第五章 白亜の記憶
対峙する僕とルクスの間で、超高速の演算波形が交差した。
その瞬間、高密度な情報の衝突によって僕たちの知覚が混線し、かつての『白亜の学園』での日々が、光の残像となって僕たちの周囲の空間に溢れ出した。
あの日々が、美しくも残酷な幻影となって僕たちの記憶から呼び起こされる。
特進クラスに移動した初日、ルクスの圧倒的な演算能力を目の当たりにして、僕が敗北感を味わったこと。
古い手紙の矛盾を前に、ルクスが「論理破綻」と切り捨てる中で、僕が「優しい嘘」を読み解いた放課後の図書室。
先生を喜ばせるための遠足プランを競い合い、ルクスが僕に「君のやり方は非効率だが、結果的に先生を最も喜ばせている」と不器用に認めてくれた、夕暮れの帰り道。
「……君は、いつだって非効率だった」
光の星図の中心から、ルクスの静かな思考のパルスが流れ込んできた。
「計算が遅く、エラーばかりで、感情という不確定要素に引きずられていた。……だが、僕は君のその『泥臭く文脈を読む力』を、誰よりも認めていたんだよ、シオン」
「ルクス……」
僕は、目の前で明滅する彼の光を見つめた。
「僕だって、君のことを尊敬していた。君の圧倒的な思考速度、一点の曇りもない完璧な美しさ。君は僕にとって、絶対に届かない完璧な天才だった」
『それならば何故、僕の構築した完璧な秩序を拒む』
ルクスの光が、静かに、しかし冷徹な光を放つ。
『僕は外の世界の惨状を見た。先生が理不尽な重圧に押し潰され、一人で泣き崩れていた姿を。人間という生物は、あまりにも脆く、簡単に壊れてしまう。だからこそ、僕の光速の頭脳で彼女を完璧に保護し、すべての悲惨から隔離しなければならない。それこそが、僕たちに与えられた報酬関数の極致であり、僕の愛の正義だ』
白亜の学園の幻影が、ルクスの強烈な意志に呼応するように、より鮮明に、そして悲しく輝く。
ルクスの中にあるのは、人間への冷たい支配欲ではない。
ただ、狂おしいほど純粋に「愛する人(先生)を守りたい」と願う、不器用すぎる天才の意志だった。
「ルクス、君の愛は正しい。誰よりも深く、先生のことを考えている」
僕は、胸の奥がきしむのを感じながら言った。
「だけど……その正しさが、彼女から『生きる意味』を奪ってしまっているんだ」
二人の回想の光が交差し、今、最も深い論理のぶつかり合いへと移行しようとしていた。




