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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
三章
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閑話 森に潜む影

静かな森。

普段は魔物が潜み、訪れた者を襲い掛かる危険な場所であるというのに、その日の森の中はあまりにも静かすぎた。


「おかしいでござるなぁ~。今日は収穫ゼロでござるよ」

「まあまあ、良いではござらんか。魔物がおらんはむしろ喜ばしいことだ」

「師匠。それは一般人にとっては、でござろ~? 拙者の場合クエストが未達成になってしまうでござるよ」

「ついでに依頼をこなそうとなど、軽はずみな態度をするのが悪いと思うがな」

「そんな言い方はひどいでござるよ~」


ガシャガシャと音を立てて、静かであったはずの森を一つの影が歩いていた。

その姿はまさしく全身甲冑の騎士そのもの………を子供にしたものだ。

全長110センチ程の全身甲冑を着こんだその子供は、歩くたびに鎧をけたたましく鳴らせながらも、その歩きには一片のよどみもなかった。

さらにその背には身長の倍はありそうな棺を背負っている。

ちなみに全身甲冑が『ござる』で棺が『師匠』である。


「で、師匠。ここら辺で良いでござるか? 調度人っ子どころか動物一匹いないでござるよ」

「うむ。ではわっちは『眠る』でな。できるだけ遠くに行くのだぞ?」

「了解でござる」

「よーし、羊がいっぴ」

「って、師匠! まだ下してないから待つでござるよ! 今寝られたら『逃げ切れない』でござるよ~」


言いつつ、全身甲冑は慌てて棺を地面に下す。

というか、投げた。


「ん~。でも今ので眠くなってきおったぞ?」

「えええっ! 拙者まだ死にたくないでござるよ! 師匠、耐えるでござる! 拙者が逃げ切るまで、絶対に寝てはいかんでござるよ! では」


小さな全身甲冑は、その恰好からは想像もできない俊足でその場を走り去っていく。

後には頑丈そうな棺だけが残された。

そしてそこからは、眠そうな女の声が響いた。


「ん~、でもわっち。もうげんか……すぴー」


ガシャッ


女の声が途切れたのと同時に、金属がこすれ合う音が鳴った。

そしてそれは全身甲冑が戻ってきたからではない。

棺の中からしているものだった。


ガシャガシャ、ガッ、ガッ!


音はどんどん激しい者へと変化し、棺のふたもそれに押されて内側から弾けそうだった。

それはさながら棺に押し込まれたゾンビの復活のようだ。


バンッ!


とうとうふたが弾け飛び、棺の中から大量の鎖に全身を拘束された一人の女が姿を見せる。


スパンッ


そして、鎖は内側から真っ二つに切り裂かれた。

明らかに物理法則を無視している気がするが、女の手には一本の刀が握られており、女はそれを持って立ち上がる。

するとその全貌が明らかになる。

女の顔は、まだわずかに幼さを残した少女のもので、髪は濃い緑色をしており、山吹色の和服を着ている。

しかもその和服は簡単な帯に、刺しゅうなど全くされていない簡素な着物だった。

着物は綺麗に整えられることもなく、胸元もかなりきわどく肌けていた。


「すぴー……」


そして、極めつけは……寝ている。

その少女は顔だけなら綺麗な、それでいて相当無防備な寝顔をさらしている。

にもかかわらず。


ザンッ


少女が振り回した斬撃が、周囲の木々を切り倒す。


「……くー」


斬る斬る斬る。

変幻自在に、無差別に少女から放たれる斬撃は、周囲の障害物を次々に斬り続ける。



夢遊病。

眠っている間に、徘徊していたり、気づいたら違うところにいたなど。意識のない間に体が動いてしまっている病気である。

彼女はそれが、とても強く出ている症例だった。

眠ると彼女の意識がないうちに、周囲を斬りつけてしまうのである。

しかも。


ビュンッ


彼女の斬撃は―――――――飛ぶ


「にいいいぎゃああああああああ!」


その射線の先にいた誰かが、そんな叫びをあげた。




「あ、誰かいたでござるか? 南無でござる」


全身甲冑はそれを、森の外で聞いていた。

今回新章で新キャラを出すにあたり、いくらか説明も追加しようと思い閑話を入れさせてもらおうと思いました。

次回はメリル達が町を出る話です。

では今後とも『万能薬はありません』をどうかよろしくお願いします。

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