第41章(親友との夏休みの旅行)
大学生は7月中旬から夏休みに入り、9月も休み。由紀奈たちは旅行や合宿などで忙しい。
「医学部ヨットクラブの合宿は7月になりそう。涼兄貴も剛さんも誘ってるらしいよ。以来やろ? 楽しみやわ」 と、由紀奈の関西弁に心が和む。 幼い頃からの不思議な体験を話しても、
由紀奈は態度を変えなかった。辛い場面では一緒に泣き、あの夜の秘密も誰にも言わなかった。
利絵にも話していないようだった。 心の防波堤が破れ、由紀奈にはすべてをさらけ出せる。
あの貧乏生活も、市営住宅にも遊びに来てくれた。狭くてみすぼらしい部屋で、
祖母とも仲良く話していた。 「お茶漬けって美味しいなぁ。おばあちゃんの古漬け最高やわ。」 と
喜んでいた。 「家族が同じ部屋にいるって、ええなぁ。広い家だと誰がどこにいるかわからんし、
逆に誰かが潜んでてもわからんから、コワイねんで」 と言いながら、家に帰りたくない様子だった。
涼が京都に住み、芦屋にはあまり帰らないので寂しさもあるだろう。狭い部屋なら気にならないが、
大きな家での一人ぼっちは堪える。
その気持ちは痛いほどわかるので、いつもどちらかの家に泊まり、
一緒にいるように感じていた。 大学生になり、友達はできただろうか? 毎日のようにかかっていた電話も最近は少なくなった。心が離れていくのが怖い。仕事の忙しさにかまけて孤独に目をつむる日々。
涼に会いたい。由紀奈と一緒にいたい。西井家の暖かい食卓の夢をよく見る。 家に帰ると母がいた。
突然来て数日いると、またどこかへ行く。今回は百貨店のチラシのモデル仕事だった。
母は「モデルなんて若い時だけ。俳優や歌手も視野に入れ、レッスンした方がいい」 と言うが、
明菜は芸能界にずっといるつもりはない。堅実に結婚して子育てもしたい。
やりがいのある仕事もしたいが、母には言えない。 家族が欲しい。家に男性がいて欲しい。
パパの存在はどんなものだろう。西井家のパパみたいに、娘に甘いのだろうか。
17歳の誕生日にテニスのフルセットを惜しげもなく買ってくれて、
一緒にテニスをしてくれたことだけで、あんなに喜んでくれた。
大きな傘のように家族を守ってくれる存在。あんなパパが理想で、涼の笑顔とも重なる。
永遠の片想い。夏休みに会えると思うと、胸がドキドキする。
「今は彼女いないみたいだから、攻めるといいよ。」 と信彦兄貴が耳元で囁く。
もののけだけど、兄貴がいつも近くにいてくれたから寂しくなかったことに、今さら気づく。
「お兄ちゃん、感謝してるよ。」 と囁くと、恥ずかしそうに後ろを向き、消えた。




