森脱出(その後を聞きました)
皆さんあけましておめでとうございます\(^o^)/
ブックマーク登録ありがとうございました。
※メリル視点
音が聞こえる。
風が空気を切る、高いところに行くとよく聞こえる音だ。
風に頬を撫でられるのが気持ちよくて、頭と背中を優しく受け止められている感触にどこかほっとする。
似たような感覚を『俺』は知っていた。
いつしか全くなくなってしまった、『俺』がどれだけ求めても手に入らなかった感触。
――――お父さんの手
その手は凄くごつごつしてて、帰って来たら両手で持ち上げてくれて、横に並んでゲームをすると大きな腕がちょっと邪魔臭くて―――私/俺を殺した手だ
「っああああああああああああああああああ!」
気付けば、私は叫びあがっていた。
どうして思い出してしまったんだろう。押さえてた、考えないようにしてたはずなのに。
「め、メリル!? どうした?」
「はあっ、はあっ……カーダ?」
気付けば、カーダの顔がすぐ近くにあった。
ただ、私の目にはうっすらと涙があって。
―――ごしごしとそれをこすり取って、私は起き上がる。
「あ、おい」
大丈夫だ。
大丈夫、私にはネアとの思い出がある。だから大丈夫。
すー、はぁー。
(よしっ)
「ん?」
思考が安定して、私は今いる場所が平地ではないことに気付いた。
傍にはカーダがいて、ちょっと離れたところでミーアが背を向けて座っている。
―――あと雅とか言う着物女がミーアと同じくらいの年の子を抱いて座っている。
ていうかここって――
「おおおっ、メリル! 目が覚めたのか?! 良かったのじゃぁ」
ミーアがこちらに気付いて満面の笑みを見せる。
うん。それは良い。いいけども。
ズルッ
「きゃっ」
「あぶねっ」
足場が滑って、バランスを崩したところをカーダによって引っ張られ、どうにか耐える。
ここはクロロの背中の上だ。
「ぐぬぬぅ」
「たくっ、急に立ち上がりやがって何やってんだこの馬鹿」
私はカーダに引っ張られているのを支えにゆっくりと這い上がる。
危なかったぁ。
「はぁ、はぁ。まさかクロロに乗ってるなんて」
「いきなり起き上がるからだろ。気をつけろ…」
「うっ。ごめん、ありがとう」
私はカーダに礼を言う。
カーダは何か言いたそうだったが、結局何も聞いては来なかった。
それからミーアに視線を移とミーアはほっとした顔で。
もごもご
「?」
その時私は、もう一つの違和感に気付いた。
その違和感は服の中、特に胸のあたりにあって。
「ににゃっ」
その感触に変な声を上げてしまった。
ちょっ、え? 何?
「っ、んっ、ぁ。んん~のっ! でろ!」
私はそこにいる何かをひっつかんで襟から引っ張り出す。
キュワ~
そこから出てきたのはハクだった。
どうやらハクが私の服の中に入り込んでいたらしい。
ハクは私と顔を合わせるとまた引っ付いてすり寄ってきた。
「もうっ、なんでこんなところに…」
「ハクは強情でのぉ、どれだけ引きはがしてもメリルから離れようとしなかったのじゃ」
ワウ
ミーアの傍ではウールが肯定するように鳴いた。
ていうかいたんだ、ウール。
(? いたんだといえば…)
「なんでカーダがいるの?」
「…あ~」
私は二人から私が寝ている間に起こったことについて聞いた。
といっても、あったのはちょっとしたいざこざと後処理についてくらいなのだけど。
まず最初に、私たちがクロロに乗っている理由だけど。カーダの話ではカーダがしばらくたっても戻ってこなかった場合、ヘンレさん達は私たちが戻るのを待たずに次の町に向かうことになってるらしい。
で、時間帯的にはもう行ってしまっているはずなので、クロロに乗って後を追っているところらしい。
ここまではまあ、状況として打倒だといえるのでOK。
遅れてしまった理由としては、私の体調が芳しくなく、顔色が悪かったのですぐに動くのは危険と判断したカーダが、私と合流するまでに倒した魔物の一部を回収して回っていたから…っておい! 私の看病とかどうなってんの!?
と思ったが、意外にも着物女《雅》が人の体の構造とかに詳しく、言ってしまえば医療の知識があったのだ。
それを使い、私の看病をしてくれたらしい。
「変なことされてないよね?」
「わっち、信用ないな…」
「状況的にしかたないでござる」
詳しく聞くと、私の体は外よりも内側の方がダメージが大きく、放っておいても命にはかかわらないがそのままにしておくとしばらくは負荷のかかった状態で過ごさなければならない状態だったらしい。
それを体中を揉み解したり、ツボを刺激することで緩和させたのだとか。地味に【ヒーリングポーション】を飲んでいたのも効いたらしい。
うん。それはありがとう、と言いたいところだけど…。
「どうして二人はそれを黙って見てるかなぁ」
「わし、ウルフたちの治療でそれどころじゃなかったのじゃ」
「俺はその時凛と魔物の部位の回収に行ってていなかったからな。それと俺は見張りを頼んだだけだ。治療については後で聞いたし」
ちなみにその話を聞いた時はカーダも激怒したらしい。……まぁ許そうかな。
ミーアもウルフ達に集中して気付かなかったらしいし。
実際、体もちょっと軽い。疲労は取れてないけど、痛みはなくなっていた。
でも。
着物女はニコニコとこっちを見ていた。
うん。こいつには礼を言わなくていいよね。だって、元々こいつのせいだし。
で、森を出る際にはウルフ達とは別れてウールだけ付いてきたと。
後処理についてはこんなものかな。
で、最後。いざこざ。
これは現在も解決されておりません。
簡単に関係を言った方が早いね。
まずミーアと私は仲良しでいいよね。(仲良しだよ?)
私とカーダ。とりあえず仲間。そこにミーアも加わる。カーダとは最初いがみ合ったけどすぐに和解できたみたい。
で、着物女。凛て子の師匠らしいが、私とミーアにとっては害的存在です。カーダは凛の師匠という認識で、あんまり信用はしてないらしい。
凛て子は……立場が微妙なんだよねぇ。
私この子のことよく知らないし。カーダは「面倒なガキだが実力はある」って認識らしいんだけど。ミーアがねぇ。
「こやつは悪者じゃっ。ウルフ達を急に襲って来たのじゃ!」
「何を言う?! 魔物に囲まれてる幼子を見れば襲われていると思って当然でござるっ。せっしゃは助けようとしただけでござるよっ」
「嘘じゃっ! 違うと分かっても襲って来たのじゃっ」
「それはそっちが攻撃してきたからでござる! それにワイバーンを相手に手抜きなど出来んでござるよ」
「襲って来たのはそっちじゃ。反撃するのは当然なのじゃ」
「せめて会話の余裕があればせっしゃも止まったでござるよ。止まらないそっちが悪いでござる」
「なぬっ! わしが悪いと言うのか!? 悪いのはそっちじゃ! 最初に襲って来たのはそっちなのじゃ!」
「せっしゃはもう少しは話す余裕が欲しかったと言ってるのでござる。どちらが悪いという話ではなく」
「うるさいのじゃああああ、ぬがあああああ!」
「ぬおっ、やるでござるか! 相手になるでござる」
うーん。精神年齢で言うと凛の方がちょっと上かなぁ。
でも結局取っ組み合いしちゃってるし(鎧は着ていません)。凛は生身だと身体能力もそこまで逸脱している訳ではないらしく、ちょっと力の強い子供レベルらしい。
でもミーアはてんでへっぽこ筋力なので単純な力では全然勝てていない。でも凛は足がなく、立つことができないため取っ組み合いも座ってしかできない。そのためミーアはほぼ確実にマウントポジションが取れてる。おかげで二人の取っ組み合いは5分ってところかな? もちろん凛が本気でミーアを倒そうと足を生やせば立場はすぐに変わるだろうが。
うん。凛の方が少し大人だ。
……まあ二人はこんな関係です。
もほやただの子どもの喧嘩でしかないけど。
「これこれ、やめぬか主ら」
「師匠っ」
「ひっ」
あ。
着物女が近づくと凛はミーアを離し、ミーアはすぐにウールの後ろに移動した。
ウールは、クゥン?、と分かってない様子。君たたきつけられたこと覚えてないの?
まあこの様子から分かる通り、凛にとって着物女は師匠兼保護者(寝ている時以外)でミーアにとっては害的存在というより恐怖? まあそんな感じなのだ。
まあ、あれだけやられればねえ。
「…。そう言えば、あんたのあれって何なの?」
「あれとは?」
着物女は凛を抱いて頭を撫でながら聞いてくる。
……何故か母性を感じるな、その仕草。
「あのなんか眠ってるのに動いてるっていうか。意識ないうちに襲ってるんでしょ? あれ」
「ああっ。そのことか。うむ、お主の言うとおりだ。どうやらわっちは眠っている間に動き出して近くにいるものを切り始めてしまうようなのだ。自分でもどうにかしようと思ってはいるがどうにもならなくてな。スキルで【不眠】を持っているおかげで寝ないようにしようと思えば出来るのだが…人はどうやら全く寝ないということができないようでな。どうしても5日に一度は寝なければならず、一度寝ると丸1日起きられなくなってしまった。せめて人気のないところで眠ろうと森に入ったのだが…今回は人がいたようだな」
着物女。雅は「すまなかった」と本気で頭を下げてきた。
……………ふむ。
話を聞く限りだと、彼女も本気で困っているらしい。
ていうかさ。
「それならなんでついて来てんの? そもそもそこがおかしくない?」
「うむ。わっち達も目的地が一緒なので便乗を」
「………………………」
「いや、そう睨まないではしいのだが…」
いやー、やっぱりこの着物女いい性格してるわ。
ちょっと許してもいいかなとか思ったけどや~めたっ。
「まあ、夢遊病については協力してもいいけどね」
「むりゅ? 協力…」
「あんたの症名。夢遊病って言って、眠ってるうちにどっか歩いて違うところにいたりとかする病気のこと。…まあ、寝てるうちにあたりのもの切り刻んでるなんて話は聞いたことないけどね」
「夢遊病か…。ふむ。よし、その名を頂こう。して協力とは?」
「その病気を治す方法を、一緒に探してあげるって言ってんの。…薬で直ればいいんだけどね」
実際、いくつか案はある。
夢遊病は浅い眠りによっておこるらしいから強力な睡眠薬を用意したり、イライラとかストレスが原因ならリラックス効果を与えたり、眠る場所に問題があったりするかもしれないし。
……まあ、片っ端から試すしかないんだけど。
「よろしく頼むっ!」
て早っ! 聞いてからすぐ頭下げたよこの人。
ちなみにこの実験。後に雅の方が後悔することになるのだが、それはまた別の話。
「おい。馬車が見えてきたぞ」
「え、ほんと!?」
いつの間にかカーダは頭近くの方に移動しており、そこから下を眺めていた。
「ああ……だが、面倒なことになってんな」
「…………あ!」
そこから見えたのは止まってる馬車と、それを囲んだ人だかり。
商売……って雰囲気じゃないね。
数人の冒険者がその輪に突っ込んでいて、ボロボロのジャンクさんとクレスさんまで外に出ている。
あれは盗賊に襲われているってことでいいかな?
「どうやらテンプレ状況みたいだな」
「カーダ。なんで目をギラギラさせてるのか聞いてもいいかな?」
「え? だってこれ突っ込むんだろ」
「突っ込まないよ! 何言ってんの!? 助けるにしても一回降りてからでしょ!」
「なんだ。何か問題か?」
私達が言い合いをしていると、後ろから着物女が話しかけてきた。
私は手早く状況を説明し、クロロにお願いしようと下に声をかけようとして。
「クロ――」
「では行くか」
「――ロ。は?」
着物女は私の横で飛び降りた。ちなみに命綱はない。
「って、えええええええええええ!」
ほんと、何なのあの人!?
※雅視点
――風が気持ちいな。
……あれか。
標的を発見したので足に風の魔力を纏わせておく――――加速
敵はざっと二十六。見方は七か。けが人もおるし。
―――さっさと片すべきだな。
「疾風一陣」
腰に刀を抜く構えを取れば、そこに抜き身の刀。我が愛刀【風切】が現れる。
この刀は魔具で、そこに来いと思えば現れる便利なものなのだが。逆にそれが自分の夢遊病と合わさって嫌な相乗効果を生んでしまっている。
ちなみに刃こぼれもしない優れものだ。
それが余計に困る原因でもあるのだがな…。
だが今は、素直にその力を振おう。
風邪を纏った刃は、その刀身に竜巻のような渦を作り出す。
(ゆくぞっ)
振り切られた刀からは自信を囲むように風が吹き荒れ、周囲にいた人間を吹き飛ばす。
ところどころから悲鳴が上がった。
その中には馬車の守護をしている者は含まれていない。まあ、そうした者がいない場所を狙ったので当然だが。
「な、なんだぁ!?」
「人っ?」
放った風はクッションにもなり、地面への衝突を防いでくれる。
まあそんなことをせずともわっちは着地出来るのだが……それは別だ。
一瞬、無意識に背中にあるそれを開こうとしてしまったが、どうにか耐える。
「さて。悪者は退治せねばな」
※メリル視点
結果を言おう。
あの着物女が全員倒しました。
いやー、上から見てて思ったけど酷いもんだよねぇ。人が棒切れみたいにバッタバッタと倒されていくんだもん。
冒険者の皆もぽかーんとしてるし。
しかも全部峰打ちなので殺してない。きっとリーダー格とかもいたんだろうけどあの人の前だと皆同じ。
一瞬で薙ぎ払われて終了だった。
「おぉーい!!」
馬車の近くに降り立って、カーダが大声をあげる。
すると皆の視線はこっちに集まって。
「「「「「うわああああああああああああああ!」」」」」
「「「「「きゃああああああああああああああ!」」」」」
ビクッ
うん。こうなるよね。
皆の大声が、ちょっと怖かった。
※天界のネアさん
「(ニコニコ)」
「無事でよかったですね…」
「ええ。あ~、でもあの小竜うらやましいっ」
「末期ですね」
コンコン
「どうぞー」
「ごめんなさい。女神さまがネアを呼んできなさいって、おそらくここにいると」
「………(ダラダラ)」
「(説教で済めばいいのですけど)」
二話連続であとがきにネアさん出してみました。
正直本編で書けないのがもったいない濃いキャラになってきているのであとがきで天界でのネアさんを書いてみることにしました。お楽しみいただけたら幸いです!




