エピローグ
第12代の国王には、一人の弟があった。
彼の名は伝わっていない。なぜならば彼は王族として生まれながら継承権を放棄し、神官に下ったためだ。さらにその地位で倦むこともなく、王弟はよく王の助けとなり、また稀代の神官としてその長となった。
伝わるその名は情炎。第8代目の神官長。
情炎はそれまで連綿と受け継がれるだけだった、神殿に伝わる術を体系立てたことでも有名である。
それまで無秩序にただ伝わるだけだった術。それを整理し順序立て、あるいはまた無駄を省き術の構成にまで手を加えたと伝わっている。ただしそれは魔術師の範疇に入るのではないかと眉をひそめる向きもあるので、表立っては称賛されることはない。
情炎の名に恥じず、彼の存在は最初は火種だった。
国王と血を分けた兄弟であり、双子ということもあって王のその急進な方針に異を唱えるものたちからはむしろ次代の王に望まれた。
だが情炎は、それを避け自らすすんで兄の元に膝を折ったという。
火種であり続けながらその炎は国を荒らさずむしろ温めた。
だがまた、情炎の存在は悪しき風習をも生んだ。
王族でありながらその魔の素養から神官に下り、神殿を束ねる長となった彼に他意があったとは到底思えない。歴史にうずもれてその真意までは後世に伝わっていないが、だが欲望があってしたことでないのは確かだ。
だが全ての人間がそれほど高潔なわけではない。
彼の後、王族の中でも最も魔の素養に恵まれた一人が神官長となることが続いた。
それは誰が決めたことでもないが、不文律として、それは続いた。
結果として、大した素養もないのにむしろ王族から放逐された人材が、神殿を治める時代が現れた。それは情炎の時代から下ること数百年の後の事。
魔の素養は野心を生まない。野心はそれがないところに生まれるものだ。
カミナンドの王国を滅ぼした火種は、元を辿れば情炎の代に落とされたものとも言える。
それでも情炎が王の傍らにあった時代、王国は繁栄し平和だったことだけは確かなことだ。




