第90話「神宮大会」
東京都、明治神宮球場……各地方大会を優勝した10校が集う。
まずは北海道代表、大牧高校。エース川島宗篤の左腕アンダースローを筆頭に、3番栗山茂樹と4番春沢孝輔などの白銀世代が中心となって北海道大会ではアベレージ8.5得点という驚異的な記録を残している。
「神宮大会かあ……胸が熱くなるぜ……」
エース川島はそう言って球場を見上げた。
「全国のめちゃくちゃ強いやつらがいるんだよなあ」
「ンだべ。まあ……ウチの得点力に勝てるチームが、全国にどれくらいいるか、って話だけどな」
そんな話をする白銀世代三人の元に、背番号18の小柄な男が一人やってきた。
「すみません! 開会式、あっちらしいです!!」
「なぁにやってんだ田中! 急ぐぞ!!」
小柄な少年、田中優馬。一年生で唯一ベンチ入りしている投手だ。そんな彼の言葉に、急いで反対側へと走っていく18人。
続いて東北代表、岩手県の花丸大宮高校。堅守が持ち味で、派手なプレイヤーこそいないものの、その守備の固さには定評がある。エースの渡守の多彩な変化球にも注目が集まっている。
「大牧高校……忙しそうな奴らだあ」
関東代表は、東京都の爽田実業高校。完全なスラッガーチームで、何番からでも得点ができるチーム編成が特徴である。中でも、4番の武永吾郎は、関東大会全打席ホームランの化け物スラッガーである。
「関東に良いピッチャーはいなかった。全国の白銀世代とやら……化け物めいた投手たちがいることを俺はただただ期待したい」
北信越代表は、福井県の鉄日高校。エース黒鉄を中心に、センター四方、セカンド斑鳩、ファースト地村などの一流選手をそろえた上で、リリーフ宮城や木口、泉中などと言った一年生の実力も高いチーム。エース黒鉄を県、地方とほとんど温存しているチームであり、底をまだ見せていないチームとも言える。
「さぁて……神宮大会くらい、ちょっとは楽しんでいこうぜ」
「神宮大会くらいって……全国で戦う相手なんですから、もっと本腰入れて臨まないと」
黒鉄の余裕の発言に、迫田が諭す。
「全国で戦う相手だからこそ……だ。楽しいだろうが」
これにはチームメイトも呆れるしかなかった。
東海代表は、愛知県の名豊高校。実力派スラッガー藤間武士が4番に構える強豪校だ。他の選手はあまりぱっとしないが、エースの鋼隣二の148km/hのストレートには注目が集まっている。
「藤間さん……もう投手の研究は終わりましたか?」
「ん、花丸の渡とやってみたいではあるよな。あとは……最速の松下と、鉄日の黒鉄くらいか」
近畿代表は、大阪府の桐陽高校。注目は何といっても、白銀世代最速投手の松下巧介。157km/hの最速ストレートに、150km/h近い速度で投げてくる高速シンカーが持ち味。また、時より用いるスローボールも彼の技あり投球である。他にも、一年生キャッチャーの村松吉乃とスラッガー塚岸球平も暗黒世代ながら確かな実力を持っている。
「ナイスボール!」
村松が松下の球を受けている。
「サンキューな村松。ほんで、塚岸の調子はどうや?」
「さすがに神宮大会前やし、合わせてきてると思いますよ」
「そうか、それならええんや……」
不安そうな松下に、村松は問う。
「どうしたんすか松下サン」
「いや……近畿にもえげつない高校はたくさんおったが、全国の方がやっぱ緊張するなって思ってな」
松下は渋い顔に似合わず不安そうだった。それを村松は笑った。
「松下サンの球できりきり舞いにしてやりましょう」
中国・四国代表は、高知県の明徳高校。今年の地方、地区大会では、エース茅場が、平均失点0.2であることに加え、白銀世代の4番三好和徳が打点王となっている。
「んー。鉄日は完全復活と言ったところだね。去年の選抜で3番だった地村は四番に、四方は続行して一番打者。斑鳩も入っている。何より、リリーフだった黒鉄がエースになってるってのも……」
茅場清が三好に言った。
「まあいいだろう。うちには『特別育成』した奴らがそろってるんだからよ」
にやりと笑った彼の目に、茅場は目をそらした。
(全く……三好ってば隙が無いよなあ)
九州代表の熊本県の秀英館高校。体育科の特待生制度を設けているこのチームは、常に優秀な選手を迎えている強豪校だ。特待生を中心に作られた一軍は、統制された全寮制、練習もプロがプランしているという完全管理制度だった。しかし、その制度が昨年打ち壊された。何と、一般クラスからの入部者9人が、一軍を完封し、その時の投手が今、エースとなって改革を行っているようだったのだ。
「常に考えろ……ランナー一塁ノーアウトだからって送りバントしなきゃならねえことはねえ。甘い球が来たら鋭いゴロ打てば、運よく抜けることもあるかもしれねえだろ」
ノックを打つ彼こそ、その改革者――住友龍二。彼の持ち味は、その怪物的な球威と、ジャイロボール。鷹戸に近い投手だが、制球力も変化球もバッチリ持っている。
これら10校で行われる神宮大会が、本日開幕した。一日目の試合は、秀英館高校VS爽田実業。そして、花丸大宮高校VS名豊高校であった。
「俺たちは二日目か……。相手は大牧」
黒鉄は組み合わせ表を見ながらぼやいている。
「……シミュレーションちゃんとしないとな」
「準決勝はどっちだろうね」
「どっちが勝ってもおかしくねえよな」
一年生たちも緊張した面持ちだ。そして、一回戦が始まった。
「いっけー! 秀英館っ!」「住友!」「頼むぜ!!」
後攻の秀英館高校の先発は白銀世代の住友龍二。爽田実業の一番バッターを難なく三振に取る。
「っし!」
小さくガッツポーズを取る住友。続く2番バッターも三振に取る。
「さあ、いよいよ本番ってところか。爽田実業のクリーンナップ!」
燃え上がる住友に対し、三番打者が立ち向かう。
「ぬん!」
住友のジャイロボールにバットを当てたが、センターフライに倒れたのだった。
「くっ、完全にホームランにできる球だと思ったのに……」
その回の裏、爽田実業のエースも、ランナーこそ出すものの、4番住友も含めしっかりアウトにし、何とか1回裏を切り抜けた。
「んー、投手戦かなあ」
「いや、投手としての格は、住友の方が圧倒的に上だ。投手戦になれば、間違いなく秀英館に分がある」
黒鉄の言葉に、宮城は納得いかなさそうな顔をしている。それに付け加えるのは、四方。
「まあ、投手戦になれば……だからな」
2回表、爽田実業の攻撃。先頭打者は4番武永だ。
(こいつは関東大会全打席ホームランの化け物だしな。何としてでも抑えないと……ここからが厳しそうだ)
初球のジャイロボール。見逃す武永。
「さすがの球威。球速は150未満ってところか」
二球目のフォークは見逃してボール。そして、三球目、再び投げられたジャイロボール。
(もらった!)
武永がフルスイングでバットを振りぬいた。快音と共に上空遥か高くを飛ぶ打球。センターが後退するよりも早く、誰もが確信した。
(これが……武永のホームランだ……)
この失点をきっかけにうまく調子をつかめなかった秀英館打線は8回まで1得点。住友は3安打に抑えるも、スコアボードに書かれている得点は3。全打席を武永にホームランされてしまった。特に、三打席目の、敬遠球を特大ファウルにする、というプレイには彼を化け物だと認めざるを得なかった。3-1で、爽田実業高校が、秀英館高校を下した。
「住友も良い投手だったが、武永がそれ以上にチート野郎だったな」
黒鉄は左親指の爪を噛みながら悔しそうにつぶやいている。
「(住友さんはおそらく全国でもかなりトップレベルの投手……彼でさえも全打席ホームランにされるなんて)敬遠も考えなくてはいけませんね」
キャッチャーの迫田は悔しそうにつぶやいている。
「3点覚悟で攻めに転じるってのはどうだ? 黒鉄も上位打線におけばもっと得点力は上がるはずだ」
斑鳩が問う。しかし、黒鉄は納得がいかないようすだ。
「何で打たれる前提なんだよ。それに、まずは大牧を何とかしねえといけねえんだろ?」
黒鉄の言葉は、誰の言葉よりも正論で、それ以上誰も何も言わなかった。
花丸大宮VS名豊の結果は、名豊が5-1で花丸大宮を下すというものだった。スラッガー藤間のタイムリースリーベースを起点に、花丸大宮の堅守を下していった形となったのだ。
「……次の試合は明徳か桐陽か。どっちが来てもおかしくないわな」
藤間はそう呟くと、帽子を深くかぶって球場を去った。
二日目、鉄日高校VS大牧高校の試合と、明徳高校VS桐陽高校の試合が行われる。結果は、鉄日高校が3-2の接戦の末勝利。地村洋の逆転タイムリーが決定打となった。また、明徳高校が1-0で勝利した。投手戦を粘り強く攻略した結果となった。
「っとまあ……大牧高校は何とか倒したが、結局地村頼りになっちまったのは申し訳ねえ」
「でも、栗山、春沢がいながら2失点に抑えたのは凄いんじゃねえのか?」
反省する黒鉄に、四方がねぎらいの言葉をかけた。
準決勝は鉄日高校VS爽田実業。名豊高校VS明徳高校となる。
「いけええ! 黒鉄ェ!」
「打ったレエ!! 武永ァ!」
注目は、鉄日高校エースの黒鉄VS爽田実業屈指のスラッガーである武永の対決。
(初球のストレートは見逃された。二球目は縦スライダーで空振りもらうぞ)
(お願いします)
迫田の構えるミットよりも下に変化する縦スライダー。武永は空振りする。
(うっ!?)
武永の空振りにどよめく会場。にやりと笑う黒鉄。三球目の高速シュートはカットしてファウル。そして4球目、全力で投げぬいた黒鉄。うちに来る武永。
(もらった!!)
フルスイングする武永。しかし、ボールはまだ来ない。ノビが全くない球は手元で落ちていき、迫田のミットの中に収まった。
(こいつ……こんな変化球を持っていたのか!!)
黒鉄のサークルチェンジで、武永を三振に切った。
「さあ、さらばだぜ。関東最強スラッガーさんよォ!」




