第94話「合同合宿」
一か月間の冬練習を経たところで、始まる合同合宿。集まったのは、黒光高校、鉄日高校、初巾高校、福富商業高校、三浜高校、秋江工業高校の6校だ。開催地は鉄日高校近くの合宿場。鉄日高校の野球部監督、乾が企画、実行したものだ。
「よお今宮」
「おっ、久々だな白里兄」
今宮に気さくに話しかけるのは、白里一哉。初巾高校のキャプテンである。隣にはレイモンドも立っていた。
「どうして6校も集めたんだか。しかもどこも甲子園を目指すような強豪校」
レイモンドが愚痴るのを、白里がなだめる。
「……何にせよ、全国レベルの選手と対抗できる力を身に着けるために、県内のレベルの底上げを図るんだとか? まあ俺らにとってもメリットはでかいよ」
今宮も白里に同意だった。
一方、こちらは軽い修羅場となっていた。
「やあ静ちゃん、北信越大会二回戦負けの感想は?」
相変わらずの無神経さで新田を煽るのは黒鉄だった。
「そちらこそ、デッドボールと強襲ヒットを同じ日に受けた気分は?」
煽り返す新田。間に立つ鷹戸は黙って目を閉じていた。
「投手も合同練習するんだろ。まあガンバローゼ」
黒鉄が出した右腕を、新田は左腕で返した。
「あ、わりぃ……俺左利きなもんで」
そのまま彼の右手をはじいて去っていく新田。その歩いた先では、古堂と宮城が話していた。
「合宿の日以来じゃねえか」
「だね。レイは最近どう?」
「……そうだな。冬練頑張って体重増やしたんだよ」
「へえ、凄いじゃん」
中学時代、少しの間だけ同級生であったにも関わらず仲良くはなしている2人を見て、新田はため息をはいた。
(やっぱ性格なんだろうな……)
そして始まる合同練習。投手は全員が初巾高校の根古屋監督のもとに集められた。
「初巾の根古屋栄だ。お前らには、フォームを乱さないコツってのを教えていこうと思う。そのあとは、絹田の指導で体幹&下半身の筋力トレーニングだ」
「はい!!」
投手は全員が大声で返事をする。クロ高の新田、伊東、鷹戸、古堂、小豆の5人はもちろんのこと、秋江工業の江戸川や奥田、福富の高月や寺田、初巾の柏木や阿佐間、三浜の柴川、鉄日の黒鉄や宮城、その他多くのピッチャーも同様に練習に参加していた。
「阿佐間さん……せっかく俺らだけしか知らなかったことなのに、ライバル校に易々と教えていいんすかねえ」
「……いいんじゃないのか。相手のレベルも高い方が、より面白い試合ができるだろう」
文句たれる柏木をなだめる阿佐間。
「それに、俺らは白銀世代じゃないから……周りの白銀世代から学べることがあるってのはでかいだろ?」
「はあ……(正直、ナックルボーラーの俺からしたら関係ないんですけどねえ)」
野手もトレーニングに勤しんでいた。
「スイングスピードなんかいいんだよ。タイミングが合えばよ」
こう説明するのは、福富商業の荒牧鉄平。
「……バカかよ。タイミングを合わせやすくするためにスイングスピード上げるんだろうが。振り遅れがなくなるぞ」
クロ高の今宮は引き下がらない。
「HAHAHA、結局はパワーだよパワー!!」
三浜の4番坂東は高笑いしながら素振りを続ける。
「坂東の意見は参考にならねーぞ」
こういうのは秋江工業の大坂。その隣で黙々と、動画を見ながらバットを振る地村。大滝は、その光景を見て軽く感動していた。
(す、すげえ、白銀世代の先輩たちが、こんな形で練習してるだなんて)
特に気になったのは、動画を見ながら素振りをする地村の姿。動画は、『プロ野球選手が投げるボールを、打席に立って見てみた』という題のものだった。
「なるほど、実際に……とまでは行かなくても、活きたボールを見ながらスイングをする――これがあの鉄日の4番を担う地村さんの練習法か」
大滝は早速、自分のカバンから同じように携帯電話を取り出した。
(これを続ければ、俺も地村さんみたいに……)
こうして練習を続けること2日間。合宿最終日がやってきた。
「はぁ……たくさん学べることもあったけど……やっぱクロ高の冬練しんどいな」
「鉄日もなかなかだったろ」
「まあでも……今日で最後だろ……練習試合。ドリームマッチ組むらしいじゃん」
「へえ……楽しそうだな」
合宿がもうすぐ終わるという喜びから、会話も弾む選手たち。
「……んじゃ、レギュラー組とベンチ組に分かれて、それぞれで4チーム作ってトーナメントを行う。今から呼ぶ者をキャプテンとし、その中からドラフトして決めてほしい」
絹田監督から、キャプテンに当たる人物が読み上げられる。
「Aチーム、黒鉄大哉。Bチーム、新田静。Cチーム、高月広嗣。Dチーム、江戸川凛乃介。絶対にポジションごとにドラフトを行うこと。いいな!」
「はい!」
レギュラー組が淡々とチームを決めていく中、ベンチ組はざわついた様子だった。
「コドーがエースになるだって?」
そう、ベンチ組の4チームのうちのDチームのキャプテンが古堂に選ばれたのだ。すぐさまキャッチャーに返田を選び、ドラフトを始めていく。その上で出来上がったチームで対決をすることになるのだが、古堂らはいきなり鷹戸が投げるチームと戦うことになった。
鋭い眼光が古堂を睨みつける。
(面白いじゃん……)
古堂も鷹戸も、同学年同チームに存在するライバルを見て、胸を躍らせた。
試合が始まった。鷹戸の球に、先頭打者の林里はピッチャーゴロで倒れる。
「くっそぉ……」
続く打者2人も三振に倒れた。
「クロ高の鷹戸、あれでリリーフかよ。投手大国だな」
「やべえって……」
古堂の球も、調子よく走り、打者2人を三振に取った後、三人目の鷹戸をセンターフライで倒し切る。
「……最後、ストレートだと思ったのに鷹戸の打球伸びなかったな」
「あれカットボールだよ」
「えっ、まじ?」
こうしてお互い無失点の中で投げ合いが続く中、9回に鷹戸が古堂からヒットを打って出塁した。
「くぅ……鷹戸の野郎……地味にバッティングうまいからなあ」
そして、代打として登場してきたのは、秋江工業の文化祭で出会った一人のヤンキー、万賀翔平だった。
「あっ、翔平じゃねえか! 何でここに!?」
「ずっといるわ……」
苦笑いする万賀。初球を投げる古堂。ストレートがインコースにしっかりと入る。
(いいストレートだな)
万賀は苦笑いから不敵な笑みに変えた。
「……ふぅ」
無言で息を吐く万賀。内野陣や古堂は息を呑む。キャッチャーの返田は低めに外したスローカーブを要求した。
「ぬん!」
古堂がスローカーブを投げる。抜け球のようにゆっくり、それでいてしっかりと変化していくスローカーブは、古堂独特の変化もあり、万賀が打ちに行くも当たらない。
(す、すげえ曲がったな。今のスローカーブ)
続いて古堂が投げたのは、シュート。外に逃げる球だったが、何とか当ててカットする万賀。
続くアウトローへのストレートや、インへのカットボールなども、すべてカットする。
(ほしい球が来るまではずっとこうやり続けるぜ?)
万賀の、鋭くて、それでいて無邪気な笑顔に古堂は凍り付いた。
(す、すげえ……翔平すげえ!)
古堂の中には、万賀に対する畏敬の念と共に、それでも勝ちたいという勝負欲があふれ出してきていた。返田もそれに応え、ど真ん中にスローカーブを要求する。
(コドーのウィニングボール、来い!)
(うおっしゃあ!!)
唯一万賀から空振りを取った球種――古堂のスローカーブが投げられた。緩く弧を描き、万賀の手元までやってきた――そこを彼はたたき上げた。
――快音と共に打球は空高く上がり、スタンドへと入った。
「や、やべえ」
古堂は呆然と背後を見て立ち尽くしていた。万賀翔平の、高校生活初のホームランであった――




