10 ゴキブン 著 夏の花 『死臭花』
死体の臭いのする花があるのを御存知だろうか。
名前は「死臭花」
名前といってもそのような腐臭を出す花の総称で、花粉を受粉させるために死体にむらがる虫を呼び寄せる花だ。いい香りか不快な臭いかは人間がかってに決めていることで、臭いにむらがる虫には関係のないことなのだ。
死臭花のよう女のがいた。名前は穴子で歳は30歳前半、ちょうど女の色気が下降を始めるころだ。
「ちょとシワがちょと気に成り始めたわ」
穴子は鏡の中の自分の顔にそうかたりかけた。
彼女の職業は表向きには恋愛コンサルタントだが、裏では結婚詐欺のようなことをして男から金をだましとっていた。その方法は実に巧妙で高齢者社会が生みだした孤独な老人達を次々と餌食にしていたのだ。
「今日のハエはちょと大きいハエだわ。花の穴にうまく飛んで来るかしら」
穴子は入念な化粧を終へ、これから客である再婚相手を捜している孤独な老人男性と自分が手配した女性を合わせることになっていた。
相手の女性への報酬は儲けの三割を支払うことですでに話がついていた。
「今度のハエは少なくても1000万円の値打ちがありそうね」
バッグから赤色のシステム手帳を取り出した穴子は今日の予定をもう一度確認した。
PM1:00 料亭香り花で一回目のお見合い
時間と場所を確認した穴子は自分の車に乗ると、カーナビの行き先に料亭香り花と入力し行き先を表示させ車を発進させた。
今日の獲物の男性は穴子より早く料亭に着いていた。
男の名前は羽江 富造。
会社人間だった富造は半年前に会社を退職し、毎日やることもなく退屈した毎日を過ごしていた。
暇つぶしにネットでたまたま見た、出会い系サイトの穴子のページの彼女の写真に男心を揺すぶられ、サイトの会員になって彼女とのメールのやり取りの後、いつの間にか見合いまでするようになていた。
穴子には男の心をくすぐりる何かがあり、その刺激を受けた男達が知らず知らずに深みにはまり最後には彼女の毒牙の餌食になっていくのだ。
「あら羽江さん、ずいぶん早いのですね。約束の時間までにはまだ一時間もありますわよ」
穴子は料亭の玄関前の木製縁台に座っている富造を見つけて声を掛けた。
「いや。昨日からあなたに会えると思うと夜も眠れなくて、ついつい早く来てしまいました」
「今日は私とのお見合いじゃありませんことよ。私はただの仲介人ですからね。うまくいくように御指導しますから安心していて下さい」
「それは心強いです。女性は亡くなった家内以外は知らないものですから」
「亡くなった奥様ともお見合いで結婚されたのですか?」
「はい、38年ぶりのお見合いですよ。家内と見合いした日のことを思いだします。あの時も緊張していましたが今はそれ以上に緊張している気がします」
「まぁ、うぶな富造さんですこと。でもあまり堅くならないで下さい。もう女性との人生を経験されているのですから、堂々とされてるほうが女性には印象がいいですよ」
「はい。でも何故か緊張してしまいます。あなと居るせいかな」
富造は今日見合いする女性より穴子のほうに興味があるみたいだ。
穴子はそれを十分に弁えていたが、表には出さず計画通りに事を進めていくのだった。
穴子は富造に見合いの席での注意を簡単に説明した。事前にメールを送り説明をしていたが、まだ時間があったのでおさらいのつもりだった。もう筋書きが用意されているので本当は何も注意する事などは無いのだが、それらしく見せるための穴子の演技だった。
富造は穴子の話を聞いてるのかどうか、穴子を飢えた野獣が獲物を狙うように見ていた。
穴子が事前に打ち合わせをすませた女が打ち合わせ通りの時間に現われた。
「どうも初めまして。村群縞子と申します。この度は貴重な時間を私のために割いていただきましてありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
挨拶を最初にしてきたのは今日のために穴子が雇った女で偽名を使っての挨拶だった。
「どうも始めまして。羽江富造です。こちらこそよろしくお願いします」
「富造さんは写真で見るよりお若くて男前でいらっしゃる」
「縞子さんこそビデオで見た印象とは全然違いますね」
事前に富造は写真を、縞子は偽りの自己紹介のビデオをそれぞれ相手に送っていた。
富造に自己紹介のビデオが無いのは富造がパソコンに詳しくなかったからだ。
「お二人とものろ気合うのは後にして、とりあえずお部屋に行きましょう」
穴子は富造が計画した通りの行動をとっていることに満足していた。
三人は穴子が事前に予約しておいた部屋に行き、くつろいだ雰囲気で料亭の料理を楽しんだ。
富造は久しぶりの女性との食事にすっかり舞い上がってしまっていた。
穴子と縞子は富造の気持ちを壊さないように、細心の注意をはらって演技を続けいた。
「わぁ、お腹いっぱいだわ。そろそろ予約の時間も終わりだから、後はお二人の時間を楽しんでもらうことにしようかな。お邪魔虫は消えないとねぇ」
穴子は富造が彼女を止めることを知っていた。
「えぇ、穴子さんもう消えるのですか。もうちょと付き合って下さいよ。ねぇ、縞子さん」
縞子もそれは計画に含まれていること知っていた。
「富造さん、穴子さんはお仕事でこの場におられるのですよ。お忙しいかもしれなのに二人のために無理に引き止めてはだめじゃないですか」
縞子が富造に釘を刺すのも計画の一部だった。
「忙しいなんてそんな。お二人がいいのならどこまでもお付き合いしますよ」
穴子が縞子の打った釘を曲げた。
「穴子さんがいいのなら私はいいですよ」
縞子がそう答えた。
「これで決まりだ。穴子さんには二人のためにとことん付き合ってもらいます。ねぇ、縞子さん」
「はい」
縞子はすぐにそう返事をしたが、計画とはいえ自分より穴子に興味をもっている富造に不信感を覚えなんてバカな男だと思った。この計画は成功すると穴子は確信をもった。それは縞子同じだった。
「次ぎは何処がいいかしら。富造さんはカラオケ好きですか?」
縞子がそう富造に機嫌良さそうに提案した。
「人生に歌ありですか。いいですね。残念なことに私は歌が下手糞ですがそれでいいのなら行きましょう」
三人は料亭を出て穴子の運転する車で街のカラオケに向った。
了




