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朱殷の華  作者: 暁紅桜
10/12

009

【ヒガンの儀式】には副作用が存在する。

死者との再会を果たし、その縁を断ち切ることにより、儀式を行った人物から呼び出した者の記憶が消えてしまう。つまり《忘却》である。

縁を切って新しい縁を結ぶ。それはつまり、大切な人の記憶を消すということだった。


これが、儀式の内容は知られているのに、結果が知られていない理由である。





副作用を受けたれんの記憶から、凪沙の存在は消えてしまった。

周りに何を言われようと、仏壇を見せられたも、蓮は何も思い出すことはできなかった。自分に、妹がいたことすら知らない状態だ。


「もう梅雨の季節か」


儀式のことも忘れてしまい、自分の腕の傷を見ても何も思い出せなかった。

蓮の中から、完全に儀式に関する記憶と凪沙に関する記憶は、忘却していた。


「蓮、ここにいたの」


縁側で、雨に濡れる紫陽花を見ていると、慌てた様子で母がやってきた。

今日は店も休みだから、なぜ母がそんなに慌てているのかわからなかった。


「なんかあったのか?」

桜花おうかさんの部屋に急いできなさい」

「桜花に何かあったのか?」

「そんなに心配しなくてもいいわ。いいことだから」

「いいこと?」


母はにっこりと笑みを浮かべると、そのまま優しく蓮を抱きしめた。

何年ぶりに母に抱き締められただろうと、驚く蓮だったが、それ以上に母は衝撃的なことを口にした。


「桜花さんが妊娠したわ」

「え……」

「あなたに、子供ができるの」


それはとても喜ばしいことだった。蓮と桜花の、二人の子供。


「ほ、ホントに……」

「えぇ」


蓮はそのまま急ぎ足で廊下を歩き、桜花の部屋へと足を運んだ。

部屋の中には蓮の父や使用人の他に、桜花の両親の姿もあった。


「蓮さん……」


最近、桜花の体調がすぐれないことは知っていた。だが、それが妊娠によるものとは思ってなかった。

桜花の側により、蓮は彼女の手を握りながら涙を流した。


「ありがとう、桜花……」

「泣かないでください。これからなんですから」


大きくなったお腹には新しい命が宿っている。桜花に触ってもいいか尋ねると、笑顔で「どうぞ」と答えた。

触れたお腹の先にいる新しい命。誰かいるのを感じ取ったのか、奥から何かが響いた。


「わぁ、動いた」

「生きているんですから当然ですよ」

「男と女、どっちだろうな」

「名前、両方考えないといけませんね」




両親や使用人はそのまま部屋を出て生き、残ったのは蓮と桜花だけだった。


「どれがいいだろうな」


部屋の中には、たくさんの名前候補の紙が散らばっていた。

男の子の名前や女の子の名前。分けられることなく、ただただ部屋の中に混ざって置かれていた。


「俺もお前も、花の名前が入ってるから、子供にもつけてやりたいよな」

「まぁ急いで考えることもないと思いますよ。ゆっくり考えましょう」

「そうだな」


不意に、蓮の手に一枚の紙があたった。

その紙に書かれた名前を見た瞬間、頭の中に鈴のような音が響きわたった。

それと同時に、誰かの声も聞こえた。


「蓮さん?」

「え? あぁなんでもない」


蓮が触れた紙。そこに書かれていたのは《なぎ》という名前だった。


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