商会取引①
修正しました。
二話構成です。
後編は三日以内に更新する予定です。
※カーダ視点
冒険者ギルド。
そこでは冒険者達に仕事の紹介や装備の販売を行っている。
しかし、実際には昼間から仕事のない冒険者達の酒場になってしまっている。
酒が入れば当然皆緩くなる。
話し声は次第に喧騒に変わり、昼間から耳を塞ぎたくなるようなおじさん達の大声が響き渡る。
そんな中、二人の少年達がじっと耐えていた。
「遅いね……」
「……外で待つか」
言わずもがな、リックとカーダである。
二人はすでに一時間以上この場所で待っていた。
流石にそれくらい待つと酒臭さとうるささでその場にいるのが息苦しくなってくる。
カーダは立ち上がって立てかけてあった長剣を腰に刺し直した。
ちなみに今日は戦闘する予定がないので、装備は全て肩に下げた【アイテムボックス】に入っている。
カーダの【アイテムボックス】は特に動きの疎外にならないことを重点に置いており、背中にピッタリと着くベルトが一つのリュックタイプだ。
リックは普通の鞄タイプを使っている。
これは近接職としてのカーダのこだわりだった。
まあ、代わりにいざというとき、背中からとっさに回復薬を出すという行為ができないというデメリットはあるのだが。
二人はいい加減待ち疲れて(酒場の空気のせいだ)冒険者ギルドを出ようとする。
「もうっ。だから私はあくまで臨時で働いてだだけなの! 夕ご飯では作るからそれまで待ちなよ!」
「それをなんとか、皆君を待ってるんだよ」
「だから無理! 用事あるんだってば!」
その声は二人のよく知る、待ち人のものだった。
どうやら、誰かに絡まれているらしい。
二人はすぐに駆け出した。
「メリルっ」
「大丈夫!?」
二人はすぐにメリルに声をかけようと声を張り上げる。……と、そこで立ち止まった。
「その声っ」
そんなメリルの声が聞こえてきた。
と、同時に。
シュッ
ここまで全速力で走ってきたメリルがカーダの肩を掴むと、そのまま背中に隠れた。
その姿は息が切れていて、顔には疲労の色が見える。
そこに大勢の人がごった返してきた。
なんだこりゃ!?
「おいっ、いったい何があったんだよ!?」
「……はっ、はー、それをはな、すのは……あとで…ね」
その姿はガチで苦しそうだった。
つーか、この状況はなんだ!
カーダはこの状況に理解が及んばず、かなり戸惑っていた。
「やっと止まったね天使ちゃん」
「さあ、一緒に行きましょう」
俺の後ろに隠れるメリルに一番前にいた男女がそんなことを言う。
その他大勢も何か言ってるみたいだが、言っているのは似たようなことだ。
なんというか、これから誘拐でもしそうな感じだな。
隣のリックを見ると「天使ちゃんて誰だろう?」と首を傾げていた。
そういやこいつ、かなり抜けてたな。
リックは頭は悪くないのだが、どうにも冴えてる時とむらがあるのだ。
主に魔法関連の時とそうでない時。
もしくは……よくわからんが、たまに冴えてる時があるのだ。うん。
仕方なくカーダは手を剣にかける。
「おい、あんたら。うちの姫様追い詰めて何が目的だ?」
あ、この台詞ちょっとかっこよくね?
ついノリでメリルのことを「姫様」なんて呼んだけどメリルのことを追ってきた連中は「やっぱりそうなのか」とか「姫…」とか呟いて息を飲んでる。
あり? なんか勘違いしてねえか?
まさか本当にメリルがどっかの国の姫だなんて思っていないだろうな?
カーダはだんだん不安になってきた。
そしてその不安は当たってたようで。
一人の男が恐る恐る前に出てきて。……膝を折った。
「も、申し訳ございませんでした! 貴族の方とは思わず、とんだご無礼を!」
と盛大に土下座をした。
おおおおおおおいっ!! おもいっきり勘違いされてるじゃねえか!!
しかもその男に便乗して他の追ってきた連中も土下座を始めやがった。
そんな姿を見ては、カーダとしても実はただノリで言っただけなんだとはとても言えず、どうしたらいいか分からなくなった。
だが。
俺達にはこういう時こそ頭の回転が速い、腹の黒いやつがいるのだ。
「頭を上げてください」
優しい少女の声が土下座している連中にかけられる。
その声に土下座していたやつらはゆっくりと顔を上げる。
そこで見えるのは、息を整えて少し困ったような少し悲しそうな顔をしたメリル。
あ、こいつ今顔作ったな。
俺は勘違いされた状況に戸惑ったが、どうやら彼女はむしろそれを利用しようとしているらしい。
「心配しなくても大丈夫ですよ。私は皆さんを罰するつもりはありません」
その言葉を聞いて皆、ほっ、と息をついた。
「では」
「ですが私のことを追いかけ回すのはお願いですからやめてください」
相手が何かを言おうとしたら言葉を被せて封殺した。
会話の主導権握るのが上手いな。
ていうかえぐい。
おそらく向こうからしたら、メリルのことは本当に天使みたいに見えていることだろう。
こんな可愛い子が目を潤ませて自分達を心配しているのだ。
おそらくここにいる大半は……落ちた。
その後、メリルは相手が何も言えなくなるのを利用して、店の外で私に構うな、出会っても無視をしろという内容を丁寧かつ相手に共感させるように言葉を選んで説得、もとい蹂躙していく。
「分かりました。では今日の晩にまた向かいます。いいなお前ら、早い者勝ちだあああ!」
「「「おおおおおおおっ」」」
メリルの話が終わると、そいつらは叫びながら去って行った。
途中から店がどうのっていう話になって理解が及ばなかったが、メリルは相手が要求みたいなことを言うとすぐに潰し、結局向こうの要求は何一つとして応じずにその場を押さえてしまった。
ついでに何か、店には必ず来るようにお願いみたいなことをしていた。
盛大なぶりっ子をつけて。
そうして去っていく連中を見送ると、メリルは一息ついて。
「カーダ、ナイスっ」
親指を立てて、天使のように微笑んで見せた。
いや、どっちかっていうと悪魔だろこいつ……。
※メリル視点
「で、何があったの?」
まずはリックが口を開いた。
私はそれにひとつひとつ事情を伝える。
それをカーダがまとめた。
「つまりお前の飯がめちゃくちゃ旨くて、皆その話を聞いて朝っぱらから客が殺到して食いっぱぐれまで出たと」
「うん。そのせいで昼も作ってほしいって人が多すぎてさ。そもそも宿屋だから朝と夜以外食堂はやってないんだよね」
「それでみんな、お昼にも作ってほしいって言ってたんだね」
「まあねー。そもそも食材が切れてるから、昼はどの道作れないんだけどね」
「おい、それだめだろ」
私が肩を竦めると、カーダがツッコミを入れてきた。
カーダの心配ももっともで、サービス業にも関わらず、それが提供できないという今の状況は非常にまずいのだ。
まあ、だからこそ。
ガシッ
「「!?」」
「買い出し、手伝ってくれるよね?」
私はニッコリと二人に微笑む。
するとカーダは嫌そうな顔をしたが、「ほんとお前って…」と言いつつ受け入れてくれた。
三人は市場に、男二人がメリルを守るようにして歩いていた。
「えっ、それじゃああそこにいたのって食べに来た人だけじゃなかったの?」
「そうだよ。むしろレシピを教えてほしいって人の方が多いかな」
私はリックに、先ほど追いかけてきた人達についての説明をしていた。
朝は最初は客も宿泊客だけだったのだが、朝食を食べに来た人達が入ると激変した。
店から出て行った人達が幸せそうにしていたのを見た人達が何があったのかを聞くと「天使が」「飯が」と絶賛され、試しに入ってみるとまた幸せそうに出てくる。
そんな循環を続けるうち、たった半日で【ヘドック】という宿は一躍有名になった。
そして感心はもちろん、突如現れ、宿屋を一夜にして盛り上げた少女に向く。
食材の在庫切れで食堂を閉めた途端に迫ってきた他の宿や食堂からやって来た料理人達に迫られるのはちょっと怖かった。
今回のカーダの「姫様」発言を利用出来たのも、私のことがまだあまり知られていなかったお陰だね。
私達はまずは市場に向かい、そこで必要な食材を買いあさる。
魚類系は私じゃなくマスターが知り合いを当たるそうなので、今回私が買うのはそれ以外のものだ。
「これとこれ、30個ずつ下さい」
「あいよ。嬢ちゃん達ずいぶんと買うね」
「まあ、使うので。たぶん今日中にはなくなるし」
「なんだ。飯屋でもやってんのか?」
「一応は…」
「ほーう。お嬢ちゃんが接客したら皆骨抜きだな」
果物屋のおじさんが屈託ない笑みで言う。
どうやらこのおじさんはまだ噂を聞いてないみたいだ。
人の良さそうな笑みを作って「おまけだ」と三つほど追加してくれた。
それに私は喜んだが、おじさんが明らかにお金を騙そうとしたので一気に冷めた。
うん。このおじさん、おまけと言いつつ、本来買うと言った値段より5個分ほど高く言いやがったよ。
わざとでしょこれ。
私は笑顔で指摘し、間違いを正した上で「おまけって何だっけ?」と言ってあげると半額にしてくれた。
うん。いいおじさんだ。また来よう。
何やら私の後ろの方を見て青い顔をしてたけど気にしなくていいよね?
なんか「命拾いしたな」とかいう言葉が聞こえたけど気にしないよ?
荷物を【アイテムボックス】に詰めてるカーダが、「お前は天使じゃない」と呆れていたけど気にしない。
リックは「凄いねえ~」と感心するだけだ。リックって結構鈍いんだね。
それからも私達の買い出しは続き、行く先々で私の顔を見ると皆おまけや安売りをしてくれた。
中にはレシピや店の予約が出来ないかとせがんでくる人もいたが、店のシステム的にそれはできないという旨を伝え、レシピは断った。
マスターには場所の提供をしてもらい、バイトをする関係から仕方なく売ったが、そうそう売りたいものではない。
マスターにも絶対に売らないように言い含めてある。
そして今日、最後に向かうのは雑貨だ。
といっても元々町にある店ではない。旅の商人がやっている出店なのだ。
忘れているかもしれないが一先ずの目的として、私達はこの町からでて行くためにこの町にやって来る商隊の護衛依頼を受けようと思っている。
そして、今目の前で雑貨を売っているのがまさにその商隊なのだ。
出来るならこの商隊が町を出ていく際の護衛依頼に予約しておきたいというカーダの意見に賛同した結果である。
「おっ、そこの嬢ちゃん綺麗な顔してるねっ。この首飾りなんてどうだい? とっても似合うと思うよっ」
近づくと向こうから声を掛けてきた。
声を掛けてきたのは白髪の褐色の肌の女性で、短髪で活発そうな印象を受ける。なんか、どこでも生きて行けそうな生命力に溢れて見える人だ。
差し出された商品を見ると、それは黒っぽい宝石の付いたネックレスだった。
黒いのにキラキラ光ってて、なんだか不思議な石だ。
「綺麗……」
私は率直な感想を漏らした。
それにお姉さんはニヤリと笑う。
うわー、目がキラキラしてる。
「これはアルダイトって鉱石を削って作ったもので魔術に必要な魔力を押さえてくれる効果があるんだよっ。どうだいこの黒いのに輝く光沢は。とっても綺麗だろ? ただ、ちーと値が張るがお嬢ちゃんの黒髪と一緒でキラキラしてるだろう? 着けてみたらその綺麗な顔がいっそう栄えると思うんだけど……どうだっ?」
「え……ぉ…」
これが本当の売り付け。
相手を褒める言葉と間に挟み、上手いこと『値段がする』という部分を隠した上で、まくし立てるように言い放つ。
その姿に私は感心した。
「あのさ、姉ちゃん。俺ら客じゃないんだよ」
さっきまでの私のやり取りで慣れたのか、カーダがそう切り出した。
それにお姉さんは顔付きを変え「じゃあ何しに」と言いかけるが、カーダの向けたギルドカードを見て商品を引っ込めた。
「ふーん、Cランクか……。分かった、護衛依頼の予約だね。ついでに後の二人もお仲間だろう? ランクの確認をさせてもらえる? Eランクなら取り次ぐ前に依頼量は払えない事を了承してもらわなきゃならないからね」
ギルドカードを見せただけでお姉さんはこちらの意図を理解し、確認作業に入る。
その慣れた所作を見るに、こういった事前の予約は結構多いのだろう。
私達はお姉さんにギルドカードを見せる。
するとお姉さんが目を見開いた。
「メリル……」
お姉さんが目を見開いてカードと私を交互に見る。
あ、もしかして……。
「君が天使かっ」
うん。やっぱり。
どうやら私の噂は、結構広がっているらしい。
え~、大分時間は経っていますが、メリルのことを悪魔呼びしたのはカーダでした。
……本当はクレス辺りを持ってくるつもりだったのですが、色々と忙しく、感覚を取り戻しながら書いてるうちに全くの別物になってしまいました。
完全に実力不足ですね。努力します。
それと、この度投稿し直しになってしまったこと深くお詫び申し上げます。
今後はこのようなことがないよう頑張りますので『万能薬はありません』をご愛読してくださっている皆様、これからもどうかお付き合いのほどよろしくお願いします。m(__)m




