第12話
そのアニメは所謂、日常系アニメの代表格であった。
俺はそのアニメを結構古いアニメだと教えてもらっていたが、それは今、観ても面白く、俺も彼女も黙って見ていた。
この時代では、昔の記憶の時よりも結構オタクに対する風当たりも強く、彼女がオタクを隠している理由もなんとなくだが理解できる。
そういったことから気を遣って、このアニメについて触れてみたが、観てみると内容は興味深く、その当時の時代背景や、社会情勢、流行りなんかも取り入れてあり、見入ってしまう。
4話ほど観たところで、彼女が続きのDVDと取り変える。
俺はコーヒーを飲みながら、昔に戻ったような……そう。あの既視感を覚え、つい口が寂しくなる。
そうか。昔、アニメを観ていながら、煙草を吸いに換気扇の下に行ったところで、誰かに怒られた覚えがある。
今までも、そうして二人してアニメの小休止に俺は煙草休憩を挟んでいたのに、何故かその時は怒られたことに、俺は理由を問うた。そうすると、その人から信じられないようなことを聞かされる。
俺はその理由に驚いて、咥えていたタバコを落としてしまい、その人が告げた事実に飛び上がって喜んでいた。それからはタバコをやめたのだ。
しかし、最後の死ぬ間際の海までの旅行ではタバコをバカバカ吸いまくっていた。何故だろう?
何かに喜び禁煙し、何かに躓き吸い始める。
そんなどうしようもなく下らないことを考えながら、今、彼女とアニメを観て笑っている。
それが何故か心の表面がくすぐったくなるような幸せに感じ、俺は深く漉した息を吐いた。
「そういえば、今日はどういう相談だったの?」
アニメを一通り見終わったところで彼女に問う。
「あ………そうでしたね。忘れていました」
「大丈夫。俺も忘れていたから」
彼女が申し訳なさそうにしていたので、俺も謝ると、少しの間が生まれ、二人して笑みが零れた。
「特に大事な用ではなかったんです………ですが、その……私も既視感について考えていて、他にもこの記憶についても考えていて………でも、対して進展はなかったのですが」
「そっか………でも、恐怖心も少しは和らいできたんじゃないか?」
「はい。あの………上原くんと会った日から少しして、だいぶ落ち着いてきました。それもあって学校にも復帰できましたし」
「そうだね。よかった。宮藤さんが学校に来てる姿を見て安心したんだ」
「そ………そうですか」
宮藤さんは少し照れたように笑うと、またクッキーを一つ手に取り、一瞬、俺の方を確認すると口に運んだ。
そのあどけない姿に見惚れていると、彼女は咳払いをし、話を戻す。
「そうでした………えっと記憶ですが。私はあの日以降、悪夢のような記憶はあまり見なくなりました。理由は分かりませんが、私自身が落ち着いたからですかね?」
「どうだろう………他の記憶は?」
「他には特に………いえ。一つだけ。でもそれは悪夢のような記憶などではなくてもっと……はい。もっと楽しそうな記憶でした。私は誰かと話していて、その人は……いえ。小さい子供でした。楽しそうにその子と話していて、誰かを待っている記憶です。すいません朧気で」
「いや。俺もそんな感じだ。見る記憶は大体朧気で脈絡もない。でも、この変な記憶やら既視感やらをどうにかしないといけないなとは思う」
「既視感から変な記憶。それから二度目の人生……つまり、この既視感は二度目だから感じるものであり、それを感じる限り、もう一度同じ運命を歩む。つまり、既視感を覚えたまま生きていれば、もう一度死ぬということですか?」
彼女は俺の顔を深刻な面持ちで見る。
聡明な彼女のことだ、この間の俺の言葉を聞いて、その結論に至るだろうと考えていたが、その事実を彼女に突き付ける結果になったことに少しの罪悪感を覚える。
「そう……俺は考えている」
「そうですか………どうすべきだと思いますか?ただ既視感を遠ざけているだけでいいと思いますか?」
「俺は、今はそれ以外にやりようがないとは思っている。他には記憶の謎。つまりは死んだ理由を具体的に探っていく道もあるが、それはお互いに精神的に辛いだろう」
「そうですね」
彼女も俺もどうしたらいいのかは分からない。だからこそ、不安で、お互いに今日、会いたかったのかもしれない。
同じ悩みを持つ人間に。
顔を見ると不思議と安心するから。
二人して黙して、窓を見た。
空はもう深い黒で、夜の帳が下りていた。前は自分というものが分からなくなり、夜は何故か孤独に感じ、自暴自棄になりそうになっていた。
しかし、今は近くに彼女がいるだけで、こんな変な自分もいてもいいのかもしれないと思えた。
俺のような人間がいることで、彼女の不安が少しでも消えるなら、これ以上のことはない。
自分の存在意義を実感できる。
そう思って、彼女の方を見れば、彼女は疲れていたのか眠そうに瞬きをしていた。そうして、俺が「今日は帰るよ」と言うと、か細く「はい」と言い、そのまま目を閉じた。
もしかすると緊張していたのかもしれない。
あの母親の反応だと、彼女は男を家に上げさせたことなど一度もないだろうから。
会話の合間に訪れた沈黙は緊張の糸を解し、彼女を夢の世界へと誘った。
しかし、男の前で無垢な寝顔を晒すとは、無用心でないか。
そう父のような考えと、男の欲がない混ぜになったような気持ちで彼女の寝顔を見る。
そうして、ため息一つ。
俺は皿に余ったクッキーを一つ、手に取って、口に放り込んだ。
そうして、近くにあった彼女のベッドから毛布を取ると、彼女にかけて、彼女の家を後にした。




