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1・腰抜けエルフ

ぼんやり異世界短編です。

恋愛要素は少なめ、全四話完結。

よろしくお願いいたします。


 今、エルフの森は少子化問題に直面している。


人族との戦争に敗れ、森に引き篭もって早くも二百年が経つ。


戦いで散った戦士たちや焼き払われた村が多く、エルフの数は全盛期の半数ほどに激減していた。




「なあ、クィスマ。 お前も宴には行くんだろ?」


狩りからの戻りらしい二人組の男性エルフが森の中の道を歩いている。


「あー、交流会か」


人口の減少に危機感を抱いた長老たちが多種族の独身者を集めて、婚活のための宴を計画していた。


狩猟を生業なりわいとする二人のエルフは、濃金の巻き毛のイーイロと、薄い金色で真っ直ぐな長髪のクィスマ。


二人とも当然のように独身であり、当然のように決まった相手などいない。


「なあなあ、人族の女の子は良いらしいぞ!。


こう、柔らかくて、素直で、可愛くてー」


イーイロが顔を赤らめ興奮した様子で喋っている。


「高慢ちきで俺たちを見下してくるエルフの女どもと違ってさ」


今度は憎々しげに顔を歪めた相棒にクィスマは苦笑を浮かべる。


「イーイロ、止めとけ。 どこで誰が聞いてるか分からんぞ」


エルフは耳が良い。


特に悪口には耳ざといので、気を付けるべし。  


何かあってからでは遅いのだ。




 深い森の中央にあるエルフ族の国。


「お帰り、クィスマ、イーイロ」


「ただ今、戻りました。 これをお願いします」


二人組エルフは係の女性に狩ってきた獣を渡す。


エルフの国では今、役割分担の上、協力して働き、配給で生活している。


「はい、確かに。 もう食事の時間だよ」


狩りや採取の成果を渡せば配給物資を受け取るための札が貰える。


「ありがとうございます」


二人はそれを受け取って食堂に向かった。




 薄いスープを掬いながらイーイロは口を尖らせる。


「あーあ、結婚すればもう少しマシな食事にありつけるのにさ」


「仕方ないさ。 既婚者には子供をたくさん作ってもらわないといけないからな」


結婚すれば家族単位で配給があり、住む家も与えられる。


クィスマたち独身男性はひとまとめにされ、寮に複数人で一部屋という雑な扱いをされていた。


「あら、アンタたち、また一番安い定食?」


食堂に入って来たばかりの三人組の女性が彼らに絡んでくる。


手に持つ配給の札は高級札だ。




 配給の札にはそれぞれ段階があり、働きに応じた分が貰える。


既婚者や女性たちにはいつも優先的に良い狩り場が与えられていて、獲物も多い。


というか、ぶっちゃけ二人の男性エルフが狩ってくる獲物などたかが知れていた。


貰える札もごく普通か、それ以下の日もある。


独身男性には厳しい環境だ。


だから婚活をがんばれということらしい。


「何でもいいだろ、俺たちに構うな」


イーイロは知り合いの女性たちに顔を顰め、食事をかき込んだ。


いつものやり取りである。


「お先に」


揉め事が嫌いなクィスマは早々に席を立つ。


「ふんっ、戦いで死ねなかった腰抜けのくせに!」


背中に浴びせられるあざけりもいつものことだ。




 二百年前の戦争で生き残ったエルフの戦士たち。


「勇敢なエルフ族の戦士は死んだ者だけ、ってか」


クィスマたちをはじめ、今の成人男性はいくさで生き残ったというだけで腰抜け呼ばわりされる。


「俺たちが配属されていた所にたまたま敵が来なかっただけなのに」


と、イーイロは愚痴をこぼす。


 戦争時クィスマたちはまだ新米で、配属された部隊は激戦地とは違う場所だっただけ。


そんなことは言わなくても皆、分かっている。


それでも彼女たちは言わずにいられないのだろう。


今は圧倒的に男性が足りない。


単に独身男性との接点が欲しくて構ってくるのだ。


なのに、イヤミしか口から出ないのは何とも言えないが。


「はあ、女って邪魔臭いな」


クィスマはため息を吐いた。




 そして、ある月の明るい夜。


森と草原の境にある小高い丘の上に、宴の会場があった。


主催者であるエルフ族の長老が集まった男女の前で挨拶をする。


「皆、自由に飲んで踊って、語らってくれ。


ただし、節度は守ってくれよ?。


次もまた宴を開催出来るようにな」


何かが起こって悪評がたてば参加者が集まらなくなる。


一応、年嵩としかさの者たちが目を光らせてはいるが、酒が入り興奮する若者に自制は期待出来ない。


その場合は強制的に排除することも参加者には周知されていた。




 エルフ族、人族、獣人族に妖精族など、様々な種族が参加している。


婚活を謳ってはいるが、交流会という名の通り、異種族間の親睦をも狙っていた。


その会場付近は魔法無効の結界が張られ、魔道具類の持ち込みも禁止。


当然のように魅了などの心を操る魔法を使う奴が出るからだ。


 楽しげな音楽と食欲をそそる屋台の食べ物の匂い。


赤々と燃える焚き火に照らされた男女の影が楽しげに揺れる。


クィスマは隅のテーブルに座り、手に持ったカップを時々口に運びながら、それらをぼんやりと眺めていた。


友のイーイロはさっきから人族の女性たちに声を掛けまくっている。


しかし、うまく喋れずに肩を落とす姿が見えた。


「何やってんだか」


大の大人を心配しても仕方がないので見て見ぬフリをするのが正解だと分かってはいるのだが、つい目で追ってしまう。


ああ、また振られたな。




 宴はそろそろ終盤に差し掛かっている。


「ん?」


クィスマの耳が何かの音を拾う。


「チッ」と舌打ちをして席から立ち上がった。



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