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021  作者: Nora_
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「ちょっといいかな?」

「うん、じゃあ教室を出ようか」


 珍しいことにちょっと驚きつつも僕らは廊下に出た。

 梅雨の時期も終わり7月になった。

 その間、普通に避けられていたのに今更になって大谷さんが来た理由――ま、わざわざ聞かなくても彼女がこれからネタバラシをしてくれるだろうと割り切る。


「あの時はごめん」

「大丈夫だよ」

「でね、東雲くんだからこそ相談したいことがあるんだけど」


 これってもしかして「百花のことが好きなの!」というやつだろうか。

 別に約束をしたわけでもないし、僕のではないし、なんなら物でもないが、いまからそれは僕にとってちょっと、いや、かなり痛い。


「私、湊くんのことが好きなんだよ」

「えっ? 伊澤くんと付き合っているんじゃ……」

「ええ!? 私達は確かにずっと一緒にいるけどそんなのは1回もないよ?」


 百花の嘘つきめがぁ!

 でも、百花が好きとかそういうのじゃなくてよかった。

 が、そうなると今度はどうすれば小日向くんに振り向いてもらえるかということが問題になる。


「どうすれば好きになってもらえるかなあ?」

「んー、やっぱり明るくにこにこが大事なんじゃないかな。頑張りすぎると大谷さん本来のよさが出せなくなるから――って、どうしたの?」


 何故僕を驚いたような顔で見るんだ? 百花が同じ立場でも似たようなことを言うと思うが。


「い、いやっ……そうだよね、いつもどおりがいいよね!」

「うん、大谷さんの笑顔って魅力的だからそのままでいいと思うよ」

「そ、そういう言葉は百花に言ってあげなよ!」

「あたしがなに?」

「「うひゃああ!?」」


 驚いた僕らに「なによあんた達……」と呆れた表情。

 なんだ? 別にやましいことをしていたわけでもないのに感じるこの申し訳なさは。


「こはくちゃんどうしたの?」

「あ、湊く――東雲くん、後はよろしくね!」


 そういう放置の仕方は1番駄目だ! そうでなくてもこれから小日向くんにアピールをしなければならないんだからさ!


「駄目だよ大谷さん」

「うぇ!? な、なんで私の腕を掴んで……」

「ちょっと東雲くん、こはくちゃんになにをするつもり?」


 明らかな敵意、と言えるのかな……?

 でも、分かりやすくて丁度いい、いま動いてくれたのは最高だ。


「小日向くん――いや、湊、このまま僕を自由にさせてたらこはくに悪さするけど、大丈夫?」

「いや、そうと分かってて放置することなんてできるわけないでしょ? こはくちゃんは渡さない」


 よ、よかったあ!! 乗っかってくれて助かったあ!  

 もしそうならなかったら、うぅ、ただただ痛い奴で終わってたよお……。

 にしても、呼び捨てにしてしまったことはいいのだろうか――あ! 僕がちゃん付けで湊くんに呼び捨てにさせるべきだった!

 うん、とにかくふたりは仲良さそうにどこかに行ってしまった。

 残れされた僕は百花の方を向いて肩を竦める。


「似合わないことすんじゃねえ」

「いや、というか百花も嘘つかないでよ」

「あははっ、馬鹿みたいに信じたのが悪いのよ」

「百花の言うことは基本的に信じるけど?」

「嘘つきっ。まあいいわ、教室に戻るわよ」

「うん」


 と、ここまではよかったのだ。


「東雲、ちょっといいか?」


 放課後、僕は空き教室に呼び出された。

 この形は久しぶりで、あの時のことを思い出して微妙な気持ちになる。


「悪いな、わざわざ来てもらって」

「放課後は特に用事ないから」

「そうか」


 独特の間がある、あの時とは違うなにかがあるということだ。

 実はこの人こそ内に潜めた感情をどうすればいいか決めあぐねいているということか?


「お前に言うのはくっそださいことなんだけどさ」

「うん」

「ふぅ、百花のこと、諦めてくれないか?」


 だと思った。

 まあ、自分のことを考えなければこはくさんを好きだと言われることよりはマシな流れではある、だって本人の口からはっきりと湊くんが好きだと聞いたからだ。

 そしたらいよいよ複雑になるが、こっちはそうじゃない。


「諦めてくれって、別に僕はそういう意味で好きなわけじゃないよ」


 前と違うのは百花が気になる存在に変わってしまっているということだ。

 でも、止める権利はない、本人が拒絶しない限り常識的な範囲で動く権利がある。

 それは僕も同じこと、だが……。


「じゃあ、いいのか?」

「いいのかもなにも、受け入れるかどうかを決めるのはあの子でしょ?」

「ふっ、俺が無理だったらってことか?」

「いや、そんなこと言うつもりはないよ」


 そこまで自惚れてもいない。

 ちょっといい感じになったからって相手も同じように気に入ってくれているなんて考えない、それどころか長く一緒にいる分、彼の方が相応しいとすら思える。


「いや、やっぱだっせえな俺」

「そんなことはないよ」

「いやださい――いるんだろ、百花」


 なにをってお約束の反応をしようとしたら「はぁ……いや、盗み聞きするつもりはなかったのよ? ただ、こんな真横の空き教室でされたらちょっとね……」とちょっと言い訳をしながら本当に彼女が現れた。


「東雲、最後にチャンスをくれないか?」

「チャンスってこの子にアピールしたいということか」

「そうだ。せめてなにかをしてからじゃないと悔やんでも悔やみきれないだろ?」

「まあ、その気持ちはよく分かるよ。僕もなにもせず時間だけが経過してめちゃくちゃ悔しい思いをしたことだってあったからさ」


 寧ろ取り柄がなにもないからこそ周りより頑張らなければならなかったのにいっつも正当化して向き合うこと、行動することから逃げていた。

 で、それを毎回終わってから後悔して「次は頑張る」なんて誓いを立てるくせに次もまた同じような失敗を繰り返すのだ。


「でも、それは彼女に言ってもらわないと」

「だよな。百花、そういうわけだから、いいか?」

「無責任に『いいよ』なんて言えるわけないでしょうが。やりたいなら勝手にやりなさい。それで満足できるなら、やって後悔しても構わないと言うのなら、ね」

「そうだよな。うん、今日のところはとりあえず帰るわ」

「了解、それじゃあね大輝」


 伊澤くんが帰って彼女とふたりきりになる。


「あんた馬鹿ね」

「えっ!?」

「なんでそこで変にヘタるのよ! この草食野郎!」

「いや、だって嫌だななんて言う権利ないし、そもそも百花次第だしさ」

「じゃあ頑張ればいいじゃない。あたし次第なんでしょ?」

「すごい発言をしてるって……分かってるの?」


 それではまるで僕も好意を抱いているみたいだろう。

 気になるレベルに入ってきているということは確かだが、まだ確実に特別な意味で好きだと自覚できるほどではないぞ。


「じゃあさ、どうしてお父さんが名前を呼べって条件を出された時あんた呑んだわけ? 菖蒲が勝手に送信したとはいえ、あたしのアカウントから『家に来て』とメッセージがきたから?」

「そりゃ……僕が君といたかったからだけど」

「その割には変な遠慮をしているじゃない。というかさっきの感じから大体分かったわあたし、大輝の方が長く一緒にいる分相応しいとか考えたんじゃないのっ?」

「うっ……うん、考えた」

「お馬鹿! ほんとにあんたは草食野郎ね!」


 しょうがない、こんなのは初めてなのだ、経験がないからちょっとずつ様子を見ながら動いていくしかないのだ。

 というか今回だって勝手に盗み聞きをしていた百花が悪い! 前もそうだし、盗み聞きなんかするべきじゃないぞお!


「いーい? 次に変な遠慮をしたらぶっ飛ばすからね!?」

「は、はい……」

「ふんっ、帰るわよ!」

「あ、うん、そうだね」


 いやいや、やめておくれよ百花さんよ。

 こうして一緒にいてくれたら勘違いしてしまいそうになるからさ。




 ったく、いちいちこんな恥ずかしいこと言わせるんじゃないわよ瑞!

 分かっている、自分でも大胆な発言をしていることは、もしかしたらただの自意識過剰なのかもしれないということが。

 でも、こいつはあたしが素気なく対応していても一緒にいてくれたんだ。

 決して文句を言わないということがいいというわけじゃないけど、文句も言わず、それどころかこっちのことを考えてくれたうえに、だ。

 しかもいつでも優しい笑みを浮かべてくれるやつなんだ。

 自分が濡れることも厭わず守ってくれるそんな初めての男子。

 確かに瑞が考えているように大輝とは長く一緒にいる分、お互い分かり合えている部分が多くて付き合えたらもっと楽しくなることだろう。

 が、もう駄目なんだ、少なくともこいつと出会う前にはもう戻れない。


「あれ、お店はあっちだけど」

「知ってるわよそんなのっ、もう16年も過ごしているのよ?」

「いや、え、どこかに行く予定でもあるの?」

「はあ……もう……あんたの家に決まっているでしょうが!」

「ええ!? あ、母さんに用があるとか? 今日は遅くなる的なことを言っていたけど」


 あーもうなんでよ、あんたがあたしと一緒にいたいって言ったようにあたしもいたい……ってことが伝わってない! 

 瑞のことだから一方通行だとかなんとか考えて消極的になりそうだし、かといってこっちが大胆に動くとただ痛い女になっちゃうしで難しい!。


「お邪魔します!」

「ちょ、顔がこ、怖いよ?」

「余計なお世話よ」


 さて、あたしはどう動けばいいんだろうか。

 一応思わせぶりなことは言っていないから大輝に罪悪感を感じることはない。

 とはいえ、問題は瑞の肝心なところでヘタる性格、よね?


「いや~、梅雨が終わって良かったね」

「そうね、横に座ってもいいかしら」

「うん、大丈夫だよ……ってえっ、なんで僕の手を握るの!?」

「あ~、座る際に間違えて触れてしまっただけよ。だって狭いじゃない」

「いや、それは君が詰めてきているだけ――はい、狭いですよねここ」


 ああもうっ、あたしだって初めてなんだから瑞がリードしてくれないと困る。

 決して奥手というわけじゃないけど、こういうのは相手の方からグイグイ来てほしい。

 今で言えば瑞の方からしてくるくらいのアピールをさあ……。


「でもさ、せめて伊澤くんとのそれが終わってからにしてくれないかな、流石にこんな……抜け駆けをするような形は申し訳ないよ」


 は? なにこいつ悠長なことを言ってんの? 自分で言うのもなんだけど他の男子からも求められているのよ? しかもあんたより付き合いの長い大輝からなのよ!? それともあたしがあんたの方に向きかけてることが分かっているからこその余裕なの? ……止める権利はないからって大輝にはっきり言わなかったのが仇と出たか。

 でも、もう可能性はないからやめろって言うのもなんとも偉そうだ。

  

「……あのさ、もしちゃんと言ったらあんたは……」

「その方がお互い気持ちよく関係を深められるでしょ? 逆もそうだよ? もし伊澤くんとってことなら僕にはっきり言ってほしい。大丈夫、割り切れはしないだろうけど受け入れはするから」

「……大輝に言う、だから約束、守ってよね」

「……ちゃんと考えた?」

「大輝には悪いけどね」

「……そこは百花に任せるけどさ」


 そうだ、あたしが動かなければいけないこと。

 気がすすまないけどしょうがないことだ。

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