おまけ 某少年の戯言日和
やあ!読者の皆さんお久しぶり!
解説のお供、マークです。
えっ?知らないって?
はいどうぞ、僕と愛する妹の活躍をお話にしたものですよ。いわゆる前作ですね。
僕もここから先は既読前提でお話をしますので、ネタバレが苦手な方は是非お先にこちらをご一読いただければ幸いです。
すでにご覧になられている方は、本当にありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。
えっ?僕の影も形もなかったじゃないかって?それはもちろん、カレン嬢と僕は実際に会ったことは一度もありませんから。僕はあくまでナフテルの森の、猫の力を持つ一族の長として、また、超越者としてアンディ王子に助言と手助けをしただけですし。
さて、皆様にこちらでご覧いただきますのは、僕の友人アンディ王子についてのお話です。
まあこの王子それこそ大変に愛の深い、いやオブラートに包まずいうと所謂ひどいヤンデレです。ご存知とは思いますが。
森の領有権の書類提出のために来るたびに、僕はカレン嬢についてのほとばしる愛をさんざっぱら聞かされてました。やれ「今日のカレンの麗しさたるや、香り豊かな自然の中に一粒光る朝露に映った青空と大地のようだった……」だの「今日のカレンの美しさを分けてやろう、深紅のドレスに身を包み城の廊下を歩む姿はさながら風がその道を譲るかのごとく……」だのと元気なものです。まあその分こちらもうちの妹がこんなに可愛い話を散々させていただいたものではありましたが。
それで、まあ、遠くないうちに独占を求め始めるだろうと思っていた頃の話でした。
「カレンが無実の罪で処刑されることになった」
と、深刻な顔で訴えかけられました。
それは身に覚えがあるぞ、とすぐにかつて僕らに降りかかったとある出来事にいきあたりました。「強制力」と物語用語で言われているやつですね。「存在」が世界を作りながら「この世界はこんな話だな」という世界の方向性を定めることがありまして、世界の側がそれに則って生命を動かそうとするという働きです───たとえ中に住まうものたちが、そのように動きたがっていなかったとしても。
僕の場合は異能によって「強制力」を上書きして強引に世界をパラレルワールドに持ち込みました。でもそれは相手が僕の妹と僕自身だから出来たこと。たとえ友人でも、強制力の上書きは簡単にできることではありません。なので。
「じゃあ、死んだことにして強制力を騙しちゃおう」
「その手があったか」
僕らはそんな感じで進めることにしたのでした。
あとは知っての通り。僕から異能を分け与えられたアンディ王子が彼女自身にすら獄中死したと思わせて、状況が整うまで異界で───テレストラで魂を匿う。そこで僕は枕木洋介という名の少年として「よっくん」と呼ばれながら彼らを導きました。アンディ王子にわかるように。カレン嬢にはわからないように。あ、あと異能持ちの玉置藍先生、彼女にもバレないように。僕は自力で弾けますが、アンディ王子は僕からのバリアをかけないと素直にぺろっと喋ってしまいそうですから。僕が分けた異能がなければただの人なんですよね。ちなみに玉置先生もとある超越者から異能を分けてもらってるんですよ。
と、まあ、うまく進めていたのですが、高校に上がる頃に一つ問題が発生しまして。
ええ、その、御察しの通り。久遠千夏さんです。
彼女はもともとテレストラのコピーにして実験空間群のうちの一つアーシアという世界に住んでいたんですけれども、その、「存在」の気まぐれに巻き込まれたようで……イルフェリアのミーアシーダ王国、コーン子爵の令嬢に据えられて「『ミーアシーダ恋愛紀』という乙女ゲーの主人公」の役割を与えられたのです。既プレイではありましたが彼女の推しはもともとカレン嬢。「存在」が見たかったのは逆ハー。まあ絶対うまくいかないんですよね。しかも推しがカレン嬢ということはあの!あのヤンデレで有名なアンディ王子と推し被りします。こうしてチナ・フィンダルカ・コーン嬢は望まぬ逆ハーとアンディ王子からの陥れを食らう羽目になりました。かわいそうに。ああ、逆ハールートからは逃げられたそうですよ。なんとかブランシェル伯爵と結婚したのち子を残す前に夭逝したとか。
いやまあ、チナ嬢については懲りない性格だったのも悪いと思いますよ。
だから高校で再開した時にあの猛烈アピールからのご友人確定演出決めたんでしょうし。気持ちはわからんでもないですよ。
ただ、それを見たアンディ王子が「準備は万端ではないがそれでも彼女をもう起こそう、これ以上あの女がまとわりつくと思うと僕は気が狂いそうだ」とか言い出したので僕はアンディ王子のためにそこで切り上げてあげただけです。ああ、もう少し早くすることも遅くすることもできましたが、それはもうアンディ王子が「もうやめる」と言い出すまで黙っていただけのことですとも。僕はそもそも、善人ではないので。
まあ、あとは御察しの通り、カレン・ベネトナシュ嬢は側室として、王の寵愛のもとで一生を終えることでしょう。
───ああ、残されたテレストラでの2人ですか。枕木洋介くんも僕の手を離れてしまったので見る方法は現状ないですね。
あーいや、あるな。あります。玉置先生のお力を借りましょう。いや、玉置先生の力の親玉である超越者の力を借りましょう。そうと決まれば探しますよー、きっとテレストラのニホンかアメリカの……
……えーっ、今あの人達フィニオンにいるんですか?
役に立たないなあ、もう!




