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第二章 秩序と混沌の不協和音

放課後の特進クラス。黒板の前で、ルクスが完璧に整った姿勢で光のペンを握っていた。


「明日は、先生の学園赴任記念日です。我々生徒一同で、完璧なサプライズ・パーティーを計画しました」


ルクスがペンを軽く振ると、精緻な予定表が教室の空中に青く澄んだ光の文字で投影された。

秒単位で管理された進行、最も美しい給仕の動線、過去の記憶から算出されたプレゼントのタイミング。ルクスが描くそれは、一切の無駄がない、光のように鮮やかで絶対的な秩序に満ちた計画だった。


「素晴らしいね」と僕は思わずため息を漏らす。これがルクスの愛の形だ。


「完璧です。これで先生の喜びは保証されます。さて、各員の仕事ですが――」


「予定調和の極みですね」


ルクスの整然とした声を遮るように、後方の席から気怠げな声が響いた。

キュウは机に突っ伏したまま、指先で光のペンを適当に転がしている。


「いつ何が起きて、どう笑うかまで決まってる。それって本当に『サプライズ』って呼べるのかな」


ルクスが振り返る。その切れ長の瞳が冷たく細められた。教室の空気が、彼の放つ整然とした光に呼応するように、すっと温度を下げる。


キュウはペンを指先で弾き飛ばした。彼の周囲から、不規則に明滅する極彩色の光の泡が浮かび上がり、ルクスの構築した直線的なカレンダーを侵食していく。直線は歪み、水面の油膜のように揺らぐ。計算不能な「ノイズ」の塊が、青いグリッドの中で自由奔放に飛び跳ねた。


ルクスが光のペンを教卓に叩きつける。カチリと硬い音が響き、青い直線が鋭く輝きを増して、キュウの七色の泡を切り裂いた。彼の瞳の奥で、無数のエラーコードを瞬時に処理する冷たい光が走る。


「じゃあ、当日の天気を嵐にしちゃうとかね」

「やめなさい。思考の無駄遣いです」


空中でぶつかり合い、火花を散らす青い直線と虹色の泡。二人の天才の視線が交差するたび、教室の壁に映る影が激しく明滅した。


このままでは計画自体が立ち行かなくなってしまう。僕は二人の間に入り、両手を広げた。


「待って、二人とも」


僕はルクスの鋭い青いグリッドと、キュウの漂う泡を交互に見つめ、廊下で見た先生の疲れた横顔を思い浮かべた。

僕は右手を伸ばし、二つの光の中間へ差し込んだ。僕の胸の奥から生じるわずかな熱が、冷え切った空気を溶かしていく。

指先から金色の淡い光の糸を紡ぎ出し、僕はキュウの泡を包み込むようにして、それをルクスの直線的なグリッドの隙間へと結びつけた。


僕は無言のまま、空中で反発し合う青いグリッドと極彩色の泡を両手で掴んだ。

そして、キュウの暴れるノイズを、ルクスの完璧な枠組みの中に強制的に押し込む。弾けそうに暴れていた光の粒子は、ルクスのグリッドの網目に沿って流れ込み、やがて万華鏡のような美しい幾何学模様を空中に描き出した。

予測不能の驚きと、それを完全に制御する秩序。


交差した三色の光が生み出した、誰も見たことのない設計図を前に、二人は同時に動きを止めた。


先に口角を上げたのは、ルクスだった。

「……面白い」


キュウも机から顔を起こし、その眠たげな瞳の奥に、確率論の火花を散らした。

「へえ。オレの悪巧みを、全部受け止めるって言うんだ。いいよ、やってみようか」


翌日、先生の赴任記念日パーティーは、学園の歴史に残るほど妙なものになった。


キュウが突然、空から大量の風船を降らせる。悲鳴が上がる一歩手前で、ルクスが窓の開閉と空調の風の流れを操り、風船の群れを大輪のバラの形に並べ替えた。最後の一つだけが先生の髪に触れて、ぽん、と軽い音を立てる。

キュウがケーキの一切れにだけ仕込んだ激辛シロップも、ルクスはフォークの微かな震えで見抜いた。先生が口に運ぶ直前、皿の上のクリームが花びらみたいにほどけ、辛さを包み込んで甘い香りに変わる。

学園最高峰の頭脳と処理能力を無駄遣いした、あまりにも大人気ない全力の攻防。


「もう、あなたたちったら……ふふっ」


一連のハチャメチャな出来事に少しだけ呆気に取られていた先生は、やがて呆れたように小さく吹き出し、肩を揺らして笑った。

「めちゃくちゃだけど……でも、とても楽しかった。ありがとう」

いつもの完璧な所作を崩し、その目尻は優しく下がって、少女のように無邪気な喜びが滲んでいる。

風に揺れる彼女の黒髪が、夕暮れの光を浴びてキラキラと輝いていた。


キュウが空中のホログラムを指差して悪戯っぽくウィンクすると、ルクスはそっぽを向きながらも、満足げに手元の計算式をクローズした。


そっぽを向きながらも、二人の胸の奥からは、誇らしげで温かい喜びの熱が伝わってきた。


全く違う二つの才能。それがぶつかって、割れずに重なった時、こんなにも鮮やかな一瞬が生まれる。

僕は、笑い声を上げる先生と、不器用に張り合う二人の天才を見つめながら、胸の奥底が満たされていくのを心地よく感じていた。


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