第四十三話 共同作戦、らしい
「あら。不可思議な組み合わせでお出ましねえ」
「博士はコイツのこと知ってるの?」
「人のことをコイツ呼ばわりとは失礼な奴だなオイ」
研究所に着いて応接室へ通されるなり、意外そうな顔のアルマに出迎えられたアタシたち。今日も今日とて、きっちり黒いスーツに身を包んでいる。彼女こそがこの〈アマト〉中央技術研究開発機関所長、アルマ=デイライトだ。
道中で出会ったクイナ国の男だが、正直ここまで付いてくるとは思っていなかった。なんだかんだで別れることもできずに、ここまで来てしまったのだけれど。
「まあ、手間が省けて良かったわ。今日は彼で最後だったのよ。ねえ、クイナ国技術検証部隊指揮官、キョウ=シンウォン殿?」
「ご存じってわけかァ。そりゃあそうだな、身分証明は済ませてるんだしよ。まっ、気軽にシンって呼んでくれや」
マジか。この粗野な雰囲気のクイナ人がまさか、いわゆる試験部隊の隊長だなんて。人はホントに見かけによらないわねえ。
試験部隊とはすなわち。新技術や機体、戦術など多岐に渡る慣れない物を慣れさせたり、改善点を見つけたりする役目を持つ部隊のことだ。かなり気も使うし、頭も回らなければ務めることはできないだろう。
つまり、それだけこのクイナ人の男は切れ者だということになる。
「なにジロジロ見てやがる、アマトの女」
こんな喧嘩腰の人間が隊長ねえ。人を仕切れるような脳みそあるのかしら。
「いいえー? ただ意外だなーと思っただけよ。クイナの隊長サマ?」
「ァ?」
「なんなのよ」
「ふ、二人とも〜。やめなよ〜」
シャルに嗜められるのも構わず、アタシは男と睨み合う。む、目を逸らさないとは……。良い感情をしてるじゃない。たいていの人間はアタシと目が合うと、視線を外すのに。
奇しくも、目をまっすぐ見られたのは、姉さんとシャル以外だと初めての経験だった。
「あー、こほんこほん。情熱的に見つめあってるところ悪いけど、良いかな二人とも」
「誰かこんなやつを!」
「こっちこそ願い下げだクソが!」
フフフ息ぴったりだねとうざったい半笑いを浮かべながら、アルマ所長は手元のキーボードを弄って、アタシたちの前に半透明のウィンドウを呼び出した。
そこに載っていたのは、アタシが〈ザッハーク〉と戦った場所の地図。激闘の末に地形ごと変わってしまった巨大渓谷の見取り図だった。地図上には赤い点でマーキングされたいくつかのポイントが示されている。
「ハルカ君とシャルロッテ君は知っての通り、ここで行われた大規模戦闘。その影響で、元より不安定だったこの砂漠地帯のマナ流脈の動きが活発になっているんだ。そこで今回は合同軍事演習という名目で、各国の部隊一つずつに集まってもらい、実地調査を行いたいと考えているのさ」
合同演習か。他の国と一緒に作戦行動を取るとは、保守的なアマト国としては珍しい方針だ。それだけ、今回の事件への対策を取ることを重視しているわけか。
ん? 各国ということは……。アタシたちと、このクイナ国の男以外にも、他国からの参加者がいるってことかしら。
「おんやぁ? もーう会議始めちゃってるのかにゃあ?」
応接室の扉が開いたかと思えば、新たな人物が入ってきた。女性ではある。だが頭部にはピコピコと動く猫科動物の耳、尾てい骨のあたりからはしなやかな尻尾が垂れ下がっていた。野生みあふれる鋭い目つきはまさに肉食獣を連想させた。
「獣人……」
「珍しいかにゃあ、お嬢ちゃん。まぁ、うちらはたまーにしか自国から出ないからねえ」
存在は知っていたが、確かに珍しい。なんでも遥か大昔に獣のマナと共鳴することで強靭な肉体と野生の戦闘力を手に入れた種族だとか。
どういう術式を行使すればそのような奇跡が起こせるのか興味がないと言えば嘘になる。
前世でも妖に乗っ取られて融合した人間なら処置したことはあるが、意図的に獣と混ざるとは面白い。
「こほん、本題に戻ってもいいかしら。紹介させてもらうわね。彼女も今作戦に参加するメンバーの一人、コナハト皇国の第三皇女・フェン=ヴァナルガンダルブ=ウールヴズよ」
なんと皇女さまとは。そんな高貴な身分のはずの彼女が、なんでまた、他国の島国で行われる調査作戦なんぞに参加するのかしら。なんともキナくさくなってくるものだ。
裏があるということかしら、この作戦。
そんなアタシの疑念など知るよしもないフェンは、ススッとシンの横に移動したかと思えば、あり得ないぐらい体を密着させて話を聞き出した。なんだこの女。
「引っ付くんじゃねぇよ、お姫サマ。はしたないぜ」
「ふっ、強いオスに惹かれるのは当然じゃないかにゃ? 触れるとよりわかる。あんた、相当鍛えてるでしょう。肉体も、魂も」
「……余計なお世話だ」
さすが獣の魂を宿す者だ。嗅覚が優れている。特に魂にまで言及するとは、この女ナニと融け合っているのかしら?
確かにフェンの言うとおり、シンから感じるマナの流れはとても特異だ。自然界の物には違いない。けれど、それでは説明の付かない奥深さを感じさせるマナ。少し、少しだけ魂の外殻に触れるくらい、なら―――。
「…カ、…ルカ、ハルカ!!」
「ふぇっ!?」
突然耳朶を打つシャルの甲高い大声。急になによと視線を周囲に向けると、他の三人ともが呆れた顔でこちらを見ている。どうしたのかしら。
「いくらなんでも説明中に寝ちゃうのはマズいよ〜」
ね、寝てないわよアタシ。ただ魂へのアクセスを試みただけで、いや、その刹那に意識が飛んでいたか? くっ、マナの消耗がこんな事にも影響を与えているとはあな悔しや。
いや意識を現実に戻さないと、いい加減にアルマに大目玉を喰らいそうだ。目がマジである。
「はあ、まったく話の腰を何度も折らないでよね。とりあえずは伝えたとおり、先日の戦闘で生まれた大峡谷の調査というのが今合同作戦の内容よ。最後に飛ばしておいたドローンが捉えた現地の画像を見せておくわね」
そう言ってアルマが映し出したのは。
「なによこれ」
大峡谷と化した平原の深く抉れた谷間、そこで、異形の鋼が蠢いていた。巨人と呼んで差し支えないサイズの大量の骸骨型WBが。




