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支配人はコースに出ません  作者: 一之瀬 樹
十九番ホール
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十九番ホール

 業務報告書


 本社 管理部 御中


 霞ヶ丘カントリークラブ 支配人 沢渡冴子


 着任から二年目の六月末までの業務について、以下のとおり報告する。


 一、預託金


 預託金の一部切捨てについて、会員個別の同意書の回収を完了した。同意は九百十八名。預託金残高は二十八億円から十七億円となった。残高に対する資産の不足分は、過去三十年の施設維持費の累計とおおむね一致する。使途の不明な支出は認められない。


 同意しなかった会員の権利は、従前のまま残る。切捨ては多数決では行えないため、応じなかった方の分は、応じなかったままである。当該の控えは受付で保管している。綴りの名称は、お預かり、とした。


 なお、返還請求は本年度も発生していない。触れていないものには、触れない方針である。


 二、土地


 コース敷地のうち未登記の部分に係る賃貸借について、解約の申入れは、条件の合意により取り下げられた。賃貸借は継続する。地代は改定し、増額となる。


 貸主は、従前どおりの方々である。


 三十年来、契約の実態と登記の記載が離れたままになっていた件は、貸主側の書類の整理が進み、解消の途上にある。整理を進めたのは、クラブではない。


 三、会員および会費


 会費の請求の仕組みに、新しい欄を作った。三十年ぶりの新設である。欄の利用者は、本報告時点で六名。いずれも自発の申し出による。


 生涯無料プレー権者は、六十八名である。


 当該書面は、預託金の返還に代えて交付されたものと判断する。有効性を争えば、同数の返還債務が復活する。この方々への対応は、権利の有効性を争わず、個別の合意で進める方針を維持する。根拠となる手書きの書面は、現物を一枚も回収していない。回収する必要も、当面は認めない。書面は、お持ちの方の財布の中で有効である。


 朝の一枠目の稼働は、通年で最も高い。曜日、天候による変動は、ほとんどない。


 四、施設


 二月の寒波による送水管の凍結破裂は、修繕を完了した。費用は別紙のとおり。工事の際、会員および従業員の応援により、掘削の人件費が見積りを下回った。下回ったぶんは、費用の科目では説明できないため、別紙に載っていない。


 練習場の貸しクラブは、引き続き無償とする。昔からである。


 五、係争


 該当なし。ゴルフ規則に関する裁定は競技委員会の管轄であり、本報告の対象外である。


 六、次年度


 規模の縮小を伴う再建計画の二年目に入る。収支の見込みは別紙のとおり。営業赤字は残る。縮小した規模に対して、来場は減っていない。


 ジュニアの無料開放を検討する。無料の枠を新しく作ることについて、異論は承知している。それでも検討する。朝の一枠目を、三十年後も埋めるためである。


 備考


 食堂のカレーは、肉の等級を戻した。収支への影響は軽微である。理由は、記載しない。


 当職の後任の要否については、別途伺う。いずれの場合も、受付、コース管理、キャディ組織、売店および食堂の現体制は、変更しないことを強く推奨する。この施設の帳簿に載っていない資産は、おおむねこの体制の中にある。


 添付


 一、同意書の綴り 一式


 二、収支および修繕費の明細 別紙のとおり


 三、手書きの権利書面の様式の参考として、同種の書面の控えの写し 一枚。出所は、当職の母の遺品である。


 以上

 最後に、お断りを。この作品はフィクションです。作中の制度や手続きについては、できるだけ正確に書くようにしていますが、筆者はその分野の専門家ではありません。制度はこの先変わっていきますし、同じ制度でも、一人ひとりの事情によって扱いが変わります。ここに書いたことを、ご自身の判断に使わないでください。実際に手続きが必要な方は、資格のある方に必ずご相談ください。これらの記述について、筆者は責任を負うことができません。

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