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朱殷の華  作者: 暁紅桜
12/12

011

雨が上がり、青空が広がって眩しい太陽が差し込む。

庭に咲く紫陽花は雫でキラキラと輝き、庭にできた水たまりには空が写り込んでいた。

神秘機的なその光景を、少女は縁側で足をばたつかせながら見つめていた。


なぎ


不意に名前を呼ばれて、声のした方に目を向けた瞬間、少女は満面の笑みを浮かべて走り出した。


「おとうさまっ!」

「何してたんだ?」

「おにわ見てたの。すっごくきれいだったから」

「そうか」


優しく頭を撫でられると、凪は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「おしごとは?」

「あぁ。これからこうの所に袴を届けにいいくんだ。凪も来るか?」

「いく!」

「そうか。なら、すぐに準備しろ」

「おかあさまも?」

「あぁ。三人でだ」


三人のお出かけが嬉しいのか、子供らしい無邪気な笑みを浮かべて部屋へと走り出した。


「おかあさま」

「あら、凪。どうしたの?」

「おでかけ、こうさんのところ」

「ふふっ。嬉しそうね」

「さんにんだから。おとうさまとおかあさまと」


ご機嫌の娘に、母親は優しく頭を撫でてあげて、ぎゅっと抱きしめた。


「着物、どれ着るの?」

「さくら!」


出かけるときは、いつもとは違う着物を着ることができる。呉服屋の娘として産まれてきて、この世に生を受けたその瞬間に、彼女は家の跡取りとなった。

まだ幼いため、跡取りとしての教育は行っていないが、凪は着物が大好きだった。色や柄、それを見ているだけでも楽しい。帯や着物の組み合わせも、考えるのが楽しい。


「きょうね、おそとのけしききれいだった」

「そうなの?」

「うん。この前きてた、おきゃくさんがかっていったきものがらににてた」


凪はすっかり着物の虜になっていた。ふとした風景から、家にある着物の柄を思い出したり、こういう柄の着物があったらなと考えたりする。


「準備できたか」


襖の向こうから父親の声が聞こえ、凪は大きく返事をした。


「おっ、似合ってるな凪」

「おかあさまのおなまえのおはな。この前は、おとうさまのお花だったから」

「……桜花、娘が可愛すぎてやばいんだが」

「もう何度も聞きましたよ。いい加減慣れてください」

「ねぇ、はやくおでかけしよう」


うずうずと体を揺らしながら、凪は二人を待つ。そんな様子がとても愛らしく、思わず笑みがこぼれてしまう。

立ち上がった二人は、右手を母親が、左手を父親が繋いだ。


「嬉しそうだな、凪」

「うん。なんかね、ずっと前からそうだったの」

「ずっと前って」

「こんなことしたい、あんなことしたいって。わたしが思ってるはずなのに、だれかがわたしにおねがいしてるみたいな」


不意に聞こえた鷹の鳴き声に凪は空を見上げた。雲ひとつない青空に、縁を描くように飛ぶ鷹の姿。


「おとうさま?」


その時、父親が顔を片手で隠しながら泣く姿が目に映った。母親も、どこか寂しそうな姿をしており、凪は途端に不安になった。


「ふたりとも、どうしたの?わ、わたし……な、なにかわるいこと、いった?」


不安で、泣いちゃダメなのに涙が溢れ出てきてしまう。

笑ってて欲しいのに、自分のせいで二人が悲しい思いをするのは嫌だった。


「違うんだ。ごめんな、不安にさせて」

「心配しなくていいのよ」

「ホントに?」

「あぁ。父さんが泣いてたのは、友がタバコを吸いすぎて死なないかって不安で泣いてたんだ」

「じゃあ、わたしがこうさんにいう!タバコやめてって」

「おう、いってくれ」


また、両親が笑みを浮かべて、凪は嬉しくて一緒に笑みを浮かべる。


【二人のこと、お願いね】


「ん?」

「どうした、凪」

「……ううん。なんでもないよ」


三人は、再び歩き始める。










————貴方様に、いい縁が来ますように










《彼岸花》


 燃えるような真っ赤な花を咲かせる一輪の華。

 黄色や白なども見られるが、多くは赤い、まるで血を吸ったかのような鮮やかな色合いをしている。


 夏終わり、木の葉色づく、秋の頃。


 夏の終わりから秋の初めにかけて咲き始めるこの華は、別名【曼珠沙華】と言われている。異名では【死人花】【地獄花】【幽霊花】と《死》を連想させるものが多くある。

 しかし、その名は的外れではない。なぜなら、この華は《有毒植物》。吐き気や下痢、ひどい時には《死》に至る症状も出たりする。

 そんな華に込められた言葉もまた、儚くて尊いものが多くある。


 そんなものが混じりに混じり、一つの《儀式》が生み出された。

 それが本当に良いものなのかはわからない。だが、多くのものがその儀式をどうしても行いたいと思う。それは、儀式を行った自分自信が、未来という一歩を踏み出すために、過去との縁を断ち切り、来世で再び出会うためのモノ。



 その儀式はーーーーーーー















【悲願の儀式】
















                                《完》


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