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08話.[怒ればいいのよ]

 とにかく自分からは近づかないと決めた僕だったが、


「で、百花といるのが暇つぶしのためってどういうこと?」


 相変わらず大谷さんからは絡まれる毎日が続いていた。

 外は雨模様、だから少しでもいい気分でいたいのに残念な話だ。


「別に心からそう思って言ったわけじゃないよ」

「いや、多少でも思っていなければそんな言葉は出てこないよ」


 伊澤くんも小日向くんも止めようとしに来てくれはしない、だからずっとこの平行線である。

 ま、僕を犯人扱いしているんだし無理もないけども。


「でも安心だね、だって東雲くんからは一生近づかないんでしょ?」

「ちょ、ちょっと語弊が……」

「東雲くんがやっていたことは最低のことだから!!」

「ちょっ、声が大きいよ……」




 ちっ、あのバカ!

 仕方ないので東雲のところに向かう。


「東雲、ちょっと用があんだけど」

「え、百花? なんで東雲くんに……」

「別にいいでしょ。早くしろ東雲」

「う、うん」


 やつの腕を掴んで廊下に引っ張り出した。


「だから言ったでしょ、怒れないからそういう対象に選ばれるんだって」

「あ、えと……ごめん」


 こいつはむかつくっ――けど、こはく達が自由にしているところを見ると苛つくんだ。

 弱者だからって、怒ってこないからってなんでも言っていいと思ってやがる。

 それはあたしも同じこと……。


「……あたしにも同じだよ、怒ればいいのよ」

「いや、怒るほどではないでしょ? それに今だって助けてくれたんでしょ? 僕は谷口さんがいい子だって知ってるしさ」

「いい子だったらあんな冷たくしないだろ!」




「ちょ、何を必死になってるの? 別にいいんだよ、確かに冷静に考えてみたら僕が君に付きまとっていたようなものだし」


 彼女の声が廊下に響き僕は内であわあわ状態に。

 これでは僕がやらかしてしまったようなものじゃないか。

 あのルール的にはギリギリのラインだが、こういうことが何度もあれば条件を厳しくされる可能性だってある。

 勿論あんな条件避けたかった、普通に近づいて友達として会話をしたかった、でも、そこで妥協しておかないと何をされるか分からなかったらああ言うしかなかったのだ。


「百花、東雲くんになにかされたのっ?」

「うっさい!」

「ひっ……」

「ちょ、今のは大谷さんだよ?」

「黙ってろよ、……いまあたしが喋ろうとしてるんだから」


 おいおい、大谷さん大好き少女がどうしてこうなる。

 大谷さんは泣きはじめてしまい、伊澤くん達もやって来てしまった。


「百花」

「あ?」

「とりあえず謝れ」

「ちっ、……ごめん」

「ん……」


 あの、マジで僕は戻ってもいいだろうか。

 こんなの口実を与えてしまったようなものじゃないか。

 だって僕がやらかしてなければ叫ぶことも大谷さんに八つ当たりすることもなかったわけなんだし。


「何をやってるんだ? 授業始まるぞ」


 先生が来たことで流れがぶった切れた。

 流石に僕達全員こうなれば戻るしかない。


「東雲、後で話があるから逃げるなよ」

「う、うん」 


 今日の彼女は大変怖い。

 断れるわけもなく、僕の予定はこうして決まったのだった。




 呼び出されたのは伊澤くん達と話した隣の空き教室。

 そわそわしながら椅子に座って待っていると彼女が大谷さんと伊澤くんを連れてきた。


「あたしはてっきり逃げるかと思ってたけど」


 信用ないな。

 ただ、これから皆で僕の悪口を言う――というわけではなさそうだ。


「はぁ、ごめん、あたしが代わりに謝る」

「だから別に悪いことをしたわけじゃないでしょ?」

「違ったわ。あたしが悪かったの、ごめん」


 いや、事実僕がうざ絡みしなければこうなってはいなかった。

 それを棚上げして文句を言うようなことはできないし、するつもりもない。


「謝るのはやめてよ」

「ん、あんたがそう言うなら」


 ふたりは納得がいかないといったような顔をしている、無理やり連れてこられただけだなこれは。


「で、責任の取り方なんだけどさ、金輪際一切関わらない、ということでどう?」

「え、普通に嫌だけど」


 そこまでのことはされてないんだ、あまりに大袈裟すぎる。


「あ! じゃあさ、普通に友達になってくれない? 別に伊澤くん達は無理のままでもいいけど、谷口さんとは友達になりたいんだ」

「……やっぱりMってこと?」

「いや、僕はやっぱり君と一緒にいたいんだよ」


 ぶっちゃけMでもなんでもいい。

 普通に友達としていられれば十分だ。


「まああたしのせいでこうなったわけだし、あんたがそれで満足できるなら別にいいけど」

「うん、それでいいよ」


 さて、このふたりはどうしようか。

 何も言わずにいるところを見るに、谷口さんが言うならと無理やり条件を飲み込もうとしているのかもしれないが。


「大輝、あんたも」

「東雲、す、すま――」

「あ、謝罪とかいいから、大谷さんも別にいいからね」


 彼らは谷口さんのためを思って言っていた、それって素晴らしい関係じゃないか、僕もいつか互いを思いやれるそんな関係を作ってみたいものだ。


「とりあえずさ、今日はもう帰ろうよ。外は雨だよ?」

「そうね、帰るわよ」


 学校を出て自然と谷口さんの家を目指して皆で歩いていた。


「あ、私こっち……」


 途中で大谷さんが細道を指差し足を止めた、伊澤くんも「あ、俺もこっちだわ」とそれに乗っかる。


「え、大輝はこっちでしょ?」

「こはを送っていこうと思ってな」

「なるほどね、それならこはくを頼んだわよ」


 あぁ、単純に僕がいるから気まずかったんだろうな。

 申し訳ないことをした、僕のせいでヒビが入ったら最悪だぞ。


「あんた今日はどうすんの?」

「谷口さんを送ったら家に帰るよ」


 最近母さんとゆっくり話してないし丁度いい。

 これでゴタゴタも片付いたことになるわけだし、後はゆっくり仲を深めていけばいいんだ。


「いた! 待てこの瑞のやろー!」

「うげっ!? って、どうしたの?」


 傘でこっちを突き刺すように走ってきた彼女を既の所で止める。

「最近全然ご飯を作ってくれてないじゃんかよー!」と叫んでいるところをみるに、どうやら寂しかったようだ。


「ごめん。でもどうしよっか。谷口さんを送ったら家に帰ろうと思ってたんだけど」

「それなら百花も連れて瑞の家に行こー!」

「あ、それなら別にいいよ。谷口さんは大丈夫?」

「まあ、別に大丈夫だけど」


 え、珍しい、……だから雨が降っているんじゃないかって錯覚しそうになる。


「それなら早く行こうよ! ほら百花!」

「って、あんたは名前を呼ぶんじゃないわよ!」

「ひぎゃああ!? 頬がぁああ!? って、冗談だけどっ」


 このふたりを引き連れて家に? 今更だけど大丈夫かな……。

 で、家にやって来ました。


「へえ、ここがあんたの家なのね」

「うん、普通のところでしょ?」

「まあいいじゃない、普通が1番よ。……って、あいつは?」

「寝てる」


 ソファに寝転んでぐーすかぐー、彼女を見て「なにしに来てんだこいつ」と冷たい表情を浮かべている谷口さん。


「……ねえ」

「うん?」

「悪かったわね本当に」

「だからそれはいいって」


 にしても自分の家でふたりきりは緊張するなあ。

 どうしてこういう時に限って六堂先輩は寝てしまうのか。


「えと、どうする? ご飯作ろっか?」

「いやいい、お母さんのご飯を食べるから」

「あれ、前は母さんって――はい、分かりました」


 ちっくしょうぅ! どうやって楽しませればいいんだ彼女を!

 あぁ、せめて伊澤くんがいてくれれば……。


「でも残念だったね、大谷さんを送るために伊澤くんが帰っちゃって」

「え、あんたもしかして変態でホモなの?」


 うへぇ……といった顔で見てきたので慌てて否定。


「だって谷口さんは好きだったんでしょ?」

「は? はぁ、そもそも大輝はこはくと付き合ってんのよ?」

「えぇ!? だ、だって六堂先輩から結構な頻度で谷口さんの家に伊澤くんが行ってるって聞いたけど!?」

「あ、それは事実ね、よく花を買ってくれるのよ」


 そりゃ行くわな、お花屋さんを経営しているんだから。

 でもそれとこれとは話が別、僕には早急にしなければならないことができた。


「ごらあぁ!! 起きろ駄目先輩がぁ!」

「ひゃばああ!? 僕の自慢のお腹がぁ!?」


 やっべぇ、どんだけ柔らかいんだこの人のお腹は……。

 ドキドキドキドキ、僕の内側が忙しい。


「――え? 大輝くんとこはくちゃんは付き合ってるの? で、そうなると湊くんの気持ちはどうなるわけ?」


 それだ! 絶対に大谷さんのことが好きなはずなんだ、なのに友達が好きな子を取ってしまったことになる、……その心は常に複雑なはずだろう。


「あ、それは……」

「その反応、さては貴様のことが好きだな……?」

「は? 違うけど」


 ちょっと待てぇ! どうして今僕はホッとしたんだぁ!?

 んー、それなら何で言い淀んだんだろうか? 誰かと付き合っているもしくは誰かのことが気になっているということなら普通に言えると思うが。


「こはくのことが好きだったのよ湊は」

「残念だねぇ……」

「ま、そうだろうね。で、大輝はいつも謝ってるからさ」


 友達だからこそやりにくかっただろうな、だけど大谷さんが伊澤くんを選んでしまった時点で何も言うことはできなくなる。

 同じような思いを味わいたくはないが、いつだってそういう危険性が存在しているんだよなと考えたら複雑な気持ちになった。


「僕も好きな子がいるけど、上手くいくといいなっていつも願ってるよ」


 おぉ、六堂先輩にしては乙女の顔をしていらっしゃる。

 恋すると綺麗になるって言うけど、彼女も例外ではないようだ。


「へえ、あんた好きな人がいたのね」

「うんっ、同級生の男の子なんだ! 格好良くて優しくて笑顔が素的でさー!」

「ふっ、はいはい」


 ふむ、大谷さんを好きだったけど叶わなかった小日向くんということは、誰とも付き合っていないのはあのグループの中では谷口さんだけになるわけだ。

 で、そんな仲がいいうえに可愛い子が残っていたら男子としてはどうする? 意識するよねって話。


「あ、そろそろ僕は帰るよ!」

「え、あんたご飯はいいの?」

「うんっ、だいじょうぶい! じゃあねー!」


 ほんと何をしに来たんだあの人は……。


「んー、あたしはもう少しゆっくりしていくけどいい?」

「うん、どんなに遅くなっても送っていくから任せてよ」


 胸を叩いたタイミングで鳴った雷の音。


「雷か」

「そんなに雨脚が強いわけじゃ――ひぎゃあ!?」

「ちょっ!?」


 どうしてそれで僕に抱きついてくるんだぁ!?


「ご、ごめっ、……ちょっと驚いちゃって」

「だ、大丈夫だよ」


 千尋さんから受け継がれた柔らかさの暴力が僕を襲うよ!?

 彼女がすぐにパッと離れてくれて助かった、あのままだったら雨の中を走り出してびしょ濡れになっていたところだ。


「あ、ごめん電話、……もしもし? うん、えっ? うん、分かった、じゃあね……」

「里美さん? なんだって?」

「あ、今日は帰れないって、それと千尋さんから伝言、谷口さんを泊めていけって……」


 あのふたりどんだけ仲良しなんだ、谷口さんのお父さんと僕の父さんに嫉妬されちゃうよそろそろさあ。


「ま、そういうことなら仕方ないわね」

「えっ? べ、別に送っていくけど?」

「いや、あたし雷の音って苦手だし外出たくない」

「そ、そっか、……明日は休みだしね」


 まあ僕の精神的には良くないんだけどもね!

 どうしよう、ふたりきりだと考えたら一気にドキドキしてきた、だから草食野郎なんて揶揄されちゃうんだけどこればかりは仕方ないと捉えてほしい。


「少しは落ち着きなさい、別に迷惑をかけるつもりはないわよ」

「いやそうじゃなくて、……谷口さんとふたりきりだとドキドキしちゃってさ」

「はぁ? 別にふたりきりになることくらいこれまでもあったじゃない、なんなら一緒に喫茶店に行ったりもしたわ」

「その時とは違うっていうか……」

「は? なんでよ」


 はぁ、……この子って察する能力が低くて困る、特別な意味で好きとかじゃないけど一緒にいたい子なんだ。

 こんなことを女の子相手に思うのは初めてのことで、自分のことなのに戸惑っているわけだ。

 だというのにこの子は何も知らずずこんなことを言う。

 僕が彼女の気持ちを分からないんだから、彼女が僕の気持ちを分からなくてもなんらおかしくはないが……。


「えっと、どこで寝る?」

「そうね、あんたの部屋でいいんじゃない?」

「は!? だ、だだ、駄目だよっ!」


 何を行っているんだこの子はぁ!? 僕のこの慌てようで察しておくれよ谷口さんよぉ!


「ならどこで寝ればいいのよ? ソファでとかは嫌よ?」

「……なら僕の部屋の床でもいい? 敷布団持ってくるからさ」

「ならいいわ。って、あんたはどうするの?」

「僕はソファで寝る! 谷口さんと一緒とか無理だから」

「あ゛? なんでよ、別に取って食おうとはしないわよ?」

「だからさっ、……ドキドキするんだって」


 公開羞恥プレイか? プレイなのか? なんで君は「こいつ面倒くさいわね」的な顔をしているの!


「え、もしかしてあんた、あたしのことを意識しているってこと?」

「そ、そういうのじゃないけど、……恋人でもない女の子と一緒の部屋で寝るとか有りえないっていうか……」


 どうせ「そうだよ」なんて言ったところで「きっも、マジ消えろ、つか死ね」って言われるに決まっている。

 だからそれっぽい言い方をしてみた。これなら彼女だって文句を言えまいっ。


「別にいいじゃない」

「え、は、え? じ、自分が言っていることの意味が分かってるの?」

「意識されて嫌というわけじゃないし、女として」


 あーそういうことね、ただただメンタルが乙女だったってことね、期待して損した……。


「一緒の部屋で寝る、それでいいでしょ?」

「ちなみに断ったら?」

「脅すようなことはしないわ」

「……君が床で僕がベッドなら」


 何だこの子、今日は風邪でも引いてしまっているのだろうか。

 試しにおでこに手で触れてみると、少し体温が高いだけであくまで普通の領域に収まっていた。

 彼女は「なによ?」とこれまた怒らなかったので手を離したが、なんとも調子が狂う。


「よし、それで決定ね。さて、そろそろご飯を作るわよ! お腹ぺこぺこなのよ」

「うん、それじゃあ作ろうか」


 それからは一緒に作ったご飯を食べたり入浴を済ませたりしていつになく平和な時間を過ごした。

 そして僕にとって一番の戦いがやってくる!


「よし、寝るわよー」

「えぇ!?」

「ん? あ、豆電球にして寝るタイプだった? それは悪かったわね」

「いやそうじゃなくてさ、もうちょっとくらい会話くらい……」


 こんな機会多分もうないし。


「今日はもう眠たいのよ、寝ていいでしょう?」

「う、うん、おやすみ……」

「おやすー」


 電気が消され真っ暗になる。

 僕がこの領域から動いて下を見れば同級生の女の子が寝ている――なんて状況で寝られるかこのやろう!


「……東雲」

「うん?」

「ごめんなさい……」

「またそれ? もう、今日はどうしちゃったのさ。さっき雷が鳴ってたから弱気になってるの?」

「そうだと思う、もうあんな冷たい対応をしないから……」

「うん、それだけで十分だよ」


 今日だって友達になってくれてありがとうって言うべきなのは僕なんだ。

 どうしても謝罪がしたいという状態でも、逆にありがとうと言ってほしい。


「しの……のめ……」

「うん。……あ、はは、本当に眠たかったんだなぁ」


 一応布団をしっかりかけているか確認してから僕も寝転んだ。


「おやすみ、谷口さん」


 最初の緊張なんてどっかに吹き飛んでしまい、割とすぐに寝られた僕なのだった。

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