エピローグ
対外的には、ナハト王は体調を崩したことによる早期退位ということになった。
この決定に異を唱える者は一人もいなかった。それほどまでに、ナハトは国民から、そして大臣たちからも嫌われていたのだ。
フィーネは王位を継ぐと、セシリアたちの暮らす周辺を自由都市とすることを宣言した。国民たちからすれば、何もない荒野をよそへ渡すことなど取るに足らないことだったらしく、不満の声は一切上がらなかった。
フィーネはすぐには、人間と魔族の共存を公言しなかった。ナハト王のように魔族へ偏見を持つ者は少なくないからだ。
「すべてはこれからです……。あのホテル——リライトを通して、魔族との共存を示していきます!」
フィーネの宣言を聞いた大臣たちは、皆笑顔でその考えに賛同した。賢君のもとでこのボロボロの国を立て直していく未来を、皆が見ていたのだった。
◇
「いやぁ~。今回のMVPは、真理さんですね~」
場所はホテル・リライト。現在ホテルにいるのはセシリアとレオニダスだけだ。二人は応接間でお茶を飲んでいた。
真理が鼻高々に言う(鼻はないのだが)。
「なにせ三十年前の映像を検索して魔法で再現し、自由都市化のアイディアまで思いつき、フィーネを次期王に据えることで都市化を盤石なものにする……という筋書きを描いたのが、この天才精霊なんだからねー!」
セシリアたちはただ、真理が描いた筋書きに乗っかったに過ぎない。二人とも真理には心から感謝していた。しかし——。
「さあ、崇めよ! 感謝せよ! この有能精霊に! わーっはっは!」
「はいはい、ありがとう、真理。さすが、ピンチに頼りになる精霊ね」
「でっしょーん!」
セシリアは安堵の息をついた。自由都市というものがどれほどのものかよくわかっていない。しかし魔族がいても大丈夫な場所になった、ということらしい。
……でも。
「すべては、これから……だね」
「ああ。これからだ」
あくまでも、ここでの自治権を手に入れただけだ。彼らが目指すのは、人も魔族も安心して過ごせる宿を作ること。
ナハトのような人間はたくさんいるし、魔族騎士たちのように、素性を隠してびくびくしながら生きている魔族も多い。
「人と魔族——両種族の間にあるわだかまりを、調和していく……。君の力で、な」
するとセシリアは少し不満げな表情を見せた。
「……私だけに頑張らせようというの?」
そういうつもりでないことはわかっていた。でも、拗ねてみせた。甘えたかったのだ。レオニダスは微笑むと、セシリアをそっと抱き寄せた。
「一緒に頑張ろう。愛する人」
「うん!」
こうして世界で初めて、人と魔族のカップルが誕生したわけだが——。
「お二人さん、いちゃついているところ大変申し訳ないんだけど、お客さんが来てるよー?」
どうやら、もう開業の時間になっていたらしい。セシリアはレオニダスからぱっと離れ、急いで出口へと向かい、扉を開いた。
「ようこそ! 自由都市唯一の宿——ホテル・リライトへ!」




