢報いたい。
いや、そもそもこんな理不尽な事が突然降りかかるなんておかしい。
もしかしたら僕はこの世界で特別な力を持っているんじゃないか?
いきなりワケのわからない世界に連れて来られてすぐ死ぬわけが無い。
そうだ、きっと僕はこの夢みたいな世界の主人公なんだ。
僕は妙な自信を持ち、恐れていないと言う事を示す為に虚勢を張った。
「お漏らしなんてしないよ。お前の方こそ、僕が怖くないのか?」
内心ガクガクでブルブルだったが、精一杯に強がった。
するとオークは感心したように言った。
「ほぅ、お前はまだ『マゾ化』していないのか。珍しいな。
まぁしかし、俺様の一撃ですぐにマゾ化させてやるぞ。
そら、軽い挨拶だ。」
そう言うとオークは間髪入れずに僕にストレートパンチを喰らわせた。
「ぶふぁあ!!」
モロに顔面に入り、強い衝撃と痛みを伴い3m程後ろに突き飛ばされ、
鼻血がダラダラと噴き出た。僕は仰向けに倒れてしまった。
痛い。もう無理だ。
やっぱり、こんな化物相手に勝てるワケが無かった。
僕はオークを挑発した事を後悔した。
オークが僕の顔を上から覗き込んだ。
「どうだ、マゾになったか?
助かる為なら、町の方に行って女達の前で裸踊りでも何でもして
命乞いをする気になったか?」
町に行って女達の前で裸踊り?冗談じゃない。
だけどもしそれを拒めば次の一撃が来るのだとしたら・・・。
僕は・・・いや、でも・・・
『は、はいぃぃ、マゾになりましゅぅ~。
町で女の子達の前で情けなく裸踊りしましゅう~』
と、口に出そうになったその時だった。
「ギイィィィン!!!!!」
剣戟が一閃、宙を舞ったかと思うとオークの肩が真っ二つになった。
「ぐ・・・がぁ・・・お前、・・・女剣士か!」
見るとそこには長い銀髪を靡かせた女性の剣士がいた。
突然現れた銀髪の女剣士
「私が来たからにはもう大丈夫だ。
こいつらは私が一掃する!」
そう言うと女性剣士はあっという間の剣戟で他の魔物達を蹴散らし
フゥッとため息をついた後、僕の方へと近づいた。
「災難だったな。ん、その怪我?
お前、まさか魔族と戦おうとしたのか?」
「あぁ、あそこの男の人達に助けを求められて、
武器も何も無いけれどやられるくらいなら何かしようって。」
「こいつは驚いたな・・・。
まさかお前、まだ『マゾ化』していないのか?」
「え、マゾ化?そう言えばさっきオークも言っていたな。
その『マゾ化』って、何なんですか?」
「何と!この時代にマゾ化を知らない者がまだいたとはな。
2038年の核戦争により現世と魔界の扉が壊れてしまったんだ。
そこから魔族達が現れた。」
(2038年!?と言う事はここは未来の世界なのか?)
「核戦争で武器を失っていた人類は肉弾戦を挑むしかなかった。
だが、勝てないと悟った男たちは戦うのをやめて『マゾ化』したのだ。」
えぇえ!?勝てないとわかった途端にマゾ化するって弱過ぎないか?
でもさっき僕もオークにやられた時、マゾ化しかけたな・・・。
「ヤツらの纏う瘴気は不思議と男をマゾ化させてしまう力があるんだ。
もちろん単純に圧倒的な強さの前に屈服するのもあるのだろうが、
それ以上に何か『マゾ化』にこだわっている意思を感じるんだ。」
「『マゾ化』にこだわる・・・?
男達をマゾにして何をしようとしているんだ・・・。」
「その真意を魔族達の長に確かめに行かねばならない。
しかし魔族の長の住むであろう場所は魔族がうようよいる。
そこで我々女性のうち有志の者でヴァルキリー隊を結成した。
銃等の複雑な兵器は再現不可能だったから、精錬技術を復興させて
訓練を積み剣技で対抗する事としたのだ。」
「わざわざ魔族の長の所になんて行かずに、
人里に現れた魔族だけを相手していればリスクも少ないのでは?」
「男達がマゾ化してしまい、出生率がほぼ0になったんだ。
更に魔族の中には人間の女性との交配を試みている者もいると聞く。
これは人類の存続を賭けた戦いなんだ。」
僕が見ているこの夢のような、だけど覚める事の無い不思議なこの世界は
とんでもない事態になっているようだ。
だけど、こんな世界で僕は何をすれば良いんだろう。
少なくとも戦う事は無理だ。オークの一撃でマゾになりかけた。
しかし、女性剣士は言った。
「是非、私達と一緒に戦って欲しい。
魔族達の長は自らの元に人間を招き入れる際に
男がいる事を条件とした呪いをかけているようなんだ。
だから、マゾ化していない男が必ず必要なんだ。」
「そ、そんな!だってさっきオークに一撃を受けた時、
マゾ化しかけたって言うか、もし貴女が助けてくれなかったら
多分僕はマゾ化していた・・・。」
「だけど、結果的にはマゾ化しなかった。
大丈夫だ。私達が責任を持って稽古を付ける。
マゾ化していない男は本当に貴重なんだ。
頼む、この通りだ。」
そう言うと女剣士はスカートの裾を少し上げて太ももを露わにした。
「って、えぇえ!?ソレってどういう・・・えぇえ!?」
「マゾ化していないのなら、こういう事に興味があるだろう。
そもそも私達女だってマゾ男ばかりで辟易としているんだ。」
僕は俄然やる気が出て、すぐに二つ返事を返した。
「ありがとう。では早速我らの村に向かおう。
そうだ、私の名は『銀河ひよる』だ。
北欧神話のヴァルキュリアにもヒヨルスリムルというのがいてな。
運命みたいなものだと思っている。」
「そっか、凄いね。本当に運命みたいだ。
僕はみぎゃー。よろしくお願するよ。」
こうして僕はヴァルキリー隊のひよるの仲間になり、
彼女の村へと向かう事になった。
僕の後ろでは三人のマゾ男性達がまだ魔族への恐怖から
ワンワンと泣き喚いてお漏らししていた。




