ギルド
「旅人の集い」はメンバー総勢十人といった小規模ギルドだ。歴史としては一週間である。
「旅人の集い」のリーダーであるリクラスは高校入学初日に、新たな交流の場として立てたのだ。
「旅人の集い」ギルドにて今この場にいるメンバーの自己紹介が終えたところだ。
ツミルにとって彼らのキャラネームを覚えるのは簡単だっだのだが、リアルネームを言われても誰が誰なのか分からない。
「で、土方君もギルドに入るの? ナナミ的にはぜひ入ってもらいたいよ」
青髪栗毛の女の子は言う。彼女のアバターの名前はナナミ。リアルネームは笠松七美であり名前をそのままキャラネームにしている。
「まともなゼロフレンドプレイヤーって結構需要があるんだ。なんたってほんんどゼロフレンドがプレイヤーキラーだからな。信用できる奴がいない。だからこその勧誘ってことだね」
針山のようなボンバーヘッドの女の子アバター、ハリュカはツミルがプレイヤーキラーではないことを疑っているようすがない。ハリュカのリアルネームは橘晴輝。男である。
「ちょいまち、ゼロフレンドのままにするってなると【bestfriend】作れないじゃんかっ」
槍持つ赤髪の青年はセト。彼は【bestfriend】のチュートリアルでは説明されなかった効果狙いでツミルとフレンドになりたがっている。リアルネームは斎藤忠康。
「斎藤。仮にフレンドなれて【bestfriend】になれたとしても土方が【favoriteskill】に【月光狼】を選択するとは限らない」
一人壁に背もたれていた黒い長髪を後で纏めた少年はリミット。リアルネームは長谷川里美。本体は女性だ。
「何のことかしらと不思議そうなツミルちゃんに一言いいかしら。【bestfriend設定】って項目でお気に入りのスキルを設定できるのよ。そのスキルは【bestfriend】に選択された人も使えるようになるのよ」
銀髪ツインテールの女の子アバターは白装束に両手剣を装備している。名前はヒメウサギ。リアルネームは姫里兎。
「うんうん、楽しそうで何よりだよ」
リクラスは他五名の言葉攻めに合うツミルを見て満足そうに呟いた。
ツミルは言葉を出せず硬直している。その様がキャラ作りと思われ一言も発声させず彼らとコミュニケーションを取るうちにギルドに入る流れになってしまう。
***
ツミルは思う、この仮想空間はゲームの世界なのだと。そこで紡ぐ絆は相互利益によって繋がったものだ。それは現実でも変わりはないだろう。人と人とが無条件で分かり合えないのなら、ゲームであっても同じだ。共通点があったところで相互利益がなければ友情なんてものは成り立たない。
ツミルと彼らとの間にある相互利益は何を示すのかと言えば、ゼロフレンドであるという事実が大きい。もちろんゼロフレンドプレイヤーでなくと彼らはツミルをギルドへ迎えるだろう。
友人でもなくフレンドでもない、ツミルは彼らとは形としての仲間になったのだ。それはツミルが求めた友情とは少しずつ違う。彼らと行動を共にすれば親友ができるかも知れないと微かな期待を胸にしまう。
***
【大盗賊の洞窟:上層:中級区】にて【旅人の集い】メンバー七人、リクラス、ナナミ、ハリュカ、セト、リミット、ヒメウサギ、ツミルは交戦中だ。
敵は【岩の虚像】,乱雑に組み合わされた岩の塊であり、岩に攻撃するたびに体の面積を増やしていく。【大盗賊の洞窟:上層:中級区】においてボスクラスのmobモンスターだ。
「おらっ」
針頭のハリュカは鎖で繋がれた鉄球を体ごと大きく振り回し、虚像へと投げつけ当たると同時に鉄球に繋がれた鎖はハリュカの元へと吸い込まれるように戻っていく。
「【鎖魔法】取るためにSTR捨てたせいですごい微妙なことになってるぞ!」
槍使いのセトは言いながらハリュカを横切り槍の先を虚像へと向け突進する。セトは彗星ごとくの一撃を【岩の虚像】の右足へと喰らわすと岩の体にひびが入る。
直後、【岩の虚像】は右拳をセトへと振りかぶる。
「【魔法障壁】!」
ナナミは杖の先についた水晶の球体を輝かせ、高らかに叫ぶ。
【岩の虚像】の一撃は【魔法障壁】により威力を殺され、岩の塊はセトを襲う。ほとんどダメージはないが微動な衝撃は残り、セトは尻餅をつく。
「斎藤はダサいとう」
リミットは【岩の虚像】の右足のひびに装備している短剣を突きつけると虚像の右足は力を失いただの岩と化した。
【岩の虚像】はバランスを崩し倒れる。岩の両腕を使い上体を起こすと左腕を青く輝き始めた。
「させないわよ。【星砕き】っ」
ヒメウサギは両手剣を赤く光らせると【岩の虚像】の左腕を切り落とす。
「【双刀幻舞】っ」
残像を作り出し、踊るようにリクラスとその残像は岩の虚像へと二刀の刃を切りつける。計四本の刀が同時に切りつけたように見えるほどの速さだ。
【岩の虚像】が纏った岩は切り落とされ、内部から光る結晶の様なものが露になる。
「ラストはお願いね。土方君」
リクラスは動きを止めると笑顔で言う。
ツミルは心のなかで【スパークウィップ】と念じると、装備している真紅の鞭は青白い電気を帯びる。【岩の虚像】のコアと思われる水晶に向けて鞭をしならせた。
ツミルと【岩の虚像】との距離は十メートル程あり真紅の鞭が伸びきったとしても届かない。真紅の鞭は波をうち地面へと叩き打ち付けられると纏っていた電気は地面から【岩の虚像】のコアへと流れる。
青白い電気を帯びる水晶はその輝きを失い崩れるように粉へと化した。
「おおっ、さすがレア装備のエクストラ効果だな。攻撃範囲拡張だっけか? それが槍じゃなかったら足を舐めてでも譲ってもらいたいものだぜ」
「セトは気持ち悪いね」
ハリュカは横目にセトを見る。
「ナナミ的にはネカマの晴輝くんがきもいと思うな」
「橘が気持ち悪いなんて言うたちばない」
「キャラ作りに必死なリミちゃんに一言いいかしら、そのセンスがないギャグトークキャラより、無口でクールでシャイな少年盗賊的なのほうが似合ってるかしら」
おっとりおねぇさんな雰囲気を醸し出すヒメウサギ。
「えっ、そんなっ」とリミットは幼げな美少年の顔を不安げにすると視線を泳がす。ツミルと目が合うと必死に考えながら声を出す。
「土方はひ、ひ、秘事に? か、肩を持つよな?」
ツミルはどう答えればいいかわからない。モンスターを狩り終えた瞬時に盛り上がる彼らに着いていけず、ツミルは孤独感を感じていた。
ツミルが沈黙しているとリクラスはリミットの肩に手を置き、哀れむような視線を送る。
「リミット、君はよく頑張ったよ」
「そうそう、ナナミ的には一里塚さんのキャラ作りが一番だなって思うよ」
「それ、フォローになってない」
「そう落ち込むなよ。俺も似合わないキャラのせいで毎回いじられてるんだよ」
「謝るな。これが里美のリミットだったんだ」
「それよりもツミルちゃん、何かドロップしたかしら?」
ヒメウサギはにっこりと質問する。
リミットは渾身の発言をスルーされ他のメンバーに視線を送る。「ナナミ的にはよくわからなかった」「君は君のままでいいんだよ」「キャラ作りも大変だなっ」「俺はリミットの見方だよ」と言葉が帰って来た。
一方、ツミルとヒメウサギ。
「えっと、【虚像の魂】をドロップしてます」
視界に道具一覧を展開して、ヒメウサギと視線が会わないように告げた。
「何で目をそらすのかしら?」
「ナナミ的には照れてるんだと思いますよ」
「里美的には姫里が怖いから?」
「ヒメウサギが単に嫌われてるだけじゃんとセトは思ったでござる」
「もしかしてさ、この中でまともなのって俺なんじゃないか?」
「リ、リク、んんぅ。私はヒメウサギに落ち度はないと思うよ。ツミル、私たちは仲間だ。距離感を掴めないなら自分の振る舞いたいようにしろっ。たとえ、どんなキャラだとしても私は受け入れる」
ツミルの孤独感の正体は彼らとの距離感である。同じ世界で上下関係もないはずなのに、近くにいるはずの彼らとツミルの間には見えない壁のようなものが存在する。
「あー、えっと、無口キャラじゃ駄目かな?」
ツミルは逃げの姿勢で少しだけ自分を表に出す。
「口を開いてる時点で無口ではないが、キャラぶれ仲間もいることだ。不安なことなど何もないぞ」
「キャラぶれ……」
リミットはため息をすると、ツミルを見つめる。
「同士よ」
手を差し出される。握手を促していることはわかる。
今まで友好的な態度を示されたことが片手の指の数だけで事足りる充にとって、とても嬉しい出来事だ。
手を伸ばそうとしたそのとき。
「ナナミ的にも握手します」「【bestfriend】(仮)ってことだな」「俺はネカマだけど危なくないからな」「ツミルちゃんはキャラぶれたら駄目だからね?」「おいっ、私も握手したい」
ツミルはすでにギルドに向かい入れられている。彼らを見てそう思ってしまった。




