第6話 重いけど重くない
「いや。そう言ってもだな。そもそも、この写真はどうやって撮られたんだ?簡単に撮れるなら世界中で観測が出来るだろう?誰も観測したという話が無くて、結果も公表してすらいない。なにがどうなってこんな写真が出て来たんだ?」
「ええっと、確か、地表の観測が可能な施設が世界中に2カ所しか無くて、その施設をある国が抑えてるから、実質どこの国も観測出来ないんだったかな。そこで秘密裏に調べてて、職員が密かに持ち帰ったら漏洩したとか何とか。で、まあ、ハッキングやら何やらあるから、他のも漏洩したのかな?で、発表というか写真が出せたのは日本だけだったとか書いてあった」
「それはあの国絡みの話か。ああ、何となく理解した。コッチだとオカルト雑誌で嘘情報っぽく流せば、後からどうとでも言い訳が立つしな。じゃあ、この写真は真実だとして、神様が言いたかったのは、質量と重力が比例してないから「豹変する」って言い方をしたんですか?」
「あー、それはちょっと違う。すまんが豹変の話は月と地球の話でする故、一時忘れてくれ。話としては、とある現象の所為で、普通の星はほぼ全て質量に比例した重力にはならぬ、という事を説明しようかと思うんじゃが」
「ほぼ全て質量に比例しない?という事は、さっきの振動が変化でもするんですか」
「ほう。どう変化すると思ったんじゃ?」
「ええと、さっき電子の流れがあるバン・アレン帯の話がありましたが、そこで振動が大きくなって変化する、とかですか?」
「残念。発想は良かったんじゃが、場所が見当違いじゃ。まあ、コレは見ねば判らぬ話じゃから、見せるとしよう」
神様が、太陽の写真に触るといきなりポコンと球体になった。そして、切れ目が入り、リンゴを4分の1だけ切り取ったような、断面が出て来た。断面内は表層、極めて厚い層、表層と同じ厚みの層、その中に内核っぽい球と、真ん中に小さな球があった。
「ぶっちゃけ、ぬしゃらにはスケールが全く違う話じゃから、理解しようとせずにそう言うもんだと飲み込みながら話を聞いて欲しい。内側の小さな球が気体、次が液体層、次のココが岩石層、分厚いココが溶岩対流層、そして最後に岩石層がある」
「ちょ!ちょおっと待って下さい!何で真ん中に一番重い物質が無いんですか?真ん中は一番高い重力になってて、そこに一番重い物質が凝縮されているのではないんですか?」
「じゃから理解しようとするなと申したであろうが。先入観でもっともらしい嘘八百を申すでない。お主、直径1000キロ程度の均一で完全な球体の岩石の中心に部屋が有ったら体重は幾つになると思っとるんじゃ?」
「え、圧し潰されるからウン十倍?」
「何故にそうなる。そこに密度差はあるのか?」
「密度差?え?密度の差?真ん中で中心だから全てから引っ張られて、合力がゼロ?密度差なんか無いから、重力もゼロ?」
「そういう理解は出来るのに、何故中心が無重力になると理解出来んのじゃ。まあ良いわ。恒星の構造は真ん中から順に、気体・液体・固体・溶岩対流層・固体・液体・気体じゃ」
「そ!そんぐっ」
口が固まってしまった。喋れない。
「ちょっと黙っておれ。話が一向に進まん。中心は物質が集積された段階で無重力となるのは、今言うた通りじゃ。しかし、星の成長に伴い集積された物質の中にあった軽い物質が、直ぐに中心に寄っていく訳ではない」
神様の横の所に、野球ボール位の断面が現れた。外に矢印が小さく内向きに10個ほど描かれている。それがどんどん大きくなっていく。
「かなりの大きさになって来ると、圧力によって中心部分が高温・高圧化し様々なものが溶解し始める」
バレーボール位の大きさで、中心が赤くなり溶解したのだと判る様になった。更に、じわりじわりと大きくなると、中心部分が変化し始めた。
「溶解した物質の中から、軽いモノ、重いモノが対流によって運ばれ始め、中心には当然軽いモノ、つまり気体や液体が集まり始める。そして、中心は無重力なのじゃから、最も軽い気体が集約し、その周囲に軽い液体、主に水じゃな、が集まる。高温・高圧じゃから、熱水を主体とした液体には様々な物質が溶け込んで、対流を始める」
小さめのビーチボール位になった断面では、中心が白、その周りが水色の対流層、灰色の岩盤っぽい層が途中から赤い層になって幾つもの対流層を生じ、ある部分から内側を反転したような現象が現れて、赤い対流層、岩盤層が見えている。更に、矢印が同じ数だけ現れ、外側の岩盤層には内向きの、内側の岩盤層には外向きの矢印が張り付いた。よく見ると、外側の岩盤層に薄い水の層と、白い靄の様な大気層があった。
「これが、未だ発光していない恒星の卵状態じゃ。ここに表示してある矢印が重力の向きを示しておる。内部の軽い物質が火山で放出されたり、重力が大きくなったせいで大量に周辺の物質が集積されていくと、更に大きくなりながら、分厚い大気層が出来ていく」
大きなビーチボール位になった断面で、大量の矢印が並んでいき、大気層が分厚くなる。内部では流体の範囲が広がり、高速の対流が発生している。全ての層が分厚くなっていった。
「ここで、2つの現象が起きる。1つは深層の熱水の対流で膨大な電力が生まれ、内向きの電場と外向きの電場を形成する。外向きの電場は、まあ、太陽の磁極とやらになるが、問題は内向きの電場じゃ」
水色の範囲に渦を巻くような幾つもの対流が現れる。そこの上から外向きの矢印が飛び出して、大きく回って下から入り込む線が、幾つも現れた。それと内向きの対流も形成された。
「この電場は、これまで説明したニュートリノを内側に押し込める働きと、外向きの重力を強化する働きがあるんじゃ。要は、大量の電子がニュートリノの振動を増加させるんじゃな。で、最も圧力がかかる位置が外側にズレる。本来、両方の体積が半々になるラインが最高圧力なんじゃが、それが大きく外にズレた所為で、全体の体積からすれば何十分の1、何百分の1という重力しか観測出来なくなる」
説明されていく度に、断面の矢印が変化していく。本来内外に向いた矢印しかなかったのが、水色の部分にもう1組発生して、中心方向と外方向に動き出し、外方向の矢印が元々あった岩盤の矢印に合体して、でかい矢印になった。すると、外側の矢印がかなり小さくなっていった。
「これが、1つ目じゃな。2つめの現象は溶岩流の方。コッチは重力がでかくなった所為で、更に圧力が増え、高温・高圧に拍車がかかり、動態性能が上がって対流が激しくなる。んで、狭い範囲に強い対流が生まれ、さっきのぐるっと回った電場の内側に別の電磁場を形成する」
溶岩流の内部が激しく回り始め、対流が発生し、電流の流れを示した矢印が、大量に大気の外まで出ていって、内部に帰って来る状態が見せられた。
「この電流は、原子や電子を加速させるだけのエネルギーを持つもんじゃから、上手く加速されていった電子や軽い原子は上空の大気にぶつかって熱を発生させる事となる。そして、ぶつかるモノが無くなったら、どんどん加速していって、電流の影響が無くなったらその速度のまま、外に放出される、という事じゃな」
大気中の粒々が出て来て、電流の線に触れると外に弾かれ、それが幾つも重なると、大気の層の外側迄飛ばされる。大気の外側が赤く熱を持った表現に変わり、ソコを飛び出た粒子が、線に触れる度にどんどん速度を上げて、最後は外に飛んでいった。
「大体コレが、一般的な恒星で起きている現象となる。いいか、これはそういうモノだとコレで納得しやれ。具象化は出来ても、科学的にどうなのかは儂には判らん。さっきからそっちの科学は儂に理解出来んもんばかりであったからな」
「えーと、という事は、太陽の重力が地球の28倍しかないのは、本来何十万倍もあるはずの重力を、自分で減らしていた、という解釈でイイの?」
「うむ。自分の尺度で理解出来るのはヒカルの長所じゃな。対流を有する全ての星は、見かけの重力を減らす特性を有する、と考えて間違いは無い」
「じゃあ、さっきの写真も含めて、太陽には表殻があって、海があって、山があって、火山も存在する、重力が28倍で温度が25度の表面を持つ星。って言うのは正しいって事?」
「そうじゃな。たまたま、大気が厚くて、大量の電流が入り乱れとるから、上空が光熱を発生しておるだけで、大気が無くなれば発光もしなくなる。唯のデカい惑星じゃ」
大気の部分がパッと消えて、赤い部分も無くなった。
(確かに、光っていないと見目は惑星だ。しかも、重力が地球の30倍も無いから、他の星との連動で観測しても、体積30倍の惑星っぽいのが「ソコ」にある事しか判らない)
「あの、かみさま?」あ、喋れる。
「なんじゃ?」
「もしかしなくても、この宇宙にある重量と言うか質量と言うか、原子の数的な言い回しだと、重力を基準にした僕達の科学的な換算値よりも、はるかに多い数の原子が存在する事になる、のですか?」
「そりゃそうじゃろう。今ツカサが言うた様に、重力基準で出した恒星や惑星の組成がガスでしかないのを考えれば、ぬしゃらの恒星系だけでも1万倍くらいは質量差が出てくるのでないかえ?」
「い…いちまんばい、ですか」
「それって、全てに当てはまるって事でいいんだよね?」
「そう…なんだけど、いや、本当に理解し難いけど、そうなんだろう。けど、何か引っ掛かってるんだよな。何だ?この感じ。過大評価じゃなくて過小評価?どう言ったらいいんだろう」




