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情炎の魔術師  作者:
Segundita
32/47

15.宴後

 一曲ではそこまでが限度だった。


 俺は彼女の手をとったまま、兄の前に歩を進めた。その手を差し出しながら、俺は初めて兄に言祝ぎを贈った。


「兄上」


「フエゴか」


「はい。

 ――お二方の前に、世界が平らかでありますように」


 それは祝辞だが、世界に刻んでいない彼ら夫婦に対しては、大層な皮肉になったかもしれないな、と、後から思った。もっとも兄は気にするまい。義姉はどうだろう。まぁ、気に病むなら病むといいさ、と少々の悪意でもって俺は笑った。



 宴は深夜まで及んだが、主役であるところの兄夫婦は、早々に辞していった。もっとも気にするものはない。政略であろうと新婚は新婚、その夜のことを思えばそう遅くまで拘束しないのが暗黙の了解というものだ。


 その分両家の親族が接待役となるものだが、こと俺に限っていえば、最後までいる必要はない、だろう。多分。確かに親族は親族だが、今の俺にそれ以上の立場はない。立身出世を夢見る彼らに俺に割くような興味はなかろうし、逆に大聖堂の片付けを口にしたところ恐縮されたので、あとのことは両親に任せることにした。


 口実に使った手前、大聖堂に顔を出したが、こちらでも恐縮されてしまった。申し訳程度に燭台だけ片付けて――俺が勝手に増やしたものもあったのでその意味もあって――、神官長に挨拶だけして俺は王城に戻った。


 戻り際、ふと思い立って兄の寝室に足を向ける。


 非常識なことは理解しているが、あの兄のことだから、おそらく事が終われば部屋を出てくるだろうと思われる。義姉が‥‥厳密には世界に誓っての婚姻はされていないので義姉と呼ばなくてもよいかもしれないが、まぁ法律上は婚姻が成立しているし、義姉でいいか。義姉がしたことの意味を兄は分かっているのか、その真意を知りたい。その一心で。


 流石に人目を憚って、義姉を見習って己に術を施した。まったく姿を隠すことはできないが、気にならない程度に存在を薄くすることくらいはできる。これはこの半年の間に構築した術だ。使い勝手がよさそうだと目にしたときに思ったが、確かにこれは便利がいい。重宝しそうだ。


 今夜くらいは見張りの一人は立てているだろうと思っていたのだが、予想に反して扉の前には誰もいなかった。豪放な兄らしい、と言えなくもないが、不用心ではないか?


 自分のことを棚に上げて眉をひそめた俺は、だが、扉の先に思いもよらなかった人物を見て、逆に変なところで用心深い兄らしいと思うべきだったか、と変なところで感心する羽目になった。

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