第四十四話 新たな刃
アマト研究所の地下ドック。日夜、さまざまな技術の検証や新型WDの開発が行われている、部外者お断りの、厳重に警備されている都の秘所。
そんな場所に、アタシの相棒である黒鋼の機体は鎮座していた。四肢は装甲下の回路が焼け焦げているし、コクピット周りは金属疲労で変形してしまっている。あげくに各部のフレームやバーニアも半分ほどが溶け落ちてしまっていた。
ぶっちゃけてしまうと、〈カロン〉はぶっ壊れていた。なんなら中破と言って差し支えないレベルで。
理由はわかっている。WB〈朱雀〉との合体による機体各部への金属疲労と、限界を超えた出力でマナを使用・放出した代償だ。
ローブ姿の怪人が呼び出した巨大骸骨〈ザッハーク〉との戦いの後、〈朱雀〉はどこかに消えた。そうして合体が解けると、〈カロン〉は火花を散らしながらこの状態になってしまったのだ。
「はぁ……。早く直らないかしら」
「まったく、誰のせいでこの子がこうなったと思っているのよ? えぇ?」
機体の前で体育座りしてむくれていると、眉間にシワを寄せたアルマが近づいてきた。
先ほどの作戦会議の後で少し休憩してきたらしく、半分くらい減ったアイスコーヒーの透明なプラカップを片手にブラブラと揺らしている。
「仕方ないでしょ。ああしなければ、アタシたちも負けていたし、この街も吹き飛んでいたんだから」
「それはそうだけど。直すこちらの身にもなりなさい」
「というか、直るの? ロストテクノロジーの塊なんでしょ、この子」
遺跡の地下で出会ったところから薄々気づいていたが、この一年間の解析で、〈カロン〉を構成する技術体系は今の世界のモノとは大きくかけ離れていることが解っている。
アルマの技術力と科学的探究心は、アタシも一目置くところだけれど、未知の技術に対してどこまで通用するのかしら。
「直る、というより直すわよ。私のプライドに賭けてね。幸い、解析してきたおかげでスペアで使えそうなパーツも見繕えたから、取り寄せ済みよ」
「そっか。なら頼むわ。にしても〈カロン〉がこうだと、今回の合同作戦はどうしようかしら」
量産機である〈ヨロイ〉に乗ってもいいが、それであのシンやフェン、他国のパイロットたちと対等に動けるかは怪しい。十中八九、彼ら彼女らも専用機を持っているはず。
「ふふふ、それについては心配しないでちょうだい。こんな事もあろうかと、ハルカに乗ってもらいたい機体を用意してあるの」
「アタシに?」
「付いてきなさい」
どこかに歩き出すアルマの背中を追っていくと、地下ドックの中でもさらに限られた人間しか立ち入らないあるドックの扉に着いた。
ここは、秘された地下研究エリアの中にあって更に深く隠された超特別ドックだったはず。
なんでそんな事を知っているかって? そこら辺に残る人の残したマナの残滓から読み解くのなんてアタシには朝飯前。
ともあれ。それだけの特別な空間で、その機体は静かに眠っていた。
全身を包むのは石灰色の装甲。両肩と腰には多数の武装を懸架できるマウントラッチが備わり、脚部のブースターはかなりの出力を期待させる。複数の角を持つ頭部の意匠は、武者鎧のようにカッコいい。
極めつけは、背中の翼のようなパーツ。WDを稼働させるためのマナ動力炉に似た円錐形のエンジンを左右一対、追加で積んでいる。
「これはなかなかの……。モンスターマシン過ぎない?」
「まあ、貴女なら見ただけで分かると思っていたわ。お察しの通り、この子はトリプルコア、つまり動力炉三つを使う化け物WDよ」
「え、国でも滅ぼす気???」
通常、WDの動力炉というのは一つ駆動させるだけでもコントロールが非常に難しい。調整を誤れば、パイロットのマナを限界まで吸い上げて最後は臨界を迎えて爆発する。そして、その威力は並の爆弾など比にならない。それをまさかの三つ接続。正気とは思えない。
「そんな訳ないでしょう。だって、ハルカのマナ量を受け止め切って十全に回そうと思えば、これだけ必要なのよ。〈カロン〉からの逆算で三つならなんとかなるわ」
「…………アンタほどの人間がそう言うなら。信じるわよ」
「わかれば宜しい」
満足そうなアルマに引きつつ、仮とはいえ新たに相棒となる機体にワクワクしていたのも事実だった。
そういえば。
「この機体の名前ってなんなの?」
「名前か。そういえば、ずっと試作機として扱っていたから、正式名称はないわね。好きに呼んだらいいんじゃない?」
ふぅむ。そう言われてしまうと悩むけど、そうね……。
脳裏によぎるのは、武器としてのWD、アタシと共に戦場を駆ける新たな刃。
「うん……決めたわ。この子の名前は〈ミクサギ〉。一時とはいえアタシの新たな剣になるのよね。よろしく!」
静かに鎮座する試作実験WD、いや〈ミクサギ〉を見上げる。ここまで乗ってきて〈カロン〉の底力は知れず、そのスペックに頼る場面も少なくなかった。なればこそ、今のアタシ自身の力をフルに使ってみる絶好の機会だ。
「しょ、所長ー!」
「あら、どうしたのかしら」
そうして話もひと段落したところで、急に扉の向こうから研究員の一人が飛び込んできた。
「そ、そのっ! クイナ国とコナハト皇国のお二人が腕試しだと言って、演習場に行ってしまわれたんです! と、止めてください!!」
「なんだって???」
ほほう。なにやら、面白そうな展開になってきたじゃない。
あの二人、なんだか良い雰囲気だったのに。いやどちらも脳筋そうだったし、相性は間違いないのかしら。
「ともあれ、さっそく出番みたいよ。〈ミクサギ〉」
新しい相棒を見つめながら、アタシはニヤリと嗤った。




