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15 かいじん 著  『変な土曜日、都会少女の憂鬱』

 11月23日(土曜日)、東京。

「じゃあ、帰ったらメールするね」親友の美春がそう言って手を振りながら夜の人混みの中を池袋駅の方に歩いて行こうとしている。

「気を付けて帰ってね」福沢加奈も手を振って答えた。

 美春の姿を見送った後、加奈は週末の黄昏を過ぎて賑わっているラウンドワンの前から、都電に乗って王子の自宅に帰る為にサンシャイン60通りをサンシャインビルの方に向かって歩いていった。東急ハンズの前から地下道に降りてメトロの東池袋駅や、都電の停留所の方へ出る事も出来るのだけど、それ程、寒さを感じなかったので外を歩いて行こうと思った。

 サンシャイン・シティーの手前の交差点を渡ってサンシャインビルに沿った道を西友の手前まで歩いて行ってそこから右に曲がった。

(それにしても今年高3で同じクラスになってから、すっかり美春と一緒に過ごす事が多くなったなあ)

すっかり暗くなった空を見上げながら加奈は思った。

 前方にアウルタワービルとエアライズタワービル、背後にサンシャイン60と高層ビルに取り囲まれているのでこの場所から見渡せる夜空はすごく限られている。途中にあるファミリーマートに寄った。入り口付近に並べて売られているスポーツ新聞に、今日本中を騒がせ怖れさせている、清音きよね 美実よしみの名前と清音の顔写真が大きく出ているのが目に入った。過去に2度、女子中高生へのかなり悪質な暴行事件で少年院、刑務所に服役今年の9月に出所したが、その2週間後に練馬区で一人暮らしの21歳女性宅

に侵入して暴行を加えた後、惨殺した。すぐに清音の犯行と判明して全国指名手配されたが、その手配中にもかかわらず清音は10月に同じ練馬区と大田区で同様の犯行を繰り返し世間を凍り付かせた。連日、ニュースやワイドショーで報じられ、警察も全力で行方を追っているが未だに捕まっていない。

 加奈はテレビなどで、爬虫類を思わせる、冷たく鋭い目をした、清音の顔を見る度に思わずゾッとした。

(それにしても美春のお父さんは今頃、大変なんだろうな)と加奈は思った。

 美春の父親は警視庁で捜査1課の刑事をしている。

(大変だろうけど、何とか頑張って清音を捕まえて欲しい……)加奈は心からそう思った。コンビニを出てから、また都電の停留所の方へ向かって歩いた。途中にある、小さな公園の前に差しかかり掛けた時、前の方から歩いて来る若い女の人が驚いた様な表情をして、私の顔をじっと見つめながら近付いて来るのに気が付いた。何だろう? 誰か知り合いだっただろうか? と思って私も相手の方を見て歩きながら考えたけど、何だか会った事の無い人の様な気がする。若い女の人は、私の顔をじっと見つめたまま、どんどん近付いて来る。

 私はその人と視線を合わせたまま歩きながら内心ドキドキしていた。

「あの、ごめんなさい。ちょっとだけいいかしら?」私のすぐ側まで来てその女の人は言った。年齢は22、3歳位だろうか? とてもキレイな人だと思った。「急に声をかけたりしてごめんなさいね。 ただ、私はあなたを見て、どうしても、そのまま素通りする事が出来なかったのよ。

「……実は私はこう言う仕事をしている者なの」女の人はそう言って、私に名刺を差し出した。

(占い師 空野 瑠奈)名刺にはそう書かれていた。

 いきなり占い師を名乗る女性に呼び止められて、私は正直、面倒な人に引っ掛かったんじゃないかと言う気がした。

「あの……変に誤解しないでね。 別に私はあなたからお金を貰って何かしようとか、あなたに何かして貰おうとか、そう言うのは一切無いのよ」

 占い師の瑠奈さんは、私の不安を見透かした様に言った。確かに何か企んでる人には見えないけど、アヤシイ人って言うのは最初、そんな事を言って接近して来るんじゃ無いかとも思った。

「ただ、私の目から見て、あなたには明らかにあなたの存在に係わる危険が迫っているのを感じるのよ」

空野瑠奈さんが言った。

(私の存在に係わる危険?)

 私は思わずその(私の存在に係わる危険)について考えてみた。ふと、清音 美実の顔写真が目に浮かんでゾッとしたけど、すぐにまさかと思った。

「私の言っている事を、信じろって言っても無理なのかも知れないけど私にはあなたの悪い運命を変える手助けをする力があるのよ。もちろん、あなたの運命は最終的にはあなた自身でしか切り開く事が出来ないのだけど」空野瑠奈さんが真剣な眼差しで私を見ながら言った。

「だから、私にその手助けの時間をくれないかしら、……大丈夫、一分もかからないわ」空野瑠奈さんがそう言って、私の返答を待つ表情をした。

   ・・・

 私は占い師の空野瑠奈さんについて行ってすぐそばにあった小さな公園に入った。公園の中に入ると空野瑠奈さんは、振り返って私と向き合った。彼女の背後には52階建てのアウルタワービルが夜空に向かって聳え建っている。

「両手を出して私の手を握って」瑠奈さんが両手を差し出して言った。

 何かこんな宗教だか何かの会があった様な気がしたけど、私はとりあえず、何も考えない事にして言われた通りにした。

「目を瞑って、それから私の手の感触に意識を集中して」目を瞑った。

 相手が女の人だと言っても向かい合ったまま目を瞑っていると言うのは何だかドキドキする。20秒か30秒位たった時、周囲の街中の雑音が切断された様に瞬間的にずれて、肌に感じる空気がいきなり冷たくなった。そのあと両手に瑠奈さんに手を握られている感触が無くなっているのに気がついた。私は目を開けたが、目の前には誰もいなかった。目の前には公園の上に夜空が広がっているだけだった。目の前にアウルタワービルが見えていた事を思い出すまでにすこし時間がかかった。何が起こったのか、よくわからないままに周囲を見回した。右手に見えていたエアライズタワービルも見えなくなっている。後ろを振り返るとサンシャイン60ビルが聳え建っているのが見えた。

(まったく、都会と言う所はいろんないろんな人がいて、いろんな事が起こる)と、私は思って大きくため息を吐いた。でも何故だか、私は何と無く清音の魔の手からは逃れられた様な気がした。

     了

以上で、11月号の作品掲載を終了します。皆さまの御高覧に感謝いたします。

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