14 奄美剣星 著 都会&紅葉 『隻眼の兎の憂鬱』
【隻眼の兎の憂鬱/概要】
異時空を支配せんと目論む魔界王子麾下の魔界衆たちは、時空を自在に移動する潜在能力を秘めた女子高生・有栖川ミカを奪取すべく、果敢に同家にアタックしていた。彼女を密かに警護していた時空警察の隻眼の兎ギルガメッシュとサーベルタイガー・エンキドウの二人に加えて、織田信長・森蘭丸・アドルフヒトラー・山下清画伯といった食客四人衆が加わる。ところが、魔界執事ザンギスのきまぐれな魔法で、有栖川一門と魔界衆は異世界に飛ばされてしまう。
異世界カアラ大陸には、北のジーン侯国と、南のファア王国という二大国が存在していた。両者は犬猿の仲で戦争が絶えない。ファア王国は、偉大な先君が亡くなり、存亡の危機に立っていた。だがジーン侯国は、黙って見逃すほど人は良くない。圧倒的な兵力をもつ侯国の軍勢は王国に侵攻し、包囲陣形を敷き、迎撃にでた王国軍を殲滅せんとしていた。
そんな戦場のどまんなかに、有栖川家が屋敷ごと、どてんと姿をあらわした。全滅しかけていた王国軍が有栖川家に逃げ込んだ。有栖川一門は王国側につき、しかもミカが特異点能力(魔法ともいう)を生かして、屋敷の周囲に城壁を築いてしまった。信長たち食客四人衆はこれを有栖川砦と呼んだ。
しかしそこで転機が起る。戦争の元になった図書館遺跡があるというのだ。探検に行った有栖川家一門食客は、異世界へと飛ばされ、ミカは魔界王子に囚われてしまう。彼女を救ったのは魔界衆と手を組んだはずのジーン侯国の将領ハーン元帥だった。律儀な彼はミカを砦まで届けさせた。その途中、魔界王子の家臣であるシモーヌに襲撃され、さらに、白い戦象に乗った伶人に救助された。
『都会』
サイドカー仕様のKATANA。コクピットに収めっているのがマントを羽織った隻眼の兎。運転しているのはゴーグルをかけた剣歯虎だ。サイドカーの背後にはロープが掛けられ、卵の形をした青銅容器を牽引していた。正確を期するならば、その後に、ドイツ第三帝国タイガーⅥ号戦車が続き、さらに、ファア王国の将領ナイカルと、サートン率いる千人隊2個部隊の兵士たちが、荷車から滑車をつかって降ろした重たい「卵」を、サイドカーに乗った時空警察官たちに手伝ってもらいつつ、滑車とコロ、それにロープをつかって、少しずつ、そいつを、ある場所に、せっせと運んでいたのだ。
分銅おもりに似た大きな帽子をすっぽりかぶった司教はかなりの高齢だ。帽子の中身である頭はたぶん禿げあがっていることだろう。隻眼の兎ギルガメッシュが王国将領サートンにきいた。すると90歳過ぎとのことだ。マントを羽織り、杖をついている。本来は大柄な体躯であるようだが、痩せていて腰が曲がっているため、小さくみえる。長くのびた白髭は地べたに少しひきずっている。この人物・最大の謎は、ふさふさとした眉毛だ。双眼にかかっていて、果たして、前が見えるのか? 老司教を初めてみた人々は一様に疑問に思うところである。
六角形の寄棟をした祠堂内部は薄暗く、いくつもの燭台の灯がゆらめいている。その石畳み床には、六芒星が描かれていた。封魔用にこしらえられた青銅器・通称「卵」が運び込まれ、真ん中に設置されようとしていた。
ファア王国の秘境にある神殿を収める老司教は、摂政内親王がよこした勅使から、事情をきいている。この人が「卵」を管理することになっているのだ。歩みでてきて、それに、手をかざし呪文を唱え始めた。弟子である学僧たち数百名が、老師にあわせて唱和しだした。
祠堂の入口に立っていたのが、マントを羽織った隻眼の兎ギルガメッシュだ。
「魔界王子め、やけにおとなしい。なにか企んでおらぬといいのだが……」
隣にいた剣歯虎にいった。
「チョボ髭閣下は?」
「奴か、山下のおっさんと一緒に、戦車に籠ってる。ここまでの護送の道中で、魔界王子のネガティブ小説朗読をきかされてへきへきしているみたいだぜ。なんで騒音遮断機を貸さなかったんだって、まだむくれてるぜ」
「ほっとけ」
時空特異点の高校女子生徒・有栖川ミカ。彼女をヨメにすることで、あまたの時空世界をまたいぎ支配しようと企む魔界王子ダリウス。その野望を阻止せんと、警護しているのが、時空警察官である隻眼の兎ギルガメッシュと、剣歯虎エンキドウの二人だった。彼らは、ミカ以下有栖川一門、それに、ヒトラー、山下画伯、それに信長・蘭丸主従といった食客四人衆もろとも飛ばされた。舞い降りた先は、閉鎖された時空世界で、大陸諸国のひとつファア王国だった。
ミカを狙ってくると知った、王国摂政フィルファ内親王は一計を案じた。特異点少女を餌にして、罠を張り、魔界王子を捕縛したのだ。罠にあたるのが「卵」の形をした例の青銅容器だ。蓋を開けた容器の前に、彼女を立たせ、王子に襲い掛からせる。そこで蓋をしたというわけだ。
祠堂は峰の頂きにある。「空中都市」と呼ばれる南米インカ帝国・マチュミチュ遺跡みたいに、岩山の斜面を削って、城壁を築き、内部には大小神殿と市街地を形成している。市門を出れば石垣で囲われた段々畑が、はるか下方にある谷底にむかって広がっていた。
緻密に積み上げられた城門。そこをくぐると、岩盤を削って造られた建築群が姿を現す。
市街地の大半は僧坊だ。ほかに、聖職者及び巡礼者の宿泊施設、ささやかながら市場なんかもある。それが僧坊都市エロワだ。人口は三千人。現代の日本なら自治体の村でも数千人はいるのだが、古代的な国家体制を敷いているファア王国では中規模の都市だった。
「卵」の表面には「=」の隆起した帯線を基調に、「☆」「△」「□」「◎」「S」「エ」といった紋様を複雑に組み合わせている。だが、よくみると、球体の一部は変形し、意匠はすり減っていた。それもそのはず、都城から僧坊都市への護送途中で、「卵」に封じ込められた魔界王子を救い出さんと、魔界執事が横槍を入れる恰好で、奇襲してきたためだ。
魔界執事は、上半身はシルクハットで蝶ネクタイとタキシード、そのくせ下半身が蛇の姿だ。タラコ唇。片眼鏡をつけている。奇襲時に一時「卵」を奪い、ボールのように尻尾で、ばんばん、ドリブルをやった。
また魔界王子は陰険で、「卵」の中から、護送の皆に嫌がらせをしていた。具体的にいえば、太宰治の『人間失格』や、カミユの『異邦人』の朗読リバーシブルをかけたのだ。
タイガーⅥ号戦車の砲塔にいた、ヒトラー閣下は、頭に血がのぼり、ついに弾丸を、「卵」に放った。このとき肉眼では識別できない亀裂が入っていたのだ。
司教が呪文を唱え終わった。
扉から強い風が吹いてくる。
燭台の火が消えた。
司教は奇声をあげて、杖の先端を勢い、「卵」の胴にむけて衝く。
ガラン、と響きをあげ、「卵」が真っ二つに割れた。
するとだ。勝ち誇り嘲笑する声が、祠堂に鳴り響いた。
時空警察官二人の前に板のが、大柄な王国将領サートンだ。その人のところに、小柄な将領ナイカルが、戸口に現れ駆け寄ってくる。
「先輩、たいへんっすよ。司教猊下が、眠り薬で眠らされていたっすよ。そこにいるのは偽物だ!」
「なに?」
腰の曲がっていた司教が、しゃきっと背を伸ばし、マントを宙に放り投げる。刹那、現れたのは黒衣をした若い貴紳だった。
――黒衣の貴紳シモーヌ。
喜々とした声でその背後から顔をだしたのが、耳の尖った白タキシードの魔界王子である。
「シモーヌ……やっぱり、おまえは頼りになる」
さらに、石畳みの床を突き破って、半蛇身の魔界執事まで姿をあらわしたではないか。
わはは、わはは……。
蛇の尻尾が、ばんばん、床を叩いている。
祠堂内部は土煙で充満していた。
数百名の学僧たちは、われ先にと、出口に殺到し、かえってつかえてしまっている。ザンギスはそいつらに尻尾の鞭で叩いて道をつくる。
「いい加減、僕も、朗読(DOS)攻撃でこいつらをかまうのにも飽きてきた。じゃ、いこか――」
「さすがは坊ちゃん。あえて敵に囚われて、精神的ダメージを与えていたとは。魔界一の策士!」
「判る? いやあ、照れるなあ」
黒衣の紳士は会話には加わらず黙っていた。
隻眼の兎が、ポシェット獣「手持ち豚さん」を取り出し、白タキシードの魔界王子に攻撃しようとした。だが、兎の手にあったそれは、魔界執事の尻尾によって弾き飛ばされた。
魔界衆三人が、出口にむかってダッシュする。
そこに――。
『紅葉』
神殿は中米マヤ文明みたいな石積みのピラミッド神殿で、魔界衆三人が飛び出し、急傾斜の階段を駆け下りてきた。
そこで待ち受けていたのが、ナイカル将軍だ。彼は卵の形をした青銅容器に封印した魔界王子の護送役に就いていたファア王国将領二人のうちの一人で、王立学校ではサートン後輩にあたる。
横にいる軍師につぶやく。
「こうなることも予想して防御線を張っておいたんっすよ」
日焼けした小男の将軍は千人隊を率いていた。うち弩弓兵は200名だ。ナイカルが、
――放て!
と命じるや、空が黒ずむほどに矢が飛ぶ。術をかけた特殊な矢だ。
魔界王子に多数の矢が刺さろうとしたときだ。耳の尖った青年が、身をすくめると、盾となったものがあった。下半身が蛇である魔界執事の尻尾だ。
「ぬぬぬ……痛いですなあ……」
顎をしゃくりあげた魔界執事がかけていた片眼鏡の眼が、ぎろりと階段下の敵軍勢を睨みつける。
うおっ。
突風のようなエナジーが、ナイカル隊の兵士たちをのけ反った格好で押し倒す。
「頭痛、心臓の圧迫、吐き気……なんてまがまがしいんだ。瘴気というのはこういうものか」
ナイカルが叫んだ。
黒衣の貴紳・シモーヌがマントの端を口にあてて笑いを押し殺す。
「莫迦め、手負いになると、魔界執事は狂戦士化する。魔界最強と呼ばれる魔族がそうなったとき、どうなるか思い知るがいい」
半蛇身の魔族の目がトリップしたようになる。尻尾が輪になり、先端をタラコ唇がくわえる。するとどうだ。身体から炎が噴き上がり、車輪となって、階段を勢いよく駆け降りてゆくではないか。
わはは、わはは、わはははは……。
石造りの町が炎上。暴れ狂う大車輪のシルエットが狂気のオーラを放つ。魔界執事の狂乱はそれで収まらない。「大車輪」は市街地建物を破砕し、あるいは身体から噴射する炎で焼いてゆく。
「いまの隙だ」
魔界王子と黒衣の貴紳が、できた道の後をダッシュする。
阿鼻叫喚となったナイカル麾下の千人隊が蹴散らされる。
「皆の者、撤退だ。サートン先輩のいる第二防御線まで交替するぞ」
ナイカルはそう叫ぶの精いっぱいだった。
神殿から、500メートル先にある市門までを貫く一本道は「紅葉通り」という銀杏を街路樹にしたメインストリートだ。中間に巡礼宿前十字路がある。そこに隊伍を配置していたのが、もう一人の将領サートンだ。大柄でマッチョな体躯をしている。手回しがいい。土嚢や荷車でバリケードを築いていた。
魔界執事の身体は巨大化していた。全長30メートルを超えるだろう。それは、炎を上げる街を背に、車輪から、鎌首をもたげた蛇のようなスタイルになり、ぶるんぶるん、と建物を破壊しながら、「紅葉通り」を市門にむかって進撃している。
サートン隊には、信長たち有栖川家食客四人衆の協力を得て鍛えられた鉄砲が100丁ばかり配備されている。それで鉄砲隊を組んで、土塁・防御壁から、鉄砲の斉射をしかける。しかし巨大化した敵は、倒れるどころか、なお凶暴化して、ぶっとい尾っぽを、ぶん、とやる。すると、「紅葉通り」に陣取ったサートンの千人隊陣地は、あっさり、吹き飛ばされた。
「ざ、ザンギス……。や、奴は魔族なんてもんじゃない、大怪獣だあ~」
サートン、ナイカルの隊伍はほぼ瓦解。わずかに将軍警護の100人隊が、最終防御線である市門まで敗走した。そこに陣取っていたのは、有栖川家食客四人衆のヒトラー総統と山下画伯が乗り込んだⅥ号戦車であった。
☆
チョボ髭の総統閣下が、口にくわえていた日本たばこ産業株式会社のブランド・ピースを地面でもみ消し、砲塔から戦車に乗り込む。そして内部にいた操縦士の山下画伯と弾丸を装填した。
巨大怪獣化した魔界執事が、どすん、どすん、と地響きをたてて迫りくる。
いつのまにだか、魔界王子と、黒衣の貴紳・シモーヌはその肩の上に登って座っていた。執事が体表から発する炎をまったく意に介していないところあたりは、さすが魔族といえる。
――撃てーっ!
戦車の砲身から発射された弾丸が、半蛇身の腹にのめりこむ。撃ち込まれた瞬間、さすがに顔を歪ませた魔界執事だが、「ふんっ」と叫んで腹を力ませるとどうだ。腹から弾丸が、地面でカランと音を立てて落ちたではないか。肉が弾丸信管に加える衝撃を和らげたのだ。
ばんばん地面を叩く尻尾が、市門前の戦車にぶつかり、横転させる。
そこで、巨大怪獣の肩に乗った二人のうち魔界王子が、不可思議な唄をそらんじだした。
.
ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ♪
ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ♪
ゴジラとゴジラ♪
.
「なんですか、その唄は?」
黒衣の貴紳がいぶかしそうな顔で、隣にいた魔界王子の顔をみた。
「あ、これか。映画『ゴジラ』シリーズ第一作のBGMにどこぞのオタクが歌詞をつけたものだ。コミケに出入りしている連中じゃ、けっこう有名だ。なんだ知らなかったのか?」
「――存じません!」
黒衣の貴紳は吐き捨てるようにいった。
巨大化した魔界執事を大怪獣と考えぬものはいない。魔界衆がつけねらう特異点少女・有栖川ミカには弟・剛志がいる。オタクな中学生で、ゴジラ以下、古い特撮映画に熱狂している。彼がこの場にいたら、やはり、唄っていたに違いない。
――近代兵器といえども、巨大化・狂戦士化した魔界執事を止めることはかなわないのか!
そのときだ、半蛇身の大怪獣を追いかけてきた時空警察のKATANAが現れたのは。サイドカーがジェットヘリのような機械に変形する。
魔界王子が、
「トランスフォーマーか!」
と叫んだ。
王子は特撮ものに詳しい。剛志と気が合うかもしれない。それはそうと、リング型から人型(?)に変形したザンギスだが、巨大化してからというものずっと、皮膚表面から炎を噴射している。ジェットヘリタイプに変形したKATANAは、空中から消火剤である白い泡をまいて、怪獣の炎を鎮めた。
KATANAのコクピットは操縦もできるらしい。運転シートにいた剣歯虎が、そこから飛び降りる。
――変身願います!
仮面舞踏会の仮面のようなものを彼は顔にあてた。ジェットヘリから七色の光線が照射された。
ぶるるる……。
という効果音をあげて、彼もまた巨大化したのだ。
地上・市門前である。
王国将領二人が立っている。
「せ、先輩、王都の人気覆面レスラーに虎仮面7号っているっすよね。時空警察のエンキドウ殿は、こうしてみると、そっくりじゃないっすか!」
「いわれていみれば…」
横転した戦車から、閣下と画伯がでてきた。だがナイカルが先輩のサートンにいった内容は判らずじまいだった。もっとも、閣下たち二人には魔界王子が黒衣の貴紳にいった話の意味すらも理解できないであろうが……。
(つづく)
⇒ここまでのお話は、下記URLでまとめてご覧いただけます。
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● 誤字脱字のご指摘は、1稿作品である現段階では、大幅改稿になる2稿において、まったく生かせませんので……お気持ちだけで戴くことにします。( しかし、やたらにキャラが多い。 いずれ数人に整理しなくては……)
【登場人物】
●時空警察……サイドカー仕様のKATANAを駆って異時空をパトロールする。隻眼の兎、ギルガメシュ、サーベルタイガー・エンキドウ。
●有栖川ミカ……時空移動と、砂像を実物に変えてしまう通力・組成物質組替能力を有する女子高生。
●有栖川家一門……パパ、ママ、弟・剛志。
●食客四人衆……時空警察官・隻眼の兎とサーベルタイガーにより保護され、有栖川家に託されている食客たち。信長・蘭丸主従、山下画伯、ヒトラー総統。
●魔界衆……有栖川ミカを『わが嫁に』とたくらむ闇の勢力である。魔界王子ダリウス、魔界執事ザンギス、黒衣の貴紳シモーヌ
●ファア王国……宿敵ジーン侯国と大陸の覇権を伺う。摂政フィルファ内親王、サートン将軍、ナイカル将軍。




