二章幕間・二 『桃』と王都への招待
「――それは、どういう……? コネクター、ってのもよく分からないし、私は神でもなんでも無いんだが」
何なら、その『神』に選ばれた使徒的な奴を、ぶっ飛ばしてきたばかりだ。今思えば、かなり罰当たりな事をしたようにも感じるが、元はと言えばあんなロリコンサイコパス野郎に力を与えた『神』が悪い。
そもそも、『神』といっても、実際にコンタクトをとった訳では無いので、その存在には、いまいち実感にかける。
モノは怪訝な表情に、怪訝な表情で返して、少女が持つ銀色の光の無い瞳を覗く。
「そのまんまの意味ナノ。オマエがコネクターを奪いに来た『神』ならここで……殺す、ナノ」
「……!」
一瞬、目の前の少女から放たれたものであると気づけない位の、少女の風貌からは有り得ない濃厚な殺気。
身体の芯が凍るような気配に、モノは僅かに眉を動かす。
そんなモノの反応に、まるで意外な物を見るような視線で驚くのは、その殺気を放った張本人で。
「見た感じ『神』ではない……けど、信じられないくらい冷静、ナノ。普通なら今ので気を失ってておかしくないナノ。オマエ、やっぱり只者じゃないナノ」
「あ〜、なんかどうも、そういうのに鈍くなってきてる自覚はあるな。自分自身、最近、怖いもの知らずなところが。なんでかは知らないけど」
「オマエ、なんか冷たいナノ。気持ち悪いナノ。まるで真っ白な無機質ナノ」
「……ナノナノナノナノ、なんか癖になりそうナノ」
「真似するな、ナノ」
何故か、とても気味が悪そうに、地面にピンク髪を擦りながら、長い袖で身を守るジェスチャーをしてモノから半歩下がる少女。
初対面で直ぐ、そんな反応をされるのは心外なので、軽口を含めた言葉でユーモアを見せておく。
しかし、それがかえって逆効果だったらしく、モノはナノナノ少女に鋭い目付きで睨まれてしまう。
モノはその刺すような視線を受けながらも、少しおどけてみせて、
「私はモノ・エリアス。見ての通り、誰もが振り返る絶世の美少女。惚れてもいいぞ?」
「気持ち悪いけど、敵意が無いのは認めるナノ。……ローズ・リリベル、ナノ。『コネクター』の守護者ナノ」
「呼び方は、ローズ、でいいのか?」
「ナノ」
小さく頷くローズ・リリベルと名乗った少女。
互いに簡単な自己紹介が終わったところで、話を切り出すのはモノの方だ。
「……で、まあ色々と聞きたいことは山ほどあるんだけど、まずは一つだけ確認いいか?」
「…………」
モノの発言権を求める言葉に、ローズは沈黙。その沈黙を承諾の意味と受け取って、モノは短く息を吸い込み、そして――、
「――――お前、『最終兵器』だろ」
「……!!」
この独特な雰囲気に似たものを、モノは数回経験している。正確には、二人から。最初の『紫』とその次の『赤』。
彼女達はこの世界では異質な程に鮮やかな存在感で、不思議に満ち溢れていて、何処か危険な香りを感じさせていた。
それとは違うが、根本的な部分で同質のそれを、モノは目の前の少女からも感じ取っていて。
余程衝撃の内容だったのか、ローズはタレ目で無気力な瞳を大きく開き、呼吸を止めた。
モノは彼女に向かって、さらに言葉を重ねる。
「おそらく、『桃』かなんかの。違うか?」
見つめ合う彼女の目は、驚愕と戸惑いと感心に揺れ動いていた。
暫く、モノがローズの答えを待ち、口を閉じていると、やがてローズはその薄紅色の唇を、ゆっくりと開けて、
「……色素も漂わせていないのに、よく分かったナノ。オマエの言う通り、ローズは『最終兵器』ナノ……それも、『桃』の」
「そんだけ分かりやすいやつをぶら下げてて、よく分かった、なんて言われてもな……」
そう言ってモノが視線を移すのは、ローズのその長い、長い髪。
これだけ特徴的な鮮やかなピンク髪と、オーラを放っておけば、そりゃあ自分含めて三人の『最終兵器』を知っているモノからしたら、分かって当然だ。
「いいや、オマエ勘が良過ぎるナノ。まるで『紫』ナノ。でも、違う。オマエ、まさか『白』ナノ?」
「なんで『紫』……ヴィオレが出てきたのかは分からないけど。そうだ、多分、私は『白』の『最終兵器』……ってやつだと思う」
「ここにきてどうして、後半で自信を失くすナノ」
「いや、私、正直よく分かってないんだよ、この力のこと。そうだ、ローズ、お前この『色』の力のこと詳しそうだし、教えてくれないか?」
この身体で目覚めてから、発現した『色』の力。未知に包まれていて、同時に、強大すぎる力だ。
モノは感覚で行使しているが、理解したとはとても言えない。
なので、明らかに知ってそうな口振りのローズに、この機会を逃すまいと、教えを乞うモノ。
「なるほど、『白』は目覚めたばかりナノ。となるとこの状況はかなりイレギュラーナノ……」
「? イレギュラーがなんだって?」
「……残念ながらローズがオマエに何かを伝えるのは時期尚早ナノ。どうやら、色素は薄いが『白』の力は健在のようだけど、ナノ」
「……っ!?」
しかし、その教えを乞うた少女が言い切ると同時に。
――――あの予感はやってきた。
否、やってきたのではない。
目の前のその桃色の絵の具のような靄を漂わせた少女から、その予感は与えられていた。
「ああ……とってもハピハピ、ナノ。幸せナノ……!」
跳ねる鼓動と、世界を感じながら。
今まで無表情チックだった表情に、何処か恍惚としたものを浮かべる少女に笑う。
「はは、了解。お前、どっか狂ってるわ」
「何言ってるナノ。最終兵器の中身に選ばれる奴なんて、どいつもこいつも異常者ばかりナノ。勿論、今こうやって落ち着いてるお前も、相当ナノ」
「いやまあ、元の場所に帰れるんだったら願ったり叶ったりだしな」
「……何処までも作り物みたいで、気味が悪い奴ナノ。でも、ローズ、今、満たされているナノ」
予想していなかった、衝撃的な展開ではあるが、モノは今回もその現象には抵抗しない。
出来るだけ安らぐように、身を委ね、背中を預ける。
「最後に一つだけ教えてやるナノ。この光の……色の柱は『コネクター』。世界の奥底へと繋がる場所」
もう既に、景色は果てへと消えた。
一方で、果てからモノを飲み込まんとやってくるもう一つの景色。
遂に、世界が切り替わる、その瞬間。
「――ちゃんと正規ルートを辿って来る、ナノ」
耳の奥に、そんな少女の声が響いた。
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「――ん。戻ってきた、か……?」
どういう訳かローズ・リリベルによって起こされたように見えた『突発的テレポーテーション』。
モノは赤い絨毯の敷かれた階段の途中で、世界の実在を確かめるように、豪華な装飾のされた壁に触れながら呟く。
「今までのもあいつがやってたとなると話は別だが、取り敢えず元の場所に戻れて良かった。聞きたいことはあんまり、聞けなかったけど」
白く小さい手を視界に入れながら、開閉して、身体の感覚を徐々に合わせる。
それから、大きく身体を伸ばして、深呼吸をしたモノは世界の切り替わりに対応して、思考の方も切り替え、整頓。
「ふう……今は深く考えるのはよしとくか。幾ら時間をかけたところで答えが得られる、なんて思えないからな」
頭を振って、階段を一段一段ゆっくりと下がっていく。
「確か、エリュテイア達から逃げ出すような形で別れたんだっけ? ……謝らないと――」
「――モノさん! こんな所に居たんですね、随分探しましたよ!!」
「アルファ?」
モノが階段を降りきった所で、左右に伸びる廊下の左の方から、何やら息を切らしながら走ってくる黒髪の少年――アルファ。
「どうしたんだ、そんなに慌てて」
大声を出したアルファは、モノの前へと近づき、何かに急き立てられ、息も整えないままに、
「あの、驚かずに聞いて欲しいんですけど……」
「うん」
「王都から、モノさん達を連れてこいという命令が……!」
「……はぇ?」
――次への道筋を示すのであった。
これにて二章が終わりです。
三章では、また新しい出会いや、独特なキャラ達が登場予定!!
異常現象の方も、二章は『突発的テレポーテーション』だけでしたが、三章では……???
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更新頻度に関しては、出来るだけ守っていこうとは思いますが、ストックも無くなりましたので、難しい日もあるかもしれません。
※※ちなみに、プロットまとめ作業などもありますので二日くらいは更新厳しいです(番外編や登場人物まとめは投稿するかもしれない)。
ですが、これからも頑張っていくことに変わりは無いので、今後ともよろしくお願い致します!!