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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
3.北信越大会
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81/408

第81話「二回戦」

 北信越大会一日目、Aブロックでは、黒光高校VS諏訪涼成高校との試合が行われ、黒光高校が勝利。同日、Dブロックでは長野県2位の苅澤高校と、新潟県2位の功越高校が対戦した結果、苅澤高校が8-2の大差で勝利した。そんな熱戦の翌日の早朝――

「なっ……何ぃ!!?」

驚く様子の古堂。新聞を読んでいる。もはやその様子に驚いている金条が慌てて駆け寄る。

「なんで新聞なんか読んでるんだ!?」

金条の慌て顔に、古堂はスポーツ欄の記事を見せつけた。

「見ろよこれ! 新田さんが一面飾ってる!!」

金条の目に映るのは、新田の姿――最終回のラストイニングで、相手のラストバッター、藤正彦を三振に倒した瞬間だった。見出しには大きく、『黒光高校(福井)エース新田、完投勝利!』と書かれており、写真に写る新田の鬼気迫る表情が良く窺えた。

「……長野代表、諏訪涼成、惜敗――か」

金条も記事の内容を一字一句じっくり読んでいる。

(清龍高校……と勝負か)

清龍高校との試合は、中一日開けた明日――今日は調整を兼ねた軽い練習を行う。そして今日は、鉄日高校が試合に出る日だ。

「鉄日はどうせ勝つだろうし、俺たちは清龍との試合に集中しねえとな」

古堂がそう言って金条に笑いかける。

「そうだな……」

金条も眼鏡をかけなおしてうなずく。時計は6時を指しており、チームミーティングの時間だ、と金条が古堂の肩を叩いて準備を急がせた。


 明日の対戦校となる石川県一位の清龍高校は、規模の大きな私立高校だ。エース岩澤亜音いわさわ つぐねを筆頭に、ショートの芳賀山仙はがやま せん、キャッチャーの大島駿一郎おおしま しゅんいちろう、ファーストの丸田亮二まるた りょうじなどの白銀世代が中心選手となっている。

「エース岩澤の変化球は5種類。スライダー、カーブ、フォーク、シンカー、シュート。球種の多さでは新田にも劣らない」

チームミーティングでは、絹田監督が自ら清龍高校の選手の説明を行う。

「まあボロを見せない本格派――おまけに野手能力も十分。軽い打球は簡単にさばかれるぞ」

「そういえば……明峰の荒木も言ってましたねそんなこと……」

今宮が付け加える。

「ピッチャー返しのセンター前かと思いきや……ピッチャーライナー。送りバントをしようものなら超高速チャージでゲッツー。ベースカバーもうまいらしい」

今宮の言葉に絶句する古堂。

(や、野手能力が高いだなんて羨ましいな)

「おまけにバッティングも堅打が持ち味の3番打者。無欠だな」

「投げれて打てて守れる。強いな……」


「シュートの芳賀山は打てる、走れる、守れる――だな」

「一番の要警戒選手だろ」

今宮の言葉に、全員がうなずく。

「具体的にどう守る?」

絹田監督が問いかける口調で全員に言った。それに答えるのは、キャッチャーの金条だ。

「……敬遠覚悟。そのためには、一番の久我山翔くがやま しょうを出塁させない。二番の大島はミート力こそあるがパワーはないし怖くはない。3番の岩澤を……新田さんには全力で抑えてもらえるよう、配球考えておきます」

彼の力強い言葉に、絹田も頷く。新田もしっかりと金条の目を見てうなずいた。

「昨日の良いイメージのまま、明日頑張りたいと思います」

「しっかり今日は休めよ……また投げぬいてもらわねえと困るからよ」

新田の言葉に、今宮が笑って合わせる。新田のエースの自覚が芽生え始めていたことに関しては、今宮もしっかり気づいていたようだった。

「俺たちもいるので!」

今宮の耳元で古堂が叫んだのを、今宮は反射的に仰け反り、そこから勢いをつけて古堂にけりを入れる。

「鼓膜破れるんだよ!」

今宮の怒りはごもっともなもので、ミーティング中のみんなの顔にも笑みがこぼれる。

(この雰囲気なら……きっと二回戦勝てるよな)

金条も、新田の確かな決意を感じ取っているのだった。


 本日の試合は二戦。富山県二位の、布川工業高校VS新潟県一位の、新見台高校。そして、もう一つの試合は、福井県一位の、鉄日高校VS石川県二位の、大松高校。勝ち上がった時のために、とそれぞれの試合を録画していた小泉。


 そして、試合が終了したとき、小泉は絶句するのだった。

「10-0……5回コールドかぁ……」

鉄日高校VS大松高校の試合のことだった。初回の地村のスリーランホームランを引き金に、すべての回で得点を重ね続けた鉄日高校。投げては一年生右腕、宮城臨が無失点、被安打3、フォアボール1、4奪三振という好成績を収めていた。


 もう一つの試合、新見台高校が3-1で布川工業高校を破り、三回戦進出を決めていた。

(新見台のエース、御子柴壱照みこしば いちてるさんが凄く良い投手……。打者もバランスよく点が取れるチームだし、もし三回戦で当たったらしっかりと対策練らないと……)

思案しながら球場を後にしようとしていた小泉に、声をかける一人の声。

「あっ、黒光高校の方ですか!?」

「えっ、あぁ……はい」

響き渡る高い声に、小泉も困惑する。目の前に立っているのは、まぶしいくらいにキラキラした笑顔を見せる小柄な女の子。

「わー。クロ高ってグラコンおしゃれでいいですね! うちの見てくださいよぉ……中学生のジャージみたいな濃い青色……ホント萎えちゃいます」

彼女はそうしゃべりながらくるくる回って、自分が来ているグラコンを見せびらかす。その背中には、『清龍高校』と白い刺繍が施されていた。

「せ、清龍高校……」

小泉は息を呑む。今自分の目の前に立っているのは、明日対戦する高校のマネージャーなのだ。

「あ、すみません、ひとりでしゃべりすぎちゃって……」

次から次へと動き続ける舌を反省した彼女は、ぺこりと頭を下げた。

「私は平塚真尋ひらつか まひろって言います。清龍高校野球部マネージャーをさせてもらってます!」

朗らかでかわいい子だ――というのが小泉の印象。そして敬語を欠かさないことから見ても、自分と同じ一年生なのだろう。しかし同時に、こんなところで何をやっているのか、と言った印象も抱く。

「……それにしても……クロ高さんもワルイですよねぇ……」

小泉を横目に、平塚は含みのある笑みを浮かべた。

「……明日に試合を控えているのに、もう次の対戦相手の研究してるだなんて……」

「えっ、これは別に……」

弁明しようとする小泉の慌てる様子を見て、平塚は声を小さく出して笑った。

「ふふふ……」

「なっ……何がおかしいんですか!?」

小泉はさらに慌てる。

「いや、クロ高のマネージャーさんかわいいですね。お名前を聞いても?」

平塚にそういわれ、困惑しながらも自己紹介を始める小泉。

「小泉彩です……黒光高校野球部一年マネージャーです……」

「あっ、じゃあ同い年なんだ!!」

小泉の紹介を受け、嬉しそうな笑みを浮かべる平塚。本当によく笑う。

「あは! 同級生のマネージャーにあえてよかったぁ! さっきの言葉は気にしないで。勝った次の試合がどことなのか、を調べたいのはうちも同じだから」

平塚は小泉に近づいて顔を寄せる。

清龍うちのナイン……誰にも負けませんから」

その笑顔の裏が読み取りたくなるほど不敵な笑みにも思えた小泉。思わず震える。

(近頃の若い子って怖いなあ……)



 清龍高校は、内野ノックに勤しんでいた。

「ほらぁ! クロ高はもっと厳しいとこ打ってくるぞぉ!」

清龍高校の監督の怒号が響く。

「ほらショートォ!」

「……」

平然と打球を捌くのはショート芳賀山。

「芳賀山ぁ! スカしてんじゃねえ!」

もう一つ打球が飛んでくる。ショートの頭上を越えるライナーかと思われたが――

「っ! と」

芳賀山のしなやかな足のバネによってジャンプしたことにより、しっかりとグローブに収まっていた。

「さすが芳賀山さん……」

「まじですげえや」

控えの一年生たちがこそこそと会話している中、キャッチャーの大島駿一郎が叫んだ。

「ほら! ほかの内野もっと声張って! 打球を呼べ!」

「うおし!」

それにこたえるのは、ピッチャーの岩澤亜音。無論、この高校のエースである。

「ほらっ、ピッチャーライナー!」

監督が打ったボールは、まっすぐ岩澤の方へ飛んでいく。

「ふんっ!」

ピッチャーミットでボールを迎え入れるかのように左腕を構えた。そこにすっぽり入る打球。

「次バントォ!」

監督が構える瞬間に走り出すサード、ファースト、そしてピッチャー。一番早く到達したのは投手の岩澤。

「ファースト!」

引き返していく丸山がそのまま叫ぶ。岩澤の投げたボールをしっかり受け取る丸山。

「そうだ! その連携だ!」

清龍高校の監督――巽屋十八たつみや じゅうはちの大きな声。今年で何と75歳。60のときに体育教師を定年退職して以来、ずっと清龍高校野球部の外部顧問として携わっている。

(内野は打線、守備ともに全国トップレベル。あとは下位打線と外野守備さえ何とかすれば……センバツ制覇も夢じゃない。ワシのずっと抱えていた夢――母校を全国一にすることが……ようやく)

そして、就任すること15年間――巽屋監督の元、清龍ナインは、夏の甲子園出場13回、春の甲子園出場10回という好成績を残しているほか、昨年の選抜はベスト8。今年の夏の甲子園ではベスト16という成績を残しているのだ。

「よっしゃあがれ……」

監督の声に全員が大きな返事をする。するとそこに、マネージャーの平塚真尋が戻ってきた。

「二回戦の結果、出ました。新見台が布工フコウに、鉄日が大松に――勝ちました」

「ん……やはり予想通りか……」

平塚の報告に、巽屋監督はゆっくりうなずく。そして途端に苦虫をかみつぶしたような顔に変る。

「新見台の御子柴は厄介だが、それよりもクロ高の新田の方が相手にしたくは無いわな……」

「……でも、普段から岩澤の球種の多いピッチングで打ってる俺たちからしたら……」

芳賀山が言い返そうとしたところを、平塚は答える。

「仙さん! 新田静さんの強さは球種だけじゃないです。機械のようなコントロールと、その変化球のキレ味です!!」

「……そうか、わりぃマヒロ」

芳賀山が後頭部を掻くのを見て、平塚は照れたような顔を見せた。

「(ナチュラルに呼び捨てするなぁ……怖いなあ)ま、明日になったらどうせわかること。勝つのは俺たちだよ」

キャプテンで、キャッチャーである大島駿一郎が最後にまとめたのだった。



 そして次の日――。北信越大会2回戦Aブロックの試合。

 福井県代表2位、黒光高校VS石川県代表2位、清龍高校の試合が始まろうとしていた。


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