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第30話

 高校生になったからと言って何かが変わるわけでもない。


 ただ年齢が増えて、通学する場所が変わって、顔を合わせる奴が変わっただけだ。なんの感慨も抱かない。


 中学から一緒だった漆原も同じ高校に行くらしいから、やはり何も変わらない。


 また、こいつと馬鹿やって、絡んでくる奴がいれば殴り倒してやれば世界は平和で今までと同じ日常である。


 そういえば、漆原と初めて会ったのは中学三年の頃か。


 あいつが俺に絡んでくるから、喧嘩になって、奴を殴り倒し、そのまま何故か話すようになった気がする。


 それ以来、漆原が俺に喧嘩を売ってきたことはない。


 中学といえば、その頃から家族仲は悪くなっていき、妹は俺を怖がっているのか、心配しているのか分からないような表情でいつも俺を見ていた。


 それに苛立って何度か怒鳴って脅してやれば、それ以降、話しかけては来なくなったが。


 そうして、高校に入り、新たに橘とその子分みたいな小西と話すようになったが、結局、思い返せば高校二年生あたりからは漆原とつるんで馬鹿なことをしていた思い出しかない。


 橘は嫌に真面目であったし、小西は小西で面白みの欠片もない人間であった。そうなると、馬鹿なことを平気でやりたがる漆原とつるんでいるのが一番楽しかったのだ。


 そのつながりで、本田という女子生徒と付き合っていたが、それも俺の浮気で別れることになり、他の女子の友達も漆原が高校卒業までに食い散らかして、終わりを迎えた。


 高校を卒業すれば、適当に働こうと考えていた俺であったが、最後に橘が俺に大学に行ける環境にあるなら行くべきだと何度も力説するものだから行くことにした。


 漆原はもっと二人で馬鹿をやろうと俺を誘ってきたが、橘の四年間は好きに遊べるぞという言葉に惹かれたのだ。


 そうして、大学に進学した。


 そうすると、次第に漆原とは連絡を取らなくなり、橘や小西とも会わなくなった。大学で出会った馬鹿な奴らとまた一緒になって馬鹿なことをしていた。


 女遊びに、煙草に酒浸り。高校の時よりは人様に迷惑をかけることは減っていったが、大学に入って馬鹿に拍車がかかったようだ。

 自分と同じような人間と無駄な日々を過ごしていた。


 そのまま大学をなんとか卒業し、親元を離れて自立し、適当に受かった会社に入った。


 会社に入れば、数週間で大学の時の友人など顔も忘れてしまい、抱いた女の数も、その時付き合っていた彼女の顔も嘘のように綺麗さっぱり忘れてしまった。


 流石の俺も会社に入れば、適当に覚えた敬語を話し、適当に社会のルールに則って生活をする術を学んだ。


 喧嘩なんか強くてもなんの意味もない。喧嘩が強い奴よりも、エクセルを上手く使えるやつ、商談の成立数が多い奴。社会で重宝されるのはそういう連中だ。


 ここで初めて俺は人生の挫折を強いられる。


 適当に就活をしたのが悪かった。ちゃんと会社を調べていなかったのが悪かった。面接官がやけに血色の悪い肌に、目が明後日の方向に向かっているのも今にして思えば兆候である。


 二次、三次と進む面接で出てくる人間がどこか皆、抜け殻のような奴ばかりで皆同じように自社を褒め称える。


 それに違和感を覚えなかったのが悪かった。


 そうして入った会社が俗に言われるブラック企業であると後になって知った。


 退社するのは日が回ってからであったし、泊ることも多々あった。明らかに一人に任せるべきではない業務量を毎日のように回され、机が紙の山で埋まり、視界が山で遮られる光景を何度見てきたか分からない。


 そうしてそれを処理しても、次から次へと仕事は回ってくる。


 これが入って間もない新人にやらす量かと疑問にも思っていたが、それを上の人間に言う元気もない。

 許容範囲を超えればミスは生まれ、不条理な罵声を浴びせられた。


 ムカつく上司を殴り倒してやりたいが、そんなことをすればすぐに生活は崩れることをこの時には理解していた。


 やりがいも生きがいもとうに見失っていた。そうして、どうにもおかしな感覚に陥ることが増えてきたなと思っていた。


 やけに気分が乗る日があれば、何気ない日々に落ち込む自分がいた。そうして、気が付けば、上司を殴っていた。


 特に目立ってむかつくこともない。


 いつも通り、仕事を処理し、遅れていた仕事のことで頭を叩かれていた時に、何かが切れた音が聞こえた。


 気が付けば、上司は前で倒れており、自分の鼻を抑えていた。鮮血が見る間に上司の指の隙間から流れてくる様を見て、俺はやってしまったと理解した。


 幸い、上司もそれを問題にはしなかったし、会社もそれを見なかったことにした。理由は分からないが、俺はなんの罪もかぶらず、会社を後にした。


 そうして、自分の精神に異常をきたしていることが分かった。


 躁鬱とでも言うのか、もう医者が自分にどういう病名を当てがったのかすら覚えていない。しかし、なにやら面倒な名前を宣うものだから、こいつも殴ってやろうかと思ったほどである。


 そうして、すべてどうでもよくなり、実家に帰り、また新たに就活をして、また働く日々が帰ってくる。


 それがまた憂鬱で、煙草の本数が急激に増えたのはその所為だろう。


 いや、今まで吸う時間がなかっただけかもしれない。


 


 


 


 嫌だ嫌だと駄々をこねるような年齢でもなく、俺はまた就活をし、なんとか受かった会社に入った。


 面接官の男は真面目そうなやつで、一瞬、昔の高校の時の友人を思い出し、嫌な気分になったのを覚えている。


 そうして、何の希望も夢もなく会社に入り、また同じように仕事をしていた。今度の会社はブラックではなかったが、俺にやる気なんてものは微塵もなく、ただ毎日を死んだように生きていた。


 家と会社を行き来するだけの日々。それに嫌気が指そうが、生きるために仕方なく働いていた。


 電車に揺られて、仕事に揺られて、頭が揺られそうになれば、薬かタバコで誤魔化す日々だ。


 両親の勧めで実家にいたが、特に話をすることもなく、毎日、無意味な日々であった。金を使う趣味もなく、酒代とたばこ代に消えていった。そうして、毎日を過ごしていた時、俺は彼女に出会う。


 俺がその会社に入って一年が経ったある日。


 新人がうちの部署に入ってきた。


 その子の名は宮藤 桔梗という。


 

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