侵入と爆発
「―――」
思考が働かない。目の前の光景を否定したい。
「…………、か、和人」
自身の口から発せられるその声は、本当に自分の声か疑いたくなるほど空虚なものだった。
「あ―――」
「!」
目の前の光景が受け入れられず、ただ呆然としていると、和人が微かに声を発した。彼の肉体はすでに崩れ始めている。
「晴、明……」
「和人! お前……どうして……!?」
訳も分からないまま口にする。
俺の問いは和人は聞こえていないようだった。意識は薄らいで、うわ言のように呟いている。
「よかっ……た……あと少しで……―――ごめ、ん……」
その言葉を最後に、和人の体は灰となって周囲に霧散してしまった。
―― * * * * ――
家に帰って動きやすいジャージに着替える。
護身用にナイフを持ち出そうかとも考えたが、今の俺には必要ないと感じたため、手ぶらで家を出た。時間はすでに一時を過ぎている。
俺は学校を通り過ぎて、教会まで向かった。
教会にたどり着き、俺は侵入できそうなところを探してあたりを見回していた。すると、
「一人でこんなところまで来て、何をするつもりですか?」
後ろから声をかけられた。振り向くとそこには星宮凜太郎の姿があった。
「いやっ……これは……!」
と、俺は慌てて言訳をしようとするが、彼が右手に持っているモノに気づいて言葉を止める。
「お前が持ってるの、刀か? てことは記憶が戻ったのか!」
「ええ、まあ。少し前に吸血鬼の襲撃を受けましてね――その時に……」
「……お前もか」
軽く互いの状況を確認し合うと、俺は再び教会の周囲を見回り始めた。凜太郎は手伝うでもなく、俺のあとをついてきている。少しうっとうしいな。
「教会に侵入してどうするつもりなんです?」
「シスター沙也加に会おうと思って……」
俺は凜太郎にと目を合わせず、侵入経路を探しながら答えた。
「? 彼女は死んだんじゃないでしたっけ?」
「いや、グールとして見つかったのは誠神父だけでシスターの方は行方不明――だった」
「だった?」
凜太郎は過去形に違和感を覚え、再び尋ねてくる。
「ああ。今日の放課後にこの教会前を通ったんだけど、そのシスターさんが普通に玄関の掃除をしてたんだよ。それで、アリスがいなくなったこととか、なんで急に夏みたいな暑さになったのかとか、ワンチャン何か知ってないかな~と思って」
「……」
俺の話を聞き終えると、凜太郎は何やら黙って考え込んでる。2秒ほど経つと考えるのをやめて話し出した。
「これはあくまで推測ですけど、そのシスター吸血鬼じゃないですか?」
「――え?」
想像もしていなかった答えが返ってきて、俺はついフリーズしてしまった。
こいつは今何と言った? シスターが吸血鬼?
「そのシスターはあなた方と同盟を組んでいたのでしょう? 無事だったのなら何故そのことをあなた方に伝えなかったのですか……」
「それはあれだろ、重症を負って今日までまともに動けなかったとか……」
いや、自分で言っていてかなり苦しい言い訳だ。重傷を負ったのならそれこそおかしい。放課後に見た彼女は、とても重症者には見えなかった。
「ま、あくまで可能性の話です。一応、警戒はしておきましょう」
彼はそう言って教会の窓まで近づくと、持っていた刀でその窓をたたき割った。
「!」
「なに驚いてるんですか、鍵空いてないんですから仕方ないでしょう……!」
「……」
いや、そうだけど。せめて合図とかしてほしいよね、びっくりするから。
割れた窓から手を伸ばして窓のカギを開ける。そうして俺たちは教会の中へと入っていった。
石造りのせいか、教会内は外と比べて幾分か涼しく感じられた。
「人の気配はないですね……」
「まあ、こんな時間だしな」
「……とりあえず、何か手がかりでも探しましょうか」
教会内の探索開始、の前に。
「そういえばお前、なんで協力してくれんの?」
「私にも探し人がいるというだけです。昨日からマラドーナとミシェルが帰ってなくてですね、マラドーナはともかく、ミシェルがなんの連絡も寄こさずいなくなるのは不自然ですし、この状況でしょう? それでアリス・エインズワースの居場所が分かれば二人の居場所もわかるのでは、と……」
「なるほど。そういうことなら、さっさと手がかり見つけないといけないな……」
言いながら、俺は聖堂の正面にある主祭壇に視線を向けた。
等間隔で並ぶイスの正面には一つの台が置かれている。
「教会で調べものとなったら、まずここを怪しむよな」
俺と凜太郎は主祭壇のもとまで歩くと、それを思いっきり蹴り飛ばした。
そして、主祭壇の消えた床には、地下への入り口が姿を現した。
「あからさまに怪しいな。教会では地下への入り口ってこうゆうところにあるのが普通なの?」
「知りませんよ。私に訊かないでください」
木製の扉を持ち上げる。明かりがなく、中は暗い。
その暗さが手伝ってか、教会内は涼しさを感じられたが、地下に関しては涼しいを通り越してもはや寒く感じられた。
足を踏み入れるのについ躊躇してしまう。しかし、ここまで来て引き返すなんて真似はでいない。俺は内から湧く恐怖心を抑え込んで暗闇に足を踏み入れた。
――そして、踏み入れたと同時、爆発音とすさまじい揺れが起きる。地下から爆炎がせり上がり、この身はその炎に包まれた。




