表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
3.北信越大会
85/402

第85話「自覚」

 クロ高は6番伊奈の同点タイムリーで5-5まで追いつく。しかし、岩澤の闘志はここでは燃え尽きなかった。

「どりゃ!」

続く金条を三振に抑える岩澤。金条はチャンスに続けなかったことが悔しかったのか、バットを地面に強く置いた。

「くっ……」

「しゃあないよ! ほら、どけどけ」

佐々木が笑っている。打席に立つ彼の目は鋭い。

(俺はこのチャンス……逃したくない)

初球のストレートを打ち返す佐々木。低めだがしっかりとライナーをピッチャー返しする。

「おおっ、良い当たり!」

「!!」

岩澤が超反応を見せた。右膝辺りに飛んできたライナーを、左手のグラブでしっかりと止めた。

「ら、ライナー捌きやがった」

二塁ランナーの山口を牽制する岩澤。

「……(あの8番、ストレートしっかり打ち返してきやがるな……)」

2アウトとなる。そして9番鷹戸が打席に立つ。そんな鷹戸はスライダーを強く打ち返す。三遊間方向に飛ぶ打球。しかし……

「ふん!」

岩澤の左手のミットに打球が収まっている。

「……で、出たー! 岩澤の本領発揮! 神が宿ったフィールディング!!」

岩澤の守備に観客が沸く。そのまま彼はファーストへ送球し、鷹戸をアウトにした。

(クロ高の猛攻――あの連打が岩澤の闘志に火をつける形になったか。いいエースの自覚――持ったんじゃねえの?)

武石は嬉しそうに笑って見せた。


3アウトでチェンジとなり、息を大きく吐く岩澤。きっと疲労もあるだろう。しかし、それでも、彼は8回を投げ切った。

「よし……次で最終回だ」

大島が岩澤の背中をぽんと叩く。

「ナイスリードだぜ。おかげで凡打に抑えられた」

岩澤は大島に礼を言う。しかし――

「何言ってんだ。お前の守備がおかしいの」

大島は笑ってそれを受け流した。


 8回裏。清龍高校の攻撃は、5番丸田から始まる。ちなみに彼は、新田からホームランを打ち、鷹戸からもタイムリーツーベースを打ち、3打点を挙げる活躍をしている。

(この男――球は速く重く、ジャイロボールの使い分けもあって球種が読めたもんじゃない)

そう鷹戸を評価する丸田に対し、鷹戸の初球。高めに入るジャイロボール。ノビのある直球を、彼は空振りする。

(ぬぅん……だがしかし……必ず甘い所に入るはず……そこを見逃さなければ)

次に投げられたのはスプリット。ストレートだと思った丸田。しかし、確実に高いところ――甘く入っているので、見逃さない。

(スプリットかよっ!)

しっかりミートこそできなかったが、ストレートに比べるとスプリットはどうしても軽くなる。鋭く二遊間へ飛ぶ。

(さすがのパワーじゃねえか!)

今宮が飛び込む――しかし、ボールは弾かれた。

「一歩届かない!!」

丸田は走りぬいて一塁ベースを駆け抜けた。

「ぬぅん!!」

一塁ベース上でガッツポーズを取った丸田。ヒットである。

「続け続けェ!!」「丹生~!」

6番丹生はセーフティバントを狙う。しかし、ピッチャー鷹戸の打球捌きの前に進塁打に終わる。

「まあいいってことよ! 送りバントは十分じゃねえか!!」

「チャンスだぞチャンスぅ!!」

芳賀山や岩澤は騒いで盛り立てる。


 焦る鷹戸。金条の心の中にも逸りが見える。

(だめだ……このままじゃ……)

そんな金条らに大声をかけたのは新田だった。

「おいおい! こっからだぞコラッ!」

新田の似合わない叫び声に、鷹戸も金条も口をあんぐり開ける。

「ハハッ……さすがエースだ」

「エースにそんだけ言われて……燃え上がらないピッチャーはいねえよ……」

ベンチで、芝と伊東が笑っている。ベンチでは、一人思いつめた顔をしている男が一人。

(……あれが、エース……)

古堂は震える唇をかみしめた。


 試合の展開を言えば、続く7番信楽と8番宇井をフォアボールで出塁させてしまう鷹戸。

(やはり……肩は治ったと言っても……復調には時間がかかるのか?)

悔しそうな顔をしている鷹戸。打席には9番荒濱。倒せないバッターではないが、ここでフォアボールにしてしまえば、1点の勝ち越しとなる。岩澤を乗せてしまっている今、勝ち越し点はできれば与えたくない。

(ここでクロ高が欲しいのは……圧倒的な抑え。鷹戸遥斗でも……十分とはいかなさそうだな。コントロールが乱れてやがる。球威と球速は、暗黒世代にしちゃあ素晴らしいもんだがなあ)


 ベンチの絹田が動いた。

「ピッチャー10番鷹戸に代わって、18番、古堂」

「お、俺!!?」

ブルペンでおどろいて絹田のもとに走ってくる古堂。

「お前のピッチングで……三振を取ってプレッシャーをかけてこい」

「はい!」

大きな声で返事をした古堂はそのままマウンドへ向かい、鷹戸と交代する。

(……納得いかん……俺のストレートは走っている……なのに)

納得いかない表情を見せる鷹戸。強く古堂と監督を睨む。その様子を見かねた金条がマウンドにやってくる。

「鷹戸……お前の今のコントロールじゃあ苦しい展開だ。ここは古堂にしっかり任せよう」

(9番バッターだろ……ここまで一球も打ってないような奴なのに……)

打席に立つ荒濱を見て、鷹戸は不機嫌な顔をする。

(俺に抑えられないわけがないんだ……)

「鷹戸。俺に代われ! お前ばっかり良い所見せてずるいんだよ!!」

古堂が叫んで鷹戸からボールをふんだくる。

「見てろ! 黒光高校18番……古堂黎樹が、一本もヒットを打たせねえからよ!!」



 荒濱の目の前をストレートが走っていく。見逃す荒濱に対し、カウントはストライク。

(くっ……新田さんほど変化球ばっかりじゃ無さそうだし。さっきの鷹戸ってやつほどのストレートでもねえだろ。こいつからなら……打てる!)

二球目……古堂はシュートを投げる。何とか当てる荒濱。しかしファウルとなる。

(さっきより球速は無い……きっと打てる。打てるはずなんだ!!)

内角にストレートを投げる古堂。荒濱は押されながらも打ち返すが、一塁線を切れていく打球。古堂も荒濱も悔しそうな顔をする。

(……ずっと守備固めでスタメン張ってたけど……俺よりももっと打てるやつはチームの中にたくさんいるけど……清龍のスタメン張ってる以上は……打つしかねえ!)

古堂がスローカーブを投げる。三振を取りに行った結果だ。しかし、荒濱はバットを振りそうになったところから堪える。

「ボール!」

(追い込まれてるとは思えねえよ……今の見逃し)

キャッチャーの金条は思わず身震いする。そして、外に逃げるシュートをサインで送る。

「ぐっ!」

大きく振った荒濱。打球は一塁線を飛んでいく。

「伊奈!」

ファーストベースよりも前で守っていた伊奈は、ショートバウンドで打球を捌く。

(くっ! ノーバンで捕りたかったぜ!)

そのまま右足を後ろへ下げ、ファーストベースを踏み、バッター荒濱をアウトにする。

「4つだ!」

周りの指示。伊奈は全体重を左足にかける。

(勝ち越し点は絶対に、やらねえ!!)

右肩からボールを振りぬいた伊奈。キャッチャーの金条の元まで一気に飛んでいく送球。サードランナー丸田がホームへ駆け抜け、滑り込む。

(ぶっ飛ばしてやらあ!)

金条は捕球してタッチへ。しかし、丸田の足が入る方が幾分か早かった。

「セーフッ、セーフ!」

主審の大声がする。清龍高校は、8回裏のこの場面で勝ち越し点を挙げたのだった。

「よっしゃあ!! これは大きな一点だぞ!」

ベンチに返ってきた丸田を岩澤が祝福する。そして、バッターだった荒濱の頭をヘルメットの上からたたく芳賀山。

「やったじゃねえか荒濱!!」

荒濱は浮かない顔をしていたが、にっこり笑う芳賀山。

「お前が転がしたから、あの一点があるんだぜ。もっと胸を張れよ」

「……は、はい!」

彼に励まされ、荒濱の顔も明るくなる。


 対するクロ高も、ここで沈むようなやわなチームではなかった。

「いいかコドー、一点取られたわけだが、ヒットを打たれたわけじゃねえ。お前のピッチングは、清龍にも通用するぞ」

今宮が必死で古堂に声をかける。

「伊奈も金条も良いプレイだったけどなあ。惜しかったなあ」

田中も一年生二人を励ます。

「残りの打球は全部捌くから、安心して投げろ」

大滝も古堂を鼓舞する。

「……わかってる。でも、もうバックに打球は飛ばさない。それが――抑えの使命なんだよ」

それ以上に、古堂は自分自身を自分自身によって鼓舞していたのだった。


(さすがだぜ古堂……この場面でも、気持ちを切らさねえなんてな)

(これまでの練習や試合での経験が……間違いなく自信につながっているんだ)

内野の二人の二年生は、古堂の様子を見て感心していたのだった。


 バッターは一番に戻り、打席に立つのは久我山翔。

「いけー久我山! チャンスだぜ!!」

「うおっしゃああ!!」

意気込む久我山。しかし、135km/hを安定して越えてくる古堂のピッチングに、久我山は一度もバットを当てられず、三振となった。続くキャッチャーの大島も、インローをギリギリついてくるスローカーブに手が出ず、見逃し三振となった。

(さあ、こっからだぜ)


8回裏が終了し、いよいよ最終回となる。先頭打者は一番の今宮からだ――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ