127話 リスタッグとお披露目会
本当は数日で完成させるはずが、1週間以上かかってしまいました。1万字級の1話なので許してほしいです。
ヘリス視点
今日、ぼくはリシェル姉上と一緒に庭園でお茶を飲んでいた。
僕のお世話をいつもしてくれる11番。リシェル姉上のおさわろしている10番が僕たちの後ろに待機している。
リシェル姉上に誘われた。最近来たサルト姉上についての要件って言っておられたけど。どういうことなのかな?
「サルトお姉様ともっと仲良くなりたのよ。ねえ、へリスのそう思うでしょ。」
「サルト姉上と仲良く、ですか?」
「そうよ。私はエリタナお姉様のことも大好きです。だけど、エリタナお姉様とは年が離れすぎて遠い憧れの存在だと私は思うのよ。」
リシェル姉上がそうおっしゃるのならそうなのでしょう。
とりあえず賛同するように僕はコクコクと頭を縦に振った。
「年の近いお兄様方は自分の趣味と仕事に没頭しすぎて私に構ってる時間はないのよ。私は、私の理解者になってくれて自由に甘えられるそんなお姉様が欲しかったの。でもお父様とお母様が新しく子を生まれたとしても新しい弟か妹が増えるだけだと思って諦めていたのよ。」
「そこにサルト姉上が来た。というわけですか。」
「そうよ。あの優しい眼差しで私を可愛がってくれて、私が悪いことをしたらちゃんと叱ってくれるサルトお姉様はまさに私の理想のお姉様だわ。」
とろけるような眼差しでそんなことを語るリシェル姉上だった。
「だからね、サルトお姉様をお茶会に誘いたいの。」
「誘ったらよいのではないでしょうか。」
疑問をぶつけるとリシェル姉上は恥ずかしそうに頬を指で掻いてボソッと呟いた。
「サルトお姉様は最近来たところで、お勉強で忙しそうなので。」
「そうですね。ですが、リシェル姉上のためならば時間を作ってくださるのではないでしょうか。」
「そんなんだけど、ご迷惑は掛けたくないのよ。」
そんな何も進まない話に、10番が割り込んできた。
「お嬢様。本日、サルト様はデーズハイル殿の授業が早々に切り上げられ、兄弟方のもとを訪れておられて、丁度今からお嬢様とヘリス様に会いに来たいとのことですわ。」
「本当なの!?」
「ええ、9番から連絡がありましたわ。」
「良かったですね、姉上。」
「うん。早く来ないかな〜。10番、1番いいお茶を用意して。」
「承知致しましたわ、お嬢様。」
それから数分間リシェル姉上は緊張した面持ちでサルト姉上を待ち続けていた。
緊張するようなことはないのに。
そんなリシェル姉上は突然、表情をパアッと明るくした。
「待っていましたお姉様。たくさんお話したいことがありますの。」
リシェル姉上が走っているとは言えないギリギリの速さでサルト姉上に駆け寄った。
「何? この数日サルトに会えなくて寂しかったのかな?」
ちょっと意地悪にサルト姉上が言うからリシェル姉上はまたあの恥ずかしそうな顔を浮かべた。
「寂しかったですよ。今日はその分もたくさんお話しましょう、お姉様!」
サルト姉上はちょっと面食らったような顔をしたけど、すぐに笑顔になってリシェル姉上の頭を髪を崩さない程度に優しく撫でていた。
僕もサルト姉上に頭を撫でられるのは嫌じゃない。
初対面で自己紹介をしたら抱きつかれたのは突然のことでびっくりしたけど、優しいお姉ちゃんなのはよく分かる。リシェル姉上の言う通り、年の近い頼れるお姉ちゃんだよ。
家庭教師に怒られた話、最近王都で流行りの化粧品の話、自由時間の使い方の話。
ぼくもたまに話に入っては褒められたり、一緒に笑ってくれたりした。
サルト姉上についてたくさん知れた。実はマヨネーズが苦手だったり、弓が得意だったり、得意な魔術まで見せてくれた。
エリタナ姉上の魔術とはまた違う凄さだった。
嫌な匂いがする透明な液体を作り出して、ガラスの細長い容器に入れていて、その液体にまたまた魔術で作り出した鉄の小さな塊を入れると、ぷくぷくと泡を立てて溶けていった。魔法薬学とかを勉強してたのかな。
「フフ、すごいでしょ。お姉ちゃんはこんな事もできるんだ。姉さんにだって負けない、すごいお姉ちゃんなんだから。」
やけに自慢げに自分の凄さを語るサルト姉上だったけど、リシェル姉上も目を輝かせて見ていた。
姉というのはこんなにもすごいものなのだろうか。
「そうだ! 今日から2人はリスタッグだわ。」
突然そんなことを言われて「へ?」って声が出た。
リシェル姉上もぽかんとしている。
「リシェルとヘリスの共通部分を取ったらリスになるでしょ。だからリスタッグ。サルトの可愛い弟と妹の2人組に相応しい可愛い名前でしょ。」
「はい! とても可愛いです。お姉様とっても嬉しいです。」
「ぼくも嬉しいです。」
突然そんなことを思っくなんて面白い姉上だね。
日が沈み始めた頃になってたくさんお話をして、リシェル姉上もサルト姉上も満足したみたいだった。
「今日はありがとうね。楽しかったよ。また誘ってね、リシェル。」
「ありがとうをするのはこちらです、お姉様。楽しかったです。また誘いますね。」
ぼくも何か言わなきゃ。
「ありがとうございます、姉上。また魔術見せてください。」
「うん。ヘリスもありがとう。サルトの部屋に来たらいつでも見せてあげる!」
そう言って、その日のお茶会はお開きになった。
サルト視点
「ああ、楽しかった〜。」
リスタッグとお茶会をしていっぱい可愛い成分を摂取したからたくさんあった1日の疲れが全部吹き飛んだ気がする。
可愛い弟妹からしか摂取できない栄養素ってものがあるよね、絶対。
リスタッグ。パッと思いついただけの名前だけどすごくしっくりくる。
15年間姉をやって気付いたんだ。お姉ちゃんというのは、いいところ8・弱いところ2くらいの割合で下の子たちに自分を明かすべきだと思うのよね。
尊敬してくれるのは嬉しいけど、敬遠されて遠い存在になるのは嫌。多少弱点を明かした方が姉として接してもらいやすい。
だから今日も実はマヨネーズが苦手なこととか、デーズハイルに怒られたことを話して、弱い部分を隠さず。そして化学魔術を披露してかっこいい頼れるお姉ちゃんも見せる。
これが理想のお姉ちゃんだと思う。
戦略的と思うかもしれないけど、可愛い弟妹から慕われて甘えられるためには何だってするわ。
いつも通り部屋に戻ろうかというその時、
「陛下よりサルト様に呼び出しがかかりましたですの。」
「え? お父さんが?」
「はいですの。今から応接室に向かいますの。」
何はともあれ、呼ばれたなら行くしかない。
9番についていてくと、王城に初めて来たときに最初に入った部屋に来た。
コン、コン、コン
「入れ。」
「失礼します。」
応接室にいたのは国王とセレナルコともう1人見たことのないおじさんだった。年齢はお父さんと変わらないくらい。
とりま、カーテシーをして挨拶だ。
「お父さん。呼び出しに応じて参りました。そちらの方は?」
「おう、サルト、よく来た。礼儀作法が身についてきたようだな。こいつはレズモンド・サンドラーだ。サンドラー公爵家当主にして、この国の宰相だ。」
宰相さんが軽くお辞儀だけしてくれたので、カーテシーを返しておく。
国王と宰相の2人にどうして呼び出されたのだろうか。
「今日呼び出したのはサルトの生存発表の日程が決まったのとそれに伴い、サルトにはお披露目会に出席してもらうことになるという告知だ。お披露目会は丁度来週。デーズハイルから礼儀作法や踊りは順調に成長していると聞いている。当日はドレスも豪勢に着飾って楽しい会になるように努めている。どうしても嫌と言うならば拒否してもらってもいいが是非参加して欲しい。」
え、え、え?! ちょっと急な話しすぎて思考が追いつかないのですが。
でも、国王の頼みを断るなんてそんなことができるはずがない。
というか舞踏会というものに少しだけ憧れがあるし。だってシンデレラが王子様と運命の出会いをしたところだよ。舞踏会に参加したらするかも知れないじゃん運命の出会い。
「分かりました。謹んでお受けします。」
そう答えると、お父さんは満足そうに頷いた。
「そうか。ありがとう、サルト。」
「いえ。」
「それでは、細かいことについてはレズモンドから説明してもらおう。」
「承知いたしました、陛下。」
レズモンドさんがこちらを向く。
「まず、お披露目会についてですが、来週の開催となります。」
来週……。
改めてそう言われると、結構すぐだよな。
「ですので、これから1週間で当日に必要なことを覚えていただく必要があります。」
「今から増えるんですか?」
「多少は。」
「……。」
デーズハイルの顔が頭に浮かんだ。今でも毎日のようにカーテシーを扱かれているのに。
さらに増えるのか。
「具体的には何を?」
「当日の立ち振る舞い、挨拶、会話の作法などですな。もちろん、すべてを完璧に覚えていただく必要はありません。最低限、皇女として恥ずかしくない振る舞いができれば十分です。」
「頑張ります。」
「それから、踊りについても練習していると聞いています。」
「はい。デーズハイル先生に教えてもらっています。」
「ならば問題ないでしよう。」
本当に大丈夫なのだろうか。
前世で通っていた高校の文化祭のダンスとか歌とかを披露する希望制の発表会で、友達の誘いを断れなくてやったダンスは、深夜まで必死に練習してやっと人に見せられるものになった。そのくらい努力しないとダンスは踊れない。リズムを掴むのも苦手だし、気づいたら一緒にダンスをしている相方の足を踏んでる。心配だな。
不安そうな表情をしていたのか、レズモンドさんが少し真面目な表情を崩したが、次の彼の言葉は追い打ちをかけるようなものだった。
「サルト様。」
「はい。」
「お披露目会では、有力な貴族に参加者を絞るとはいえ、多くの方々と顔を合わせることになります。」
「うん。」
「中には、サルト様が今までどのように暮らしていたのか、なぜ今まで公表されなかったのかなどについて尋ねてくる方もいるでしょう。」
「……。」
そうだよね。
サルト・セリンデブルは今まで死んだことになっていた。
それが突然、生きていました。王城に戻ってきました。
なんて言われたら、色々と聞きたくなる人もいるだろう。
「その場合、どうすればいいんですか?」
「答えたくないことについては、無理にお答えになる必要はありません。私や陛下、あるいはデーズハイル殿などに任せていただいて構いません。それに、万が一我々がいなくても、9番が上手いことその場から離れる最善の方法を模索してくださるでしょう。」
「分かりました。」
それなら安心だ。
何でも自分で答えなきゃいけないのかと思っていた。
「それと、、、」
レズモンドさんが言葉を選ぶように少し間を置いた。
「王族という立場になった以上、今後は様々な話を持ちかけられることになるでしょう。」
「様々な話とは?」
「例えば、婚姻などです。」
「……。」
出た。
その話。
硬直していると、国王が会話に入ってきた。
「安心しろ。今回のお披露目会は婚約者を決めるためのものではない。」
「良かったぁ〜。」
思わず本音が漏れた。
政略結婚なんて絶対に嫌だ。
誰かに勝手に相手を決められて、その人と結婚するなんて。
そんな人生は嫌。
「ただ、そういった話を持ちかけてくる者がいる可能性はあります。」
「その時はどうすれば?」
「サルト様がその場で返答する必要はありません。『お父さんに相談します』で十分でしょう。」
「それなら大丈夫そう。」
「何か困ったことがあれば、いつでも俺に相談してくれて構わない。」
国王がそう言ってくれた。
きっと政略結婚させた方が国としてもいいのだろうけど。
……優しいな。
「ありがとう、お父さん。」
「なに、父親なのだから当然だ。」
そう言って笑う。
なんだか少し安心した。
お披露目会は来週。
今まで死んだことになっていた第2皇女サルト・セリンデブルが、生きていると公表される日。
そう考えると、やっぱりちょっと緊張する。
もっと礼儀作法を覚えないと。
……あと、踊りも。
「お父さん。」
「なんだ?」
「兄さんたちも、お披露目会には来るんですよね?」
「ああ。もちろんだ。」
良かった。
それを聞いて、少しだけ緊張が和らいだ気がする。
上兄さん。
エリタナ。
中兄さん。
下兄さん。
プライセ。
そして、
リシェルとヘリス。
皆がいるなら、きっと大丈夫。
「じゃあ、サルトも頑張ります。」
「うむ。」
そうして、お披露目会についての話は終わった。
応接室を出ると、9番が待っていた。
「お疲れ様ですの、サルト様。」
「うん。」
「お披露目会、緊張してますの?」
「……うん。ちょっとだけ。」
「そうですの。」
9番がいつもの小さな笑みで頷いた。
「では、お部屋に戻りましたら明日の予定を……」
「待って。」
「はいですの?」
「明日からの勉強、増えたりしないよね?」
「…………。」
返ってきたのは黙り。
「9番?」
「……デーズハイル殿に確認してみますの。」
「やっぱり増えるんだ!」
「まだ決まったわけではありませんですの。」
「絶対増えるやつじゃん……。」
来週のお披露目会。
楽しみではある。
楽しみではあるんだけど、それまでが大変そうだな。
お披露目会当日。
いつもより早く、日の出頃に9番に起こされた。
「おはようございますですの。本日は忙しくなるですの。」
まだ目も冴えないまま、髪を整えられ、化粧をし、ドレスを着せられた。
この支度だけで1時間半かかるとは夢にまで思わなかったよ。ドレスはいつも着てるものに比べて動き難くてしょうがないけど、大事な式典では見た目重視ってやつなのだろう。
「お似合いです、サルト様。」
「ええ、素晴らしいです。」
「女神のように美しいです。」
なんてメイドたちが口々に言う。お世辞でも嬉しい。お気に入りポイントはこのお母さんに貰った金の刺繍の白いリボン。いつも着けてるものだけど。
「今日の予定確認も、その服でのダンス練習も、やられなければならないことがたくさんあるですの。」
そんなメイドたちを先導してテキパキと働く9番は普段から頼れるメイドなのに今日は最早かっこよすぎて輝いて見える。
「では、まず予定を確認しますの。」
9番が手に持った分厚い紙を開く。
「まずは午前中に最終的な礼儀作法の確認、次に国王陛下と王妃陛下への挨拶、その後、デーズハイル殿の最終ダンスレッスンですの。昼食を挟みまして、午後から会場入りですの。その後、、、」
「ちょっと待って。」
「はいですの。」
「今日って、そんなに予定詰まってるの?」
「詰まっておりますですの。」
即答だった。
「……帰りたい。」
「まだ始まってもいませんですの。」
「だって朝起きてからもう疲れたんだけど。」
「本日は第2皇女として初めて公の場に出る大切な日ですの。」
「分かってるよ。」
「ならば頑張りましょうですの。」
「……はい。」
9番に言われると逆らえない。
いや、逆らう理由もないんだけどね。
そんなわけで朝からみっちりと予定をこなしていくことになった。
最初は礼儀作法。
デーズハイルにカーテシーと食事マナーを確認してもらう。
「もう一度。」
「はい。」
スッ。
背筋を伸ばして、片足を引いて、腰を落とす。
最近毎日のようにやってるから慣れてきた。今のは完璧にできたと思う。
案の定、
「合格。」
「やった!」
デーズハイルに褒められた。
褒められたは良いものの、その後は朝食ついでに見られたテーブルマナーは散々指摘されて疲弊した。
疲れているのに関わらず、国王と王妃に開会前の挨拶をしに行って少しくっちゃべった。励ましを受けて少しは緊張が解れたかもしれない。
またデーズハイルのもとに戻りダンスレッスンを受けた。1週間前から始めた付け焼き刃な事前練習にしてはマシな動きができていると思う。
デーズハイルもちゃんとした人がリードしてくださるなら見栄えだけならよく見えるだろうとのことだった。あとは、笑顔を崩さないことが大事なんだと。
そして、ようやく午前の予定が終わった。
「疲れた……。」
「まだ午前ですの。」
「嘘でしょ、、、」
「本当ですの。」
9番が柔和な笑みを浮かべて答えた。
この人、絶対に私が疲れてるのを分かった上で言ってる。
昼食を食べ終わる頃には、もう一度ドレスや髪型の最終確認。
鏡の前に座らされ、髪を整えられていく。
薄いピンク色の髪。
生まれたときはこんな色じゃなかったらしい。家族の皆と同じブロンドの髪。
今の私の髪は呪術によって変えられているっていう説明をされた。魔術と呪術の違いについては中兄さんに聞いた。
「魔術、特に付与系魔術や強化系魔術は対象に効果を与える上で持続的に魔力を使わなければならない。対して呪術は1度かけると対象の魔力か空気中にの魔力を使って効果を発揮する。どちらも魔術式を使った技であることには変わりないが、呪術の方が高度で使える人も限られている。その髪の色を変える呪いも今はもう故人だが、王家に仕えていた呪術師が掛けたものだ。解呪できる者も限られているからサルトの髪をもとに戻そうと思っても、まだ難しいってのが現状だね。」
だとさ。
まあ、ブロンド髪だった頃の記憶はないし、この色で不便なことはないから今すぐ治したいとは思わない。
前世で黒髪だったから記憶を取り戻した当初は少し違和感があったけど、長年この髪色だったからもう慣れたね。
「では、そろそろ会場へ向かいますですの。」
「うん。」
部屋を出る。
王城の廊下を歩いていると、いつもとは明らかに雰囲気が違った。使用人たちがそそくさと準備をしている。皆、普段はもっと落ち着いているのに。
大きな扉の前まで来た。
扉の向こうから、たくさんの人の声が聞こえる。
ざわざわとした話し声。
楽器の音。
食器の触れ合う音。
扉の微かな隙間から中を覗いてみる。
「人、多くない?」
本当に人が多い。その部屋は学校の体育館程の広さがあるのに、食事の置いてあるテーブルと人集りで部屋の反対側まで見えない。
「有力貴族に絞っているとのことでしたが、それでも相当数おりますですの。」
「帰っていい? かな。」
今更無駄な質問をする。
「駄目ですの。」
「ですよね。」
分かってた。
9番が扉の前に立つ。
「サルト様。」
「うん。」
「ここから先は、皆様がサルト様を見ることになります。」
「……うん。」
「皆様の視線を気にせず、まっすぐ陛下の元へ向かって隣の席にお座りください。」
「わかったわ。」
部屋の中が突然静かになった。話し声もなくなり、食器の音も途切れた。
すると、中から国王の声が聞こえた。
「今日そなた達を招待したのは我が娘を紹介するためだ。皆も最近のシュセンド子爵が処刑されることになった事件もあって察しているだろう。10年前、ブルトゥス伯爵首謀の下、殺されたという第2皇女サルト・セリンデブル。彼女は生きている。長年別居させていたが、ついこの間王城での生活を再開した。では、サルト・セリンデブル入場し給え!」
「では。」
国王の号令で、そう9番が言い、大きな扉を開けた。
一気に視線が集まった。
思わず息を呑む。
天井には巨大なシャンデリア。
色とりどりのドレスを着た女性たち。
豪華な服を着た男性たち。
その全員の視線が、今この時、こちらを向いている。
怖い。家族との顔合わせの時とはワケが違うし人数も違う。怖い。
会場の奥。一段高い場所に、国王がいた。隣に王妃も。
2人までの道が自然と空けられた。
国王がこちらを見て、ほんの少しだけ笑った。
まずは、まっすぐ親のところまで歩く。幼児でもできることだ。
前世の学校での処世術として練習した作り笑いを浮かべてるけど、内心はガッチガチに緊張している。
視界の半分くらいか白くなっている中、国王の隣の席に座った。
席に着くと、会場の様子がよく分かるようになった。
知っている顔がちらほら。
上兄さんが楽団員の左端でピアノを弾いていた。いや、ピアノの音は聴こえないからピアノの見た目をした別物なのか?
エリタナは美しい赤いドレスを着て、美姫って雰囲気を纏っている。
中兄さんはいつもの微笑を浮かべてワイングラスを持っている。
下兄さんは意外に似合う上品な服を着ていて、口元に(テーブルに並ぶ料理のかな)ソースがついていて面白かった。
プライセが部屋の端の方で何か別のことに思いを耽ってるのか1点をボーッと見つめている。
リシェルは満面の笑みと輝いた目でこちらを見ていて、いつもながらの可愛らしい服装でまるで妖精みたい。
ヘリスは身長が低いからか11番に抱え上げられて少しムスッとした顔になっている。可愛いっ。
国王が目配せしてきた。予定確認で何度も言われたことだから覚えてる。自己紹介をせよという合図だ。
立ち上がってお辞儀をした。そして大声で言った。
「セリンデブル王国第2皇女、サルト・セリンデブルです。突然現れて、髪色も違うので疑っている方々も大勢いるかと思いますが、これからよろしくお願いします。」
「髪色は違うが正真正銘俺の娘だ。」
空間内が少しだけざわついた。きっと国王が不倫でもしてその隠し子なんだとか思ってるんだろうな。
騒めきが少し治まってから、国王の号令でダンスが始まった。
最初に主役としてプライセと2人で踊ることになっていた。身長的に合っていてダンスの実力が最低限ある人ということで相方として選ばれた。
でも、弟にエスコートされるってのは少し居た堪れないものね。
部屋の中心でダンスの初めの体勢をとった。楽団の演奏で曲が流れ始めた。
プライセが先に動いてリードしてくれる。緊張していたのが嘘のように自然と練習してきた動きができた。プライセの足も踏んでない。この空間の中2人だけで優雅に踊る。相手が弟な点以外は本当に理想としていた舞踏会になっていると思う。
でもこの式典の本番はここからだ。
1つ目の曲が終わる。
社交の一環として男性が女性をダンスに誘って、家同士が対立しているなどの理由がない限り女性はそれを承諾する。貴族の集まりのルールなんだとか。
つまり、全く知らない男性にダンスを誘われて受けなければならないということだ。
ダンスが得意な人も苦手な人も。苦手な人に誘われてしまったら、無様な姿をさらすことになって王族が舐められてしまう。それは本当に困る。
内心で神様にお祈りしながら静かに待った。次の曲が始まるまでに誘われなかったら真ん中から端に移動しろって言われたけど、それも王族が舐められてしまうようなことなんだとか。
でも9番は恐らく誰も誘いに来ないということはないとも言ってた。大丈夫だと信じてる。
「セリンデル公爵家3男、ラーズベル・セリンデルです。私と踊ってくださりませんか。」
最初の曲が終わって10秒もせず最初のお誘いが来た。
オレンジ髪の2、3歳上の人だと思う。
年齢も近いのもあるだろうがどことなく下兄さんに似てる気がする。
その後すぐ次の曲が始まった。
プライセと同じように組み合う。それから同じように踊り始める。
それから何曲か踊った。名前は忘れたけど公爵家の人、伯爵家の人、侯爵家の人、とにかく沢山の人と組んだ。
でも流石に疲れた。
と思ったら誘いが止まった。そういえば社交会で男性は女性の疲れに配慮しなければならないという話を聞いたことがあるな。中兄さんの話だったような上兄さんだったような。
ちょっとフラフラしてると上兄さんのところに着いた。
さっきのピアノのような物の横で優雅に飲み物を飲んでいた。どうやらこの曲での出番はないみたい。
「上兄さん、そのピアノみたいな楽器って何?」
「これか。これはな、ピアノの形をしたヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3楽器の音を奏でる楽器だ。この国で1つしかない代物だから傷でもつけたときには首が吹っ飛ぶな。」
え、そんなヤバいものだったの。
「サルトは自分の命が大切だから絶対に触れないでおく。」
「それがいいね。」
それからのお披露目会は順調に進んだ。
踊って話して、食べて飲んで。
呆気にとられるほど何の問題もなく進行して、終了を迎えた。
もう日も暮れて夜だった。
「ああ、疲れた〜。」
背伸びをしてそう言うと9番がスッと温められたタオルを差し出してきた。
本当にこのメイドは有能だ。
兄さんや姉さん達のお付のメイドは独特というか、個性豊かだけど、メイドはしっかり者の方がいいよね。
「サルト様、部屋に戻られてすぐにお休みになられるべきですの。」
「そうね、そうする。」
そうしてウトウトしながらなんとか9番について行って部屋に着いた。
そして着替えるのも忘れて、ベッドに顔から倒れ込み、泥のように眠った。
もう政治には飽きましたので次は2年間をダイジェストしてサルトが魔術学院に入学するところからのお話になります。
どうでもいいんですが、ダイジェストという言葉、ドラマとか本とかの要約という意味がありますが、元々は食べ物の消化という意味だったみたいですね。5歳くらいのときに知ってへーってなったのを覚えています。




