ドールハウスのプリンセス 第1話
「ほら、ご覧になって。」
大正3年。桃ケ丘高等女学校に続く坂道に新しく人形店が出来た。西洋建築の可愛らしいお店やショーウィンドウから見えるドレスを着た人形が目に止まり生徒達は足を止める。彼女達はドールハウスと呼んでいる。
「このお人形、私達と同じぐらいだわ。」
今日足を止めたのは同じ級の朱里と月美だ。ショーウィンドウに飾られていたのは等身大のフランス人形が立っている。
「水色にピンクのリボン裾には白のレース。羨ましいわ。」
朱里はショーウィンドウに飾られてる人形を食い入るように眺める。
「でもこの娘髪は黒いのね。」
月美はある事に気付いた。人形は洋装なのに髪と目が黒いのだ。
「黒髪のフランス人形だって可愛いじゃない。」
カランカラン
その時店の扉から店員が出てきた。
「お嬢さん達、この娘が気に入ったのかい?」
店員は黒いスーツに黒い短髪の青年だ。しかし声は男にしてはやや高い。
「はい!!この娘可愛くて。」
月美はショーウィンドウの等身大の人形を指指す。
「ありがとう。良かったら店の中を見ていかないかい?他にも可愛い人形が待ってますよ。」
「宜しいのですか?是非。」
月美は朱里の手を掴み店に入ろうとする。
「待って!!月美さん。」
朱里は月美を引き留める。
「いかがなものかしら?男性と2人きりなんて。誰かに見られたら良からぬ噂が広まるわ。」
「お待ち下さい。お嬢さん」
店員が朱里の話を遮る。
「ご安心下さい。こんな姿でも僕は女です。」
店員はスカーフを外す。首元には喉仏はない。
「女の人なら大丈夫じゃない、行きましょう。」
月美は再び朱里の手を握る。
「私はやめておくわ。遅くなっては良くないもの。最近女学校でも行方不明になってる人がいるって聞くから。」
桃ケ丘高等女学校では生徒がよく行方不明になるのだ。それもここ数週間で。3日前は最上級生のお姉様、その前日は新入生、そして昨日は隣の教室の娘がいなくなったのだ。3人の共通点は学校の帰りに寄り道をしていなくなっているのだ。
「朱里さん、心配し過ぎだわ。」
「そう、私は帰るわ。今日はお茶の先生がいらっしゃるから。」
「分かったわ。また明日。ごきげんよう。」
「ごきげんよう。」
朱里は月美が店員と店の中に入って行くのを見送ると再びショーウィンドウの等身大の人形に目をやる。
「この娘、やっぱりどこかで見た事ある気がするわ。」
「ごきげんよう。」
「ごきげんよう、朱里さん。」
翌日朱里が登校すると同じ級の娘が朱里の周りに集まってくる。
「朱里さん、昨日月美さんと帰り一緒だったでしょ?」
「何かご存知ない?」
「何かって何?」
「ご存知なくて?月美さん昨日から家に帰ってないそうなのよ。」




