17.宵闇
信じたくないな、というのが、話を聞いた俺の率直な感想だった。
「‥‥貴女が宵闇の再来だ、と」
「再来と言うより本人ですが。受け継いだのは記憶くらいで、魔力は大分落ちましたけれどね」
信じられないわけではない。俺が神官というよりも魔術師であるのと同じように、彼女はどちらかといえば魔法使いだと感じていた。その名のこともあるし、宵闇のエン、あの大罪人とつながりがあるということは理解できる。
だが、信じたくはない。
彼女は宵闇のエンその人ではなく、エン(マール)・クルスとして生まれてきたのだろうに。これからはエン(マール)・エル・カミノと、少なくとも書類上は生きていくのに。彼女はそれを否定する。宵闇のエンとして、生きているのだと。
「‥‥そして貴女の侍女が、貴女の姫だと」
生まれ変わりというのとは少し違う、と彼女は言った。生まれ直したのだと。呪いによって己の身体を分解し、呪いによって再構築したのだと。そして今も昔も変わらずただ一人の為に生きているのだと。
これは、このひとには俺の言葉は響かないのだろうな、と思うと虚しくなって、俺は備え付けのソファに腰を落とした。信じたくはないが、真実だと解る。だからこそ虚しい。
「‥‥それで、貴女は何を考えている‥‥?
そんな、侍女の制服まで着て」
彼女は言った。王族に生まれたことも不本意なのだと。だがそのおかげで彼女の姫に、以前に差し出せなかった幸せを得てもらえるのだと、幸せそうに笑った。だがその呪いは、発動すればそういうことになるのだと気付かなかったのだろうか。気付いても考えなかった、というのが正しいのだろうな、彼女は、誰かに仕える者としては盲目的に正しい。
「これは、わが姫の身代わりですよ。
私が考えているのはわが姫の幸せそれのみです」
わが姫、と彼女は頻繁に口にする。甘く甘く、心底から仕えているのがよく分かる、一途な瞳で、他人から見える形はどうでもよいのだと、言いたげに。
「貴女は不倫を推奨するのか」
俺は何が一番気に食わないのだろうな。吐き捨てるような言葉の一つ一つに彼女は真摯に答えてくれるのに。
「いいえ」
「‥‥あぁ‥‥
そのために、兄上との婚姻を嘘にした、と?」
信じたくないが、理解したくもないが、おそらく完全に理解している俺がいる。分かってしまう自分に絶望する。俺と彼女はよく似ている。だからこそ近くて、はるかに遠い。




