嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい 「なにそれわけわかんない! ヘンタイ!」
いつもの昼すぎ。いつものリビング。
ソファーに深々と座って、くつろいでいた俺に、ふと天啓のようにインスピレーションが降ってきた。
「嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい」
「はい?」
俺が思わず洩らしたつぶやきに、アレイダが変な顔を返す。
「いまなにか、へんな言葉が聞こえてきたんだけど」
顔をしかめているアレイダに、俺は、言った。
「おいアレイダ。おパンツ見せろ」
「はぁ?」
呆れたような顔をしつつも、アレイダは立ちあがった。
「もうっ……。こんな昼間っから……、やめてよね……」
スカートの裾を、ぴら、とめくって、前側からパンツを見せてくる。
はにかみながらも、求められることが嬉しいのか、わずかな微笑みとともに、白い布で覆われた股間を露わにする。
「ほら……、これでいいでしょ。満足?」
「満足……するわけあるかあぁぁぁ――っ!」
俺は声を張りあげた。
「なっ! なに? なんなのっ? だってパンツ見せろっていうから――」
「――そんなのただのパンツだ! 俺が見せろと言ったのは〝おパンツ〟だ!」
「なにそれ意味わっかんない! 〝お〟がついてるのとついてないのと、どう違うのよ?」
「あと顔が違う! ぜんぜん違う! まったくもってなってない! 嬉しそうな顔で見せるな! 萎えるわ! 嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたいと、俺はゆった!」
「う――嬉しそうなんてしてないもん! 見間違いよ! 目ぇ腐ってるんじゃないの! 誰がパンツ見せて嬉しそうにしますか! きちんと嫌そうな顔になっていたに決まっているでしょうが!」
「あれが嫌な顔というなら、おまえにはまったく才能がない! だめだめだ!」
「才能の問題!?」
俺とアレイダが唾を飛ばしながら言い合っていると――。
「なんですか? なんですかー?」
「師匠? どうされました?」
ミーティアとエイティがバルコニーから入ってくる。外で稽古でもしていたのか。二人ともひらひらとしたスカートの軽装で、肌にはうっすらと汗などをかいている。健康的な色気がある。
「嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい」
「はい?」
「はぁい」
疑問符を浮かべるエイティをよそに、ミーティアのほうは、すぱっとためらいなく、スカートの裾をぴろりとめくった。
だがしかし――。
「違うんだなー」
気のいいミーティアは満面の笑顔。やはり顔が違う。コレジャナイ。
「残念。それじゃ0点だ」
「ちょっと! あたしのときとぜんぜん対応が違うじゃないの!」
「なんだよ? ミーティアにも、きちんとダメ出しをしたろ?」
「あたしのときは大声で怒られたのに、ミーティアのときは優しく言ってあげてる! ずるい! 不公平!」
駄犬うるさい。
「私……、だめでした?」
ミーティアがしゅんとなって、肩を落とした。
「ああ。それね。なんかね……? カオ? ――が違うんだってさ」
「顔? ……ですか?」
ミーティアが自分のほっぺを手で挟んでむにむにとやっている。
「ミーティアは善人すぎるからな。嫌な顔は無理かもしれないな」
俺は言った。
「そうねー」
アレイダもうなずく。
「なにせミーティアって、婚約者を寝取られたのに、その相手から馬にされる呪いを掛けられていたのに、相手を恨んでもいないんだもんねー」
「はい? あちらの方も私も、好きな方と一緒になれて、みんな幸せになれてよかった……と思うんですけど? なにか……ちがってました?」
「ほら」
隣に立つエイティは、ミーティアの生い立ちをはじめて聞いたのか、驚いたリアクションを体全体でやっている。
「ミーティアって、たぶん、生まれてこのかた、どんな相手に対しても、嫌な顔なんて向けたことないんじゃない?」
「そこまで……、ですかー」
エイティが感心している。こちらも善人ぶりと天然ぶりはなかなかのものであるが、ミーティアには遠く及ばない。
「だからこそ! 見たくなる! その誰にも見せたことのないスペシャルな顔を! 俺だけに見せる顔を! 俺が独占したい! わかるか!?」
「わっかんない」
「こ……、こうですか?」
ミーティアが再挑戦する。だがしかし――。
「うむ残念。それでは単なる引きつった顔だ」
「むずかしいですー」
「嫌な顔くらい、カンタンでしょ。――こうよね?」
ぴらっとスカートをめくってパンツを見せつつ、アレイダが顔を作る。
だがしかし――。
「だからおまえは才能ねーんだよ! なんで嬉しそうにするんだよ!」
「してない! してないからぁ! ――嬉しそうなんて!?」
「主。――今日はなんの遊戯ですか?」
「すけ。なに。する?」
「我はなにをすればいいのじゃー」
外で遊んでいた三人が入ってくる。ちなみにスケルティアとリムルが遊んでいたほうで、クザクは二人を遊ばせていた側。
「嫌な顔しながらパンツ見せるんだってさ」
アレイダが言う。
だがしかし――。
「だーらおめーはわかってねえってのー! パンツじゃなくて、〝おパンツ〟だと言ったろう!」
「だからなにがちがうのよー!」
「しまた。ぱんつ。はいてない。」
「我もー。はいてくるのじゃー」
二人は前提条件からして、落伍していた。
一人、残ったクザクは――。
「……ええと。よくわかりませんが……。こうですか?」
虫でも見るような冷たい目をする。
そのうえで自らの手でスカートをめくって、パンツを――いいや、〝おパンツ〟を俺の目に拝ませてくる。
「おおぅ――、い、いいぞっ――、なかなかだっ」
敵にでも向けるような冷たい目を浴びて、俺は足元をふらつかせた。
「なによそれ。ますます、わけがわかんない」
「はははは。おまえには無理だ。わかろうとしなくていい。豚に空を飛べとは言わん。飛ばない豚で、ただの豚でいろ」
「豚とか言われた! それ駄犬より上なの下なのどっちなの! 上がってるの下がってるの!?」
駄犬改め駄豚が、なにか騒いでる。
それよりクザクには、だいぶ素質がありそうだ。
「ええと、あの……。もうよろしいですか? 主にこんな目を向けているのは、心が痛いのですが……」
「いやまだもうすこし」
「あとその……。恥ずかしいです」
嫌な顔が崩れてしまった。頬を赤く染めて、単なる恥じらい顔になってしまう。
「ああ残念っ。顔はよかったが、タイムリミットが短すぎるな」
「し、精進します……」
「あ。ボク、なにかわかった気がします。綺麗な女の人に冷たい目を向けられたときに、なんか、ゾクゾクとするときがありますよね」
「おお! わかるか!」
エイティは、さすが。
元・男の経験があるから、俺の高尚な趣味を理解してくれた。
「えっ? わかるの? わかっちゃうの? エイティ? うそ? なんで? なにがいいの、そんなの? どこがいいの? ぜんぜんわけわかんないんですけどー!?」
駄犬。うるさい。
「でもボク綺麗じゃないですし。……こ、こうかな?」
しかしエイティは、理解はできても、実践のほうとなると、からっきしだった。
単なる引きつった顔だ。
「ぱんつ。はいたよ。」
「はいたのじゃー」
年少組が二人で戻ってくる。
こんどはきちんと穿いてきたようだ。
俺の前に立つと、大胆にスカートをめくって見せる。
だがしかし――。
「スケさん、スケさん、嫌な顔をするんだって。そこが大事なんだってさ。わけわかんないけど」
「……いやな。かお?」
スケルティアは、しばし考えたあと――。
「……こう?」
おそらく努力はしているのであろう。
頑張っているスケルティアには悪いと思う。だがしかし、どこも変わったように見えない。
つまりいつもの無表情だ。
「スケは、ぜんぜんだめじゃ。嫌うというのは、こうじゃーっ! シャーッ!」
リムルのやつは、牙を剥き出し、それどころか、顔の形が骨格から変わっていた。
顔だけ竜人変。
「キモい。コワい。失格。大失格」
嬉しそうにパンツ見せられても萎えてしまうが、これだと別の意味で萎えてしまう。
「オリオンさん? なにやら楽しそうなコト、してますねー?」
「オリオン殿。私も参加すべきだろうか」
バニー師匠とクリスがやってきた。
アイラは残念ながらお留守番だ。あれもけっこう素質がありそうな気がする。「兄達を見る目で頼む」と言えば、かなりの正解が引き出せそうな気がする。
「今日のお題はだな。〝嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい〟――だっ!」
「ああ。なるほど、なるほどー」
「は? 嫌な……かお?」
さすが、バニー師匠は理解が早い。男のどんな性癖も理解してくれる懐の深さを感じる。
「わかります、わかりますー。……でもパスで」
あらら?
「いつもニコニコ楽しそうにしているのが、ウサギさんなんですよー。オリオンさんの求めていること、わかりますし、できますけどー。だからこそパスでー」
俺はうなずいた。そしてもう一人に顔を向ける。
「じゃあ、クリス」
「ひ――ひゃい」
堅物な武人であるクリスは、俺が呼ぶと、噛んでいた。なにこのカワイイ生き物。
「無能な部下を見るときの目で」
「こうか?」
すうっと目が冷めてゆく。その目を俺に向ける。
「おおうっ!」
よしこれはかなり効く。
あとは――。
「そしてパンツを見せる。いやおパンツを見せる」
「ほら自分でも〝お〟って忘れてる」
「き、きょうはその……、そんなに可愛いものではなく……」
ぴろっ。
なんの飾り気もない純白のパンツが、一瞬、垣間見える。
だが惜しいかな。それは〝パンツ〟であって、〝おパンツ〟ではなかった。
クールな鉄の上司の蔑み顔は、パンツを見せるときにはすでに崩れ去っていた。
嬉しさと恥ずかしさの入り交じった顔で見せてくるパンツは、それは拝むべき価値のあるものではなく――。よって〝おパンツ〟では有り得ない。ただの〝パンツ〟だ。
「マスター。なにをされているのでしょうか?」
「だんなさま。なんですか?」
最後の二人が連れ立ってやってくる。おなじ顔で、おなじデザインのメイド服を着ている。ただし大きさが違う。大と小だ。
俺は二人に期待を繋いだ。
この二人ならば、やってくれるに違いない。何億年を生きる大賢者である、この二人ならば――。
「……ていうわけで。オリオンが変なのよ」
「なるほど。了解しました」
アレイダから説明を聞かされて、モーリンは頷いた。
「マスターが変なのは昔からです」
「だんなさまは、いつもおかしいです」
ん? なんかいま素でさらっとディスられなかったか?
「マスター。そんなに下着が見たいのですか?」
モーリンが言う。その顔に浮かぶ微笑みは、いつもの笑みと若干違っていて……。具体的には、温度が低い。
モーリンはメイド服のロングスカートを膝まで持ちあげるものの、そこで一旦、止めてしまう。
「期待が顔に出ていますよ。マスター」
えっ? そうか? 俺は顔に手をあてた。
「だんなさまは、こういうのがお好きなんですか?」
こんどは小さなコモーリンのほうだ。
メイド服のロングスカートを、すすす、と膝頭まであげてゆく。
「パンツなんて、いつも見ているのに、そんなに見たいものなんですか?」
いや。いつもは見ていないぞ。パンツを剥いだ中身のほうならいつも見ているが。
あとコモーリンのほうには手を出していないので、パンツは……あれ? ひょっとすると一度も見ていない?
「ふふふ。だんなさま。お顔がちょっと情けないですよ」
コモーリンはスカートをさらにたくし上げてゆく。ガーターストッキングの上端を越えると、細い太腿の素肌が現れた。
スカートが持ちあげられる。
だが股下ぎりぎりのところで、また止められてしまう。
「そんなに見たければ、床に這いつくばればいいと、コモーリンは思います」
たしかに、そうすれば見えるだろう。
だがそれは……。ちょっとさすがに……。
俺はおパンツを拝みたい気持ちとプライドとを、心の天秤にかけてみた。
天秤はガタンと片方向に傾いた。
うむ! 天秤にかけるまでもなかったな!
俺は床に這いつくばった。スーパーローアングルから、おパンツを鑑賞にかかった。
コモーリンの小さなそこを包みこむ、小さな白い布地のデルタゾーンが目に映る。
その上に、冷たい目線の顔がある。
コモーリンは嫌そうに不快そうに、蔑む目で俺を見下ろしていた。
嫌な顔されながらおパンツ見せてもらっている!
ぞくぞくとした愉悦が、俺の体を駆け巡った。
まさしく上級者向けのプレイであった。
「幼女のパンツを見て喜ぶなんて、だんなさまは、だめな大人なのですね」
罵る言葉も最高だ。
コモーリン、おそろしい子!
「あらあら、マスター? コモーリンだけで満足してしまったのですか?」
モーリンがずいと横に並ぶ。
「無駄に強い精力だけがマスターの取り柄ですのに。これっぽっちで満足してしまうなんて不甲斐ない」
「いやいや。まだいけるぞ」
俺は床に這いつくばったまま、アングルを変えた。
こんどはモーリンに対してロックオンする。
「はわわわ……。モーリンさん、別人みたい……」
「もーりん。こわいよ。」
「さ、参考になります……」
「ぼ、ボクには無理ですぅ……」
アレイダたちが豹変した二人を見て、なにやらコメントしている。
俺がスーパーローアングルに位置取ると、モーリンは蔑むような笑みを浮かべて、スカートを持ちあげた。
最後の数センチを越えて、大人メイドの純白のパンツが――いいや〝おパンツ〟が現れた。
おパンツ! おパンツ! おパンツ!
「はふぅ」
満足のため息が、俺の口から洩れ出した。
「満足ですか? マスター?」
「ああ。もう充分だ」
「そうですか。プレイとはいえ、失礼なことを口にしました。お許しください」
すっかり素に返って、モーリンはそう言った。
「あっ。あれ演技だったんだ」
駄犬ならぬ駄豚がなにか言っている。演技に決まっているだろう。……そうに決まっている。……そのはず。
「だけどちょっと、これは癖になりそうですね」
モーリンは妖艶に微笑んだ。
あれー? どっちなのかなー?
まあ気を取り直して――。
「よーし! 全員! 寝室に集合だーっ!」
俺は腕を振りあげると、そう叫んだ。
おパンツは愉しんだ。おパンツは完了だ。だが別の方面は、ここからだ。
「あっ。もう終わりなのね」
ぞろぞろとついてくる一同の最後尾に、俺は、びしっと指を向けた。
「コモーリンは見学なっ」
「だんなさま。ひどいです。へたれ」
コモーリンはまだ抜けきっていないらしい。
「パンツ見て悦んでるんだから、もういっそ加えちゃえばいいのに」
「それはそれ。これはこれ」
アレイダに言って、俺は先に立ってずんずんと寝室に向かった。
このあと滅茶苦茶セックスした。
作者のリハビリもかねましてー。全員登場して、ちょっとずつリアクションのある話が、2回つづけてみましたー。つぎあたりは、個々のヒロインとしっぽり二人きりとかいうのをやってみたいでーす。