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06話.[なにそれ面白い]

「――というわけでお願いしたいんだけど」


 翌日の昼休み、谷口さんと距離を作るためにわざわざ空き教室にふたりを呼び出して頼んでいた。


「仲のいいふたりなら谷口さんだって気にしないだろうからさ」


 それでそのまま本格的に好きになったっていいんだし、伊澤くん的にも小日向くん的にも悪くないと思う。


「んー、でもそれは百花次第だからな」

「そうそう、それに僕らともあんまり変わらないからね」

「ならせめて近くにいてあの男の人が近づかないようにできないかな? 恐らく迷惑していると思うんだよね」


 振られたのを恨んでいるかもしれないし、僕としては近くにいてほしくないというのが本音だ。


「それ、東雲くんじゃ駄目なの?」

「そうだよ、最近はよく一緒にいるだろ? 百花だって口では色々言ってても付き合ってるんだからさ」

「いや、それは伊澤くん達がそういう風に決めたからでしょ、それがなかったら話してさえくれていないよ」


 根はいい子、ではあるが彼女にも関わらない権利というのがある、そのため、僕みたいな存在はすぐに切られるのが当たり前、前も言ったが自惚れることもできない。


「律儀に守ってる、って言いたいのか?」

「うん、そんな感じかな」


 僕が無理やり近づく、仕事でどうしても一緒にいる、そういう理由があって断れないだけとも言えるが。


「んー、それなら百花ちゃんに言ってみよっか。その答えを聞いてから判断しようよ大輝」

「そうだな、そうすっか!」

「ありがとう」

「東雲から言われる前に気になってたからな」

「うん、僕も心配だった、百花ちゃんってそういうの全然言わないからね」


 いいね、心配してくれる友がいるって。

 六堂先輩は寧ろ僕を振り回してくるタイプだからなぁ。

 ふたりは出ていき空き教室には僕だけになる。

 こんな時はナンプレでも解いて時間をつぶすのが最高だ。


「って、お弁当を持ってきてないから取りに行かないと」


 教室は横なので取りに行くのはあっという間だ。

 だから教室に取りに来たのだが……。


「あんた余計なことすんなって言ったわよね?」


 お弁当袋を掴んだ手を掴まれて移動することができず。


「余計なことをするなとは言われてない――」

「うっさい、察し力が低いのもうざいわ」


 というか彼女は何を理由に怒っているんだ?

 いや、常に不機嫌娘ではあるがここまで理不尽な存在ではないと分かっている。


「伊澤くん達なら信頼しているだろうしいいと思ったんだけど」

「は? なんの話?」

「え?」


 もしかしてまだ動いてくれてない? どう切り出していいか彼らも分かっていないということなのか? ……それなら仕方がない、仮に僕が嫌われることになっても彼女が被害に遭わないようにすればいいんだ。


「あのさ、あの変な男の人のことなんだけど」

「ああ……」


 彼女は凄く複雑そうな顔をする。

 振った相手に付きまとわれていたら僕だって怖い、だから何ら間違ってはいない。


「それでさ、彼氏のフリをしてもらえばいいんじゃない?」

「はぁ?」

「もう彼氏はいるよって感じを出したら、あの人だって近づいて来ないでしょって話だよ」


 仮に物理的な手段に出てきたとしても伊澤くんは柔道が得意だし一本背負いとかして叩きつけて勝利! なんてこともできる。

 非力な僕ではできないことを彼はできるんだ、頼らない手はない。


「ちっ、なるほどね」

「いいでしょ?」

「ん……でも、大輝達を使うのは失礼でしょ、それって自分の快適のために大切な友達を利用するってことなんだよ?」

「いいじゃん、谷口さんが大切だと思っているなら向こうだって大切に思っているはずだよ。なら大切な友達のために何かしたいって考えるのが普通だよね?」


 精神的及び物理的な意味でも安心できる。

 後は下らない罰ゲームを終わらせてくれればいい。

 強制力がなければ一緒にいられない関係なんて無駄だから。


「い、言い出しっぺはあんたなんだからあんたが頼みなさいよ」

「大丈夫、もう言ってあるから」

「は?」

「後は伊澤くん達に頼ってね、それじゃ僕は外でご飯を食べてくるからさ」


 ご飯を食べないままで午後は乗り切れない。

 それに残したまま家になど帰ったら母さんに倒される。

 が、やっぱり移動するのは面倒くさいのでここで食べることにしたわけだが、


「あの、そんなに睨まれていると食べづらいんだけど」


 前の席に座りこちらを見る谷口さん。

 しかしそれだけではない。下手をすると大谷さんがやって来てまた冷たく言われる可能性が出てきてしまうのだ。


「……なんで勝手にそんなこと」

「あー、暇つぶし?」

「暇……つぶし?」


 あ、もうちょっといい言い方をするべきだった。

 暇つぶしなわけがあるか、僕は僕なりに心配しているんだ。


「東雲、ちょっと百花を借りるぞ」

「いやいや、消しゴムを拾ってくれただけだよ」


 ふたりが去り、大谷さんがやって来ました。

 僕の机をバンッと叩いてこちらを睨む。


「百花といるのが暇つぶしってどういうこと?」

「ちょ、教室教室、しかも本人そこにいるから……」

「ちっ」

「えぇ……」


 そんな谷口さんじゃないんだから……。

 このざわついた教室で聞こえたのも凄い耳だ。

 いつだって谷口さん優先で生きている、のかもしれない。

 なんだ、やっぱり大谷さんは彼女のことが好きなんじゃないか。


「こはくちゃんはいつの間に東雲くんと仲良くなってたの?」

「え? 私、東雲くんと仲良くなんかないよ?」

「そっか」


 おぅ、これはあれか、三角関係ってやつだろうか。

 大谷さんは谷口さんが好き、小日向くんは大谷さんが好き、恐らく伊澤くんは谷口さんが好き、と、だ、誰を応援したらいいんだぁ……。


「東雲くん」

「は、はい」

「こはくちゃんや百花ちゃんに良くないことをしたら怒るから」

「はい……」


 僕って信用ねえなあ!! はぁ、まあ友達になることすらじゃんけんで決められるくらいだしね。

 しかも予鈴が鳴ってお弁当を食べること叶わず、なんでだ……。




「ふははははっ、なにそれ面白い!」

「こっちは面白くないですよ……」


 図書委員の仕事だって「あんたといるのが嫌だから」とか言われてひとりでやっているんだぞ? まったく、他人事みたいに笑いやがってこの先輩め!


「瑞って嫌われるのだけは得意だね~」

「嬉しくない……」


 ま、代わりに彼女がいてくれているからまだマシだけど。


「にしても、心配なのに『暇つぶし』なんて言い方はバカでしょ」

「いや、それで伊澤くんや小日向くんがいい人なんだと強調できればいいかなって思ってさ」

「だからって瑞が悪者を演じるの?」

「悪者ってほどじゃないでしょ? 僕らしく行動しただけだよ」


 それに元々友達なんかじゃない。

 でも、だからこそできることってのもある。

 彼女はふたりを大切にしているがふたりを頼ろうとは全然していなかったので、そういう場合は外側から影響を与えていくしかないのだ。

 第三者を頼るならば角が立たない。ドロドロとした関係をこれ以上悪化させない、で済むはず。


「もういいんじゃない? 百花の側にいなくて」

「うん、まあそれもアリかもね」


 あのグループは互いを思いやっているみたいだし頼ってこない限りはでしゃばる必要はないと思う――って、そもそも頼ってくることは僕がモテることよりもありえないことになるが。


「瑞は僕のご飯を作ることだけに集中しておけばいいんだよ」

「それもあくまでおまけだけどね、そういう条件を達成しないと続かない関係なんて無駄じゃん」

「むぅ、無駄って酷いやんけ!」

「はははっ、何その言い方っ」


 あくまで普通の友達がほしいんだ。

 だって今のままだと条件を達成できなくなったらあっさり切られてしまうということだろ? そんなのは嫌だから。


「んー、百花は素直になれないところがあるからね」

「素直になれないとかってより、単純に僕が嫌われているだけでは?」

「それもあるけどさ、きっとそれだけじゃないよ」

「はは、やっぱり一年多く生きているから?」

「そう! 僕は瑞より凄い!」

「そんなの分かっているよ」


 僕が関わっている女の子の誰よりも胸が大きいとかね。

 正直に言って腕を抱かれたりするだけでもドキドキするんだよなあ、でもだからこそ友達以下の扱いが虚しくなるっていうか。


「モヤモヤする! やっぱりこのまま距離を置くのはだめ!」

「んー、まあ僕個人的に言わせてもらえば一緒にいたいわけだしね」

「素直になれないのは草食野郎もか! あっはっはっ!」

「どうせ積極的になれないですよー」


 あんな冷たい反応を常にされてどうやってポジティブでいろと言うんだ。

 高難易度、月に五回以上お小遣いを前借りすることよりも大変だろ。


「拗ねるな拗ねるな! ふぅ、よし! お姉ちゃんが百花を呼び出してやろう!」

「え、無理でしょそんなの」

「できるんだなこれがっ、もし来なかったら……ふへへへへ、するから大丈夫。瑞は楽観して待ってればいいよ」


 心配だ、谷口さんのことが。

 どうせろくでもないことをして迷惑をかけるに違いない。


「止めるべきだった!」


 だがもういない。

 神様の存在は信じていないが、今だけは無事で済むようにと願っておこう。

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