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キミのセカイ  作者: 涼夜りん
第三章:SSJ結成編
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第19話:迷子の黒猫

 こうして四人は様々な店を回りはじめた。

 雑貨店に服屋、ランジェリーショップに……

「サラマル、女性用の下着コーナーじろじろ見ない方が良いよ」


「み、見てねえよカレブ! そう言うカレブだって見てんじゃねえの?」


「下着ごときで発情しないよオレは」


「ねーねーサラマル、あの下着、ゆきなに似合いそうだと思わない?」


「……っ!?」


 ベルシュに耳打ちされたサラマルはフリーズする。


「こ、こらベルシュ! 変なこと言わないで!」


 赤面したゆきなの抗議。


「わりぃひめ……」


 何故かサラマルが謝った。


「もう……変態は知らない!」


「ちょ、待てよひめっ……カレブ何やってんだ、ひめ行っちまうぜ!」


「ギルから連絡が入ったんだ」


 立ち止まったカレブは端末を手に顔を上げた。


「へ?」


 サラマルとベルシュが顔を見合わせた。


***


 久しぶりの和やかな雰囲気も束の間。

 ゆきなは迷子になってしまった。

 少し羽目を外しすぎたらしい。


 広いショッピングモールに一人きり。そういえば、携帯端末を持っていない。ゆきなは途方に暮れながら歩き続けていた。

 今頃サラマルたちは心配していることだろう。


「クレープ食べきってから、全力でみんなを探さないと……!」


 決意を胸に踵を返し、広い中央ホールにある噴水の縁に腰をおろした。

 すると……ぶに。

 何か変なものを踏みつけた感覚がして、勢い良く立ち上がる。


「な、なに!?」


「……それはこっちのセリフ」


 噴水の縁に寝そべっていた少年が、むくりと起き上がった。


 ゆきなと同い年くらいだろうか。

 癖のない艶やかな黒髪に、中性的な、端正な顔立ちをした少年だった。目を引くのはその海色の瞳。眠そう……というか、気だるげなオーラ全開でこちらをジィッと見上げている。


「あ……踏んでしまってごめんなさい」


「いいよ別に。男の尻に踏まれるよりは何百倍もマシ」


 少年は台本を棒読みしているかのような抑揚の無い喋り方をした。何の感情も浮かばない無表情。そもそも込める感情が無い。それがこの少年を表す、的確な表現に思えた。


「あの、ここで寝ちゃ風邪ひきますよ?」


「んー。だったらさ、ここが何処だか、教えてくんない?」


「はい?」


「俺、迷子だから」


「き、奇遇ですね」


「お前も、迷子の子猫ちゃん?」


「子猫では無いけど……」


「ふーん……面白い匂いがすんな、お前」


 少年は「どっこいしょ」と、気のない掛け声と共に重い腰をあげた。


「もしかしたらお前、ツレがいんの? 男の」


「そうだけど……なんで分かったの?」


「さあな。俺も自分のことながら、びっくりしとる」


 立ち上がった少年は一瞬よろめくと、額を手で押さえた。体調が良くないのか、顔色が悪い。


「……ひめ」


「え?」


「ひめ……これ、お前の名前?」


 少年がぼそりと問いかけた。


「え。いや、名前じゃないけど、そう呼んでくれる人がいるよ」


「なるほどね」


 少年はここではじめて、ニヤリと笑った。


「そんじゃ、この優しいおにいさんが、迷子の子猫を飼い主のもとまで送ってやるよ」


「な……飼い主って」


 失礼な少年だった。


「ぼやぼやしとると問答無用でおいてく」


 少年はそう言うと歩幅大きく歩いて行ってしまう。


「うわ、ちょっと待ってよ!?」


 ゆきなは急いでその背中を追いかけた。

 しばらく少年に続いて歩いていると、すぐにサラマルたちと合流することができた。


「ひめ、無事だったか!?」


 サラマルは血相を変えていた。


「大丈夫だよサラマル」


「ダメでしょゆきな、勝手に歩いていっちゃ」


「そうだよ、どっかのナンパ野郎に着いて行ったのかと思った!」


「ごめんねカレブくんにベルシュ」


 ゆきなは申し訳なさそうにうつむく。


「それにしてもひめ、この隣にいる奴だれ? その、どっかのナンパ野郎ってか?」


「違うよ、私をここまで連れてきてくれた人なんだけど……」


「なんだ、そうだったか。わりーな、わざわざひめを送り届けてもらって」


「別に。お前に礼なんか言われる筋合いは無い」


 青目の少年は素っ気なく答えると、ツカツカとゆきなのもとへ歩み寄って来た。そして、ゆきなが持っていたクレープをひょいと奪った。


「あ……私のクレープ、食べかけなんだけど!」


 少年は素知らぬ顔でそれを頬張っている。


「だからこその報酬だよ。送り届けてやったお礼ってやつ、ほんとは、お前の唇が良かったんだけど」


 少年は、指についたクリームを舐めとって、流すような視線をゆきなの口元に向けてきた。

 ゆきなはドキリとして、両手で口を塞ぐ。


「今日のとこは、これで勘弁してやるよ。ひーめちゃん」


 少年はそう告げると、踵を返して歩いて行った。その足取りは重いのに、丸めた背中や雰囲気は、どことなく野良猫を彷彿とさせた。


「ま、まって……このまま、どこ行くの、あなたも迷子じゃなかったの?」


 ゆきなは急いでその背中に問いかける。


「……なんか俺のこと呼んでる奴がいるから、行ってみることにする。気に入らなかったら逃げるのみだな」


 少年はそれだけ答えると、人混みの中へと消えて行った。


「と、とりあえず……心配かけてごめんね、みん……な」


 振り返ったゆきなはぎょっとした。サラマルとベルシュとカレブは、近づいただけで火傷してしまいそうなほど、苛立っていた。


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