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お茶会は災厄の後で  作者: ねむいねむい
第1章 プロローグは望郷の果てに
4/11

おわりのひ はじまりのひ 1

 とぼとぼと整列した石畳を歩く。結局ウルとライラのに逆らえずに家から出たマリアは、すっかり落ち込んでいた。ふたりの異様な空気に萎縮してしまい、これから何が起こるかすらも伝えて貰えずに花畑へ向かう事になってしまったのだ。

 いつもなら美しいと感じるはずの日差しを照り返すテレジアの白い街並みでさえ、マリアの暗く重たい不安と疎外感をぬぐい去る事は出来ない。往来の邪魔にならないよう道の端を歩きながら、マリアは何度目かのため息を吐いた。

 しばらく歩いていると、マリアの足元に何かが落ちている事に気づく。しゃがんでそれを摘み上げれば、磨き上げられたように艶々と光るウィーオラの実だった。不思議に思い周囲を見渡せば、忙しなく歩く人々は誰もがウィーオラの実を街のあちこちに運んでいた。


「そっか、ウィーオラのおまつり....」


 テレジアの街は、ウィーオリウスを迎えると1年間の豊穣と繁栄を願いウィーオラ祭りが執り行われる。通常の植物種よりも魔力を取り込みやすい性質を持ったウィーオラは、古くから魔法や魔術の象徴としてテレジアで崇められていた。

 歴代の領主による採掘により今や地下資源は乏しく、活発な火山や龍脈が近くにないテレジアでは、必然的に魔力源や媒介として手段が限られる。皿に周囲を山脈に囲まれた盆地の為、風は弱く水も豊富とは言い難い。つまり、魔法学的に基礎とされる四大元素との縁が薄いのだ。

 山と森に囲まれている為流通や交流が発達し始めたのは、世界が魔術革命による大規模な変革を遂げ、空路が確立されてから外との恒久的な繋がりを得たのは四半世紀前。結果として世界から忘れられたテレジアでは、植物を媒介にした魔法分野が開拓され、独自の魔術体系が築かれて行った。

 その根幹を支えたのが、街を取り囲むレディプティオ大森林とそこに自生するウィーオラの木だった。ウィーオラの木は、1年を通して魔力を蓄え、冬を越す養分としてマナやエーテルを使う。そして春を迎えると余分な魔力を実として結晶化し、地面へ落とす。エーテルは時間の経過と共にマナへ統合され、分解されていく為だ。

 結合したマナとエーテルは急速に劣化し───恐らくこのふたつは相反する性質を持っているとされているが、具体的な理由は不明とされている───あっという間に霧散して酸素へ変換されてしまう。

 マリアがすぐ寝付けるようにと、絵本ではなく自身の研究結果について懇々と寝物語として語り続けたライラのおかげだろうか。マリアの頭の中には、ライラの研究した全てが詰め込まれ、仕舞われていた。


 マリアは生まれてから一度も街から出た事がない為、基礎魔術についてはあまり知らない。恐らく街に住むマリアの友人たちもそうだろう。研究者として外部から移り住んで来たライラなら知っているかもしれないが、何度マリアがせがんでも曖昧に笑うばかりだった。

 研究者であっても魔女ではないのだから、とウルはその度にマリアを諌めたが、何でも知っているライラなら少しくらいは知っていてもおかしくはないと思い何度も訊ねてしまっていた。

 そんなマリアの努力は、今日まで結ぶことなく終わっている。マリアが扱えるのは、ウィーオラの実や空気中に漂うマナを凝縮、射出、結合、分解する純粋な魔力コントロールのみだった。かっこよく炎を生み出したり、風を吹かせたりしたいのに、そんな地味な作業しか出来ない。

友人はそんな事気にしていないが、度々街に訪れる冒険者を見ると羨ましく感じてしまう。そんな風に思考の海へ身を投げ出していると、あっという間に森を抜けたらしい。正午の鐘の音を聞きながら、マリアは森の奥の花畑へ辿り着いていたのだった。

お読み頂きありがとうございます。

また次のお話でお会いしましょう。

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