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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
3.北信越大会
82/402

第82話「有力な投手」

『もしもし? あら、ハヅどうしたの? 試合はどうだった?』

「……負けた」

電話をしているのは、法寺親子。法寺覇月は、試合から二日経った今日のこの朝にやっと気持ちの整理をつけ、母親に連絡した次第だ。

『そう……』

息子の力ない言葉にも、母親の声色は変わらない。

『でも、ハヅが頑張ってたってこと、新聞読んだらすごくわかったよ。看護師さんがね、ハヅが写ってる! って言って慌てて持ってきたのよ。小さな写真だったけど』

「……うん。ありがとう」

『……また夏があるじゃない。きっと甲子園出られるわ。負けたことしっかり糧にしなさいよ』

「頑張るよ……」

電話を切った法寺の背後に、一人の男が立っている。

「……法寺覇月くん、かな?」

「え、あ……はい」

突然話しかけられ困惑する法寺。何せ周りにはチームメイトすらいない。

「私はこういうものだ」

そういって名刺を差し出す男。受け取る法寺。

武石啓たけいし はじめ?」

読み上げる法寺。

「そう。よく読めたね。私は武石啓。来春の日米の高校生の親善試合の監督を務めることになるかもしれない男さ」

「日米親善試合……」

「やっぱさ……去年は黄金世代が大活躍だったおかげで何とかアメリカに勝てたわけよ。やっぱ今年も勝ちたいじゃん? となると、君の力がどうしても必要なわけ」

「名刺、いただいておきます」

法寺が頭を下げると、武石も頭を下げ去っていった。

(本当は……ピッチャー探しに来たんだけどな)

そう思案しながらグラウンドへと入っていく武石。北信越大会二回戦が始まろうとしていた。


 オーダー

 先攻 黒光高校

1番セカンド、今宮陽兵 2番ライト、小林翔馬 3番ショート、田中遊 4番サード 大滝真司 5番センター、山口寿 6番ファースト、伊奈聖也 7番キャッチャー、金条春利 8番レフト、佐々木隆 9番ピッチャー、新田静

 後攻、清龍高校

1番セカンド、久我山翔 2番キャッチャー、大島駿一郎 3番ピッチャー、岩澤亜音 4番ショート、芳賀山仙 5番ファースト、丸田亮二 6番ライト、丹生祐司 7番サード、信楽誠司 8番レフト、宇井新弥 9番センター、荒濱幸也


 この試合の注目選手は、やはりそれぞれのチームのピッチャーだった。

「まずは清龍高校先発の岩澤。145km/hのストレートに加え、5種類の変化球。さらにはコントロールも良い。それに、特筆すべきは一人の内野手並みに動けるところ。フィールディングのうまさにある」

武石が独り言をつぶやきながらメモを見ていた。

「……岩澤を打ち崩せないようだと、クロ高は厳しい展開になるぞ」

武石の言葉がある中での初回――先頭打者である今宮がレフト前ヒットで出塁するも、続く二番小林。バントの構えをする。

(バントッ!)

大島が右手の小指と薬指をキャッチャーミットの下から立ててサインを送る。岩澤はそれと同時に走り出し、サードの信楽も走り出す。

(バントシフトが早いッ!)

今宮はその予想以上の守備の移動に驚きつつも、リードから走り出す。

(ふっ!)

岩澤の高速バント処理。ショート芳賀山は既にベースの上。二塁へ送球する岩澤。投手の肩から放たれたボールよりも早くは到達できなかった今宮の足。

「一個!」

ファースト丸田が叫ぶ。芳賀山の素早いボールの持ち替えから放たれた送球は、小林の走塁よりも早く一塁べースへ到達した。

「よし……」

丸田が渋い声でうなずいた。併殺である。

「今宮出塁からの2アウトランナー無し……」

「厳しいんじゃないの? 滑り出し」

田中と山口は冷静に状況を判断した上で戦慄する。この後の田中の打席も、レフトフライに倒れ、一回表無得点で終えてしまった。


 一回裏、クロ高も新田の好投により、無失点で終える。しかし次の回の表も、山口がヒットを打った他は、岩澤の前に凡退に倒れていた。しかし、二回の裏でも、芳賀山のヒットとエラーでピンチとなるが、新田が最後までピッチングを怠らず無失点に抑えぬく。


「やば、かっこいいな……」

武石は、試合に出ている新田について高評価のようだ。

「変化球のキレ、緩急、そして緻密で精密で寸分の狂いすらないピッチング……北信越地方は、投手が豊富だ」


 三回の表、裏も、両チームの投手が良いピッチングを見せ、お互いにスコアボードに0をつけあった。

「くぅー……あの新田といかいうピッチャーかなり厄介だねえ」

9番打者の荒濱が厳しい表情で言った。

「少なくとも、お前が簡単に打てるピッチャーじゃねえよ」

と、一番バッターの久我山がへらへらしながら言った。

「んー、でも、何とかしてもらわないと困るよ。ね?」

大島が細い眼を薄く開いて岩澤を見た。

「……そ、そうだな」

岩澤の表情は硬くなっていた。

「まあいいじゃねえか。亜音の仕事は、投げることだ。別に打てなくたって俺らが打てばいいだけの話」

芳賀山が強い口調で言った。

「バックは守ってやるから、安心して投げろよ。点取られても、打ち返すぜ」

「さすがだな、芳賀山」

清龍ナインは、そう言ってグラウンドへ向かった。

「や、やっぱ仙さんカッコいい……」

恍惚とした表情を見せる平塚を見て、巽屋監督は苦い顔を見せた。

「平塚……マネージャーとはいえども、記録員としてそこに立っている以上は、選手という自覚を持て。うかうかするな」

平塚は巽屋の言葉を聞いて、俯きこそするが、内心ではにやにやが止まらない。

(やっぱどう考えても、監督は仙さんに厳しい部分があるよね……)


 打席に立つのは、二番打者である小林翔馬。岩澤のピッチングの前に手も足も出ない。三振に倒れる。次に打席に立ったのは、田中遊だ。

(さっきはうまくチャンスが作れそうだった所を岩澤に阻まれてる。ボール自体は特別重い訳じゃないし、タイミングとポイントさえ合わせられれば外野には飛ばせる)

そう意気込む田中にも、岩澤の容赦ない変化球が襲い掛かってくる。2ストライクまで追い込まれたところで、田中は深呼吸した。

(新田の変化球に比べりゃだいぶマシだわ。コントロールいいとはいえ、エリアの隅に投げ分けるほどの化けモンでもねえし)

田中4球目のカーブを、うまくタイミングを合わせて打ち返した。

「ライト!」

大島の指示が飛ぶ。ライト丹生は、走って打球を追うが、前に落ちる。

「うむ……」

険しい顔をする巽屋監督。3番打者、田中遊が出塁した。

(監督が険しい顔するのも頷ける。なんてったって、田中さんは元1番打者。盗塁も走塁も、勘も良い。そして次の大滝真司くんは、ランナーがいる状況だと非常に厄介なチャンスに強いパワーヒッター……)

そして、大滝は、岩澤の投げた高めのストレートを打ち返す。低い弾道の打球が左中間に飛ぶのを見て、田中は有無を言わずに走り出した。落ちる打球。大滝も一塁ベースを蹴るころ、田中は既に三塁ベースに到達している。

「GO!」

三塁ランナーコーチの言葉に、田中は走り出す。センター荒濱のバックホームよりもずっと早く帰ってきた田中。大滝も二塁ベースに到達した。

「4番大滝のタイムリーツーベースじゃねえか……」

ざわつく観客。清龍高校相手に先制点を取ったのは、クロ高ナインにとって、心の余裕が大きいモノとなった。しかし、続く山口が浅めのセンターフライに倒れると、次の打者である伊奈も良い当たりを出すが、守備のうまい岩澤に捌かれて4回表が終わった。


 ベンチに険しい顔をしながら戻る岩澤。

(巽屋ゼッテェ怒ってるわ……)

萎える岩澤。そんな彼に声をかけるのは、芳賀山だ。

「……次、お前からだ」

「ああ、そうだな……」

気を取り直して、ヘルメットを被る。そんな岩澤の背中に、芳賀山が言った。

「取り返してやるから。お前はまた次の回から投げぬいてくれよな」

その言葉に岩澤は笑みを一つだけ浮かべて打席へ向かった。


 マウンドには新田。初球からスライダーを厳しく投げてくる。

(ド内角じゃねえか……)

絶句する岩澤。キャッチャーの金条は、してやったと言った表情だ。次のシュートは外いっぱいに決まる。

(こ……これはだるい)

新田はさわやかな顔をしながらまたしても厳しいところに投げてくる。何とかカットすることが精一杯な岩澤。

(俺は……お前に投げ勝ちたいけど、打っても勝ちたいんだよ!)

4球目の外角に来たカーブを岩澤は流して打ち返す。

(流し打ち!?)

ライト小林の立つ位置の左側に打球は落ちる。ライト前ヒットで出塁する岩澤。


「かぁ……天才かよ」

打席に向かいながら芳賀山はぼやいた。バッテリーの顔がさらに引き締まる。

「おうおう……怖い顔すんなよイケメン」

左打席に構える芳賀山。そして――新田は初球を投げた。

(な、ナックル!?)

見逃すも、ストライクゾーンに入っている球。金条はボールをはじくも、ボディーを入れて前に落とす。

(あぶねえ……)

金条はまばたきを三回して新田を見る。新田も頷いて答える。


(金条もキャッチングしっかり成長させてるんだなあ……俺も、頑張らねえと)

ブルペンで肩を温めるのは古堂と鷹戸。返田がキャッチャー道具を揃えながら待っている。

「返田も……俺の球を良く捕れるようになってきている……あとは俺がしっかりコントロール良く投げれるようになれば……」

鷹戸がいつになく声を出している。もっとも小さい声ではあるが、古堂の目の前でこのように話したことがなかったのが新鮮に感じた理由だ。

「肩ケガしてからどうなんだ?」

「投げられる……」

古堂の問いには少々ぶっきらぼうに答える鷹戸。おととい、新田が慣れない完投をおこなったせいでもあるのかもしれない。鷹戸も古堂も、今日は自分が投げうることの想定は、おとといの試合が終了した時点でおこなっていた。


 2球目は、外に外れてボールを出した新田。続く三球目、外角低めにツーシームを要求する金条。投げる新田。打ち返そうとバットを振る芳賀山。しかし、鈍い当たりとなり、三塁線を切れていく。

(お、追い込んだ……)

金条は思わず息を呑む。

(ここは……決め球のカーブを……)

そしてその要求にうなずく新田。4球目のカーブ。しかし、芳賀山は何とかカットする。

(もっと前のポイントでとらえたいのに……キレすぎてどうしても合わせに行ってしまう……これではだめだ)

芳賀山は息を整え直す。ここで金条が投げさせたのは内角高めへのストレート。

(ぶち当たれば間違いなく長打。でも、今の芳賀山さんはポイントが後ろ。きっと振り遅れるッ!)

新田の投げたストレート。振り遅れるかと思われた芳賀山。しかし――

(ストレートなら、合わせるまでもねえよ!!)

バットを強く振りぬいた結果、打球は高い弾道に伴ってスタンドまで伸びていった。

「……こりゃ入ったな」

武石が見上げた。スタンドに入ったボール。2点が入る清龍高校。

「先制点入れた回に逆転された……か」

「先制点入れた甲斐なし……ってか」


 新田は額の汗を拭いている。

(さあ……切り替えないとな……俺が打たれるのは、みんなも想定済み……だよな?)

前を見る新田。金条の顔が張り詰めていた――新田の視線に気づき、はっとして我に返る金条。

「大丈夫です! 次の丸田さんが先頭打者だと思って!」

(大丈夫……だよな?)

軽く笑って見せた新田。続く5番打者、丸田亮二と対峙する。

「さっきみたいな甘い球なら、簡単に俺はスタンドに放り込んでやれるぜ」

自信満々の丸田。そんな中で、新田が初球を――投げた。      

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