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アルクの妻達 後編

「始めましょう」


アルク商会の地下室、ローゼスが鉛の箱の前で告げる。

鉛の箱はローゼス達の腰位の高さがある。

蓋は少し斜めになっており、鍵や取っ手がある訳で無く、本当にただの箱にしか見えない。

(鉛では無く魔力を通さない特殊な金属だが)


解錠(アンロック)


ローゼスが箱に指先をかざして呟く。

蓋が静かに傾き、床に落ちた。

箱の中から凄まじい異臭が漂う。

中に糞尿が箱一杯に詰まっていた。


浄化(クリーン)


臭いが地下室に籠る前にフレアが呟く。

たちまち糞尿が消え失せ、箱の底に手足の無い、うつ伏せに金属で拘束された男が姿を現した。


「...ガ、ゲホッ!」


男が激しく()せる。

男は生きていた、1年の間糞尿の中に浸けられながらも。


「気分はどうだ?」


ローゼスが上から男の背中に聞く。


「ロ、ローゼス...もう止めてくれ...」


「何を言っている、お前がやった事だぞ?夫婦を襲い、女を亭主の目の前で犯し、最後に亭主を肥溜めに落として殺した。

全てお前が女から奪った記憶に有った事だ」


「ゆ、許して...アスタ...助けてくれ」


顔を上げアスタに助けを乞う男、ハンク。

勇者は発狂しない。

どんな境遇に晒されても正気を保てる運命が約束されているのだ。

 

「気安く呼ぶな...」


アスタが怒りを込めて呟く、手にした剣が震える。


「落ち着きなさい」


「...はい」


今にも斬りかかりそうなアスタをローゼスが諌めた。


「死な無いのは便利だろ?」


フレアが呟く。


「た、頼む...殺してくれ」


「せっかく私の呪いを[身代り]してくれたのに、つれないな」


[身代り]はスキルでは無い。

勇者が呪いや怪我をした聖女や賢者の身代りになれる。


先代の勇者は魔王討伐の際、魔王から呪いの攻撃を受け片腕を失った聖女に[身代り]で自らの腕を失っていた。

魔王の呪いに先代の勇者の腕は再生されなかった。


ハンクは馬鹿な男。


13年前、[身代り]を脱出に使えると勘違いして王宮の地下牢に来ていたフレアに使い、死なない呪いを受けた。


それは仕組まれた事、[身代り]の話を聞いたローゼスがハンクの牢番達に雑談の様に聞かれる様に仕向けた。

『身代りは全ての、場所や体も入れ替わる』と。


「愚かな奴だ」


フレアは地下牢で『身代り』と笑顔で叫んだハンクを思い出していた。


「時間が勿体無い、次に行こう」


ローゼスは手にしている手帳を捲る。

内容はハンクが今まで犯した罪状が書き込まれてある。


「これにしよう、[強盗に入った後で家族を焼き殺し、残った女を犯した]か。

お前は女を襲う事しか頭に無いのか?」


呆れながらローゼスが読み上げた。


「や、止めてくれ!」


アスタがハンクの身体に手を差し出した。


火炎(フレーム)


「ギャー!!」


アスタの言葉と同時に凄まじい炎が箱の中一杯に広がる。

アスタの詠唱した[火炎]は1年以上消える事が無い。


凍結(フリーズ)


燃え盛る炎の上からフレアが[凍結]をハンクに唱えると絶叫が止んだ。

勇者に[凍結]のスキルは1ヶ月しか効かない。

だがハンクが目覚めた時に襲う絶望感を考えると行わずにはおれなかった。

箱の中でハンクは焼かれ続ける。

呪いの効果で絶えず再生しながら...


ローゼスが後ろに控えていた男達に目配せをすると無言で蓋をする。

彼等は王宮から派遣されて来た者達。


施錠(ロック)


ローゼスが呟くと蓋は完全に密封された。

これで蓋は開かない、ローゼスが解錠しない限り絶対に。


「後は宜しく」


ローゼスは残った男達に声を掛け、アスタとフレアを引き連れて地下室を後にする。


地下を出た3人はそのままアルク商会の特別室横の広間に来た。

それぞれ持参の服に着替え、化粧をする。


「どうしました?」


「いえ...」


「...なんでもありません」


着飾ったローゼス、その美しさにフレアとアスタは圧倒される。


「自信を持ちなさい、貴女達は綺麗です」


ローゼスが優しく励ます。

その笑顔に2人は王都の学生時代を思い出した。


「「はい」」


「宜しい」


思わず笑い出す3人。

子供達には想像も出来ない母親達の姿。


「いくよ姉さん」


「いいよ、フレア」


フレアとアスタのやり取りをローゼスが頷いて見る。


解除(リリース)


慈愛(チャーティ)


特別室の扉に向かいフレアとアスタが呟く。

3人は空のコップが置かれたテーブルを囲み静かに待ち続ける。

愛しいあの人を...


やがて特別室の扉が開く。

ローゼス、アスタ、フレアの視線が一斉に注がれた。


「みんなご苦労様、果実水飲む?」


笑顔で果実水が入った水差しを持つアルク。


「「「はい!」」」


喜びに満ちた3人の声が響いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] しかし、これが貴族で勇者だったとか記録抹消並みのゴミとしか。ただの山賊野盗風情が表向きの称号得た悲劇か。
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