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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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70/408

第70話「北信越へ」

 ――今宮打ったぁ! あぁっと! 前進守備の斑鳩ナイスプレイ! セカンドゴロに倒れます。

(はっ……)

秋の県大会が終わった次の日の朝――キャプテンである今宮陽兵は目覚めた。小鳥のさえずりが窓から聞こえてくる。わずかに暗い午前5時。

「……胸糞わりぃ目覚めだぜ」

今宮は二段ベッドの自分の寝ていた下の段から起き上がり、上を見る。

(やっぱコドーは起きてるか……)

今宮もバットを持って、ゆっくり部屋を出る。

(俺が切り替えるって言ったんだもんな。練習早く行こう)


 グラウンドは、まだ浅黒い空をしており、東だけが白く染まっていた。

「おはようございます今宮先輩!」

一年の佐々木隆、林里勇の二人が練習をしていた。佐々木はスタメン、林里もベンチ入りメンバーだったが、決勝戦ではまるで活躍できなかった。悔しさも一入だろう。

「……おう、あれ? コドー見てねえの?」

「古堂は……確かに……。さっき新田さんと伊奈が部屋から出るのは見たんですけど……」

「屋内ブルペンじゃないですかね?」

「ああ、サンキュー」

今宮は林里に言われ、屋内ブルペンに向かう。しかし、そこには古堂はおろか、新田も金条もいない。

(どこ行きやがったんだ。まあ今日はフリーだからいいけどよ……)




 古堂は、早朝のコンビニまで足を運んでいた。新聞を読んでいる。

(……クソッ)

記事は、地村がホームランを打った瞬間の写真が飾られた写真が載っている。

(俺の投球は……まだまだ未熟だ……)

新聞を握る手に力が入り、しわができた。




 新田は外をランニングしていた。同行しているのは鷹戸。

「……鷹戸、珍しいじゃん」

「……病院行ったら10日も投げるの止められました。復調に時間もかかりそうですし、スタミナだけでも落ちないようにしないとと思って」

「……休むことも大事だぞ……」

新田は呆れている。地村の打球を受け、右肩に規模こそ小さいものの、外傷を負った鷹戸に対し、『お前が登板しなくても大丈夫だ』と言い切るだけの自信が、ただただほしかった。

(完投できないのに……エースナンバー背負ってどうすんだ。打たれて調子崩してるやつが……なんでエースなんか名乗っているんだ……)

頭の中をめぐる思いが、自然と新田の足を速くさせていた。





 今日は月曜日。普通に学校に通うクロ高野球部の面々。近々テストがあるやらで、時間割の変更についての連絡を、適当に聞き流す古堂。

(三週間後に北信越大会。俺は……それまでに強くなれるのか?)

同じクラスの大滝も、なぜか古堂と同じように連絡を聞かずに試合のことばかり考えていた。

(パワーは磨いたはず。それでも黒鉄さんの球は打てなかった。俺に足りないのは……やっぱり技術だよな……)


 その日の休み時間、やっぱり集まって会話をしていた古堂ら野球部。しかし、いつもと違うのは、伊奈が金条と共にどこかへ行ってしまっていることだった。

「伊奈のやつ、最近おかしいんだよ。どうしたのかな」

林里の言葉に、大滝も古堂も耳を傾けてこそいるが、自分のことに必死で少しも会話しようとしない。


 三人がずっと黙っている間、そこに小泉が現れた。

「ねえ……。みんな、話があるんだけど……」

「ん?」

普段学校で話しかけられたことのあまりない古堂が真っ先に耳を貸す。林里は苦笑いしながら話題を聞く。

「話って?」

「いや……。実は……みんな試合でほとんど勉強できてないから、勉強会開こうかなって思ってたんだ」

勉強の話題が出たとたん、顔を歪ませる古堂と林里。

「……小泉さん」

大滝は、椅子の向きを、立っている小泉に向けなおし、改まった様子で言った。

「……こちらこそよろしくお願いします」

「お、俺も!!」

「俺もだぜ!」

古堂と林里もすぐさま同意した。




「あっ! 伊奈くん! 試合見てたよ! すごかったね!!」

「……あ、ああ」

「伊奈くん点入れたんでしょ? すごくない?」

「めっちゃ打ってたし」

「……ああ……サンキュ」

廊下を歩く伊奈と金条。同級生の女子――主に吹奏楽部やチア部、テレビ中継を見ていた者たちから伊奈への声が多かった。しかし、伊奈当人はどこか浮かない顔をしており、金条は引っかかっていた。

「どうした。お前、モテたがってたのに」

「……いや、なんつーか。勝ってもないのに褒められても気分悪いからさ……」

「……そうだな……」

伊奈の胸中を察したのか、金条はこれ以上何にも言わなかった。小豆を迎えに行くと、すぐさま室内練習場へ向かった。



「ごめん、わざわざ付き合ってもらっちゃって」

小豆は申し訳なさそうにピッチャーミットの中にボールを入れる。

「んで、見てほしいモノってなんだよ」

伊奈がバットを構えながら小豆を見る。

「昼休み時間あんまりないから急ごうか」

金条は軽くプロテクターだけつけてホームに座る。

「んじゃ行きます! フォーク!」

小豆の手から投げられたフォーク。伊奈はそれをゆっくりと見逃す。

「ストライク! だな」

金条は笑った。驚く伊奈。

「え? 今の入ってるの?」

「ああ。サイドスローだから……うまく落ちはしないかもしれないけど、しっかり低めでもストライクゾーンに入れることができれば……ストレートと緩急混ぜて十分武器にできる」金条の言葉に、小豆は嬉しそうに笑った。

「ほう……」

「空也……お前スライダーとカーブも持ってたろ。そんないっぱい変化球もって肘大丈夫なのか?」

「……でもさ……俺には鷹戸みたいな速球は投げられないし……。どちらかと言ったら新田さんみたいな変化球を扱いこなしたいんだ。北信越は……まだ無理かもしれないけど、全国、来年……まだまだチャンスはあるはずだから!」

「……空也」

伊奈は笑った。そして、この時に確信した。もう、へこんでいる場合ではないと。そして、この直後知る……野球のことばかり考えている場合ではないと……。



「なっ! 勉強会だと!?」

教室に戻ってきた伊奈は絶句する。

「……誰だそんなナンセンスなこと考えたのは……。行きたくねえ……」

「小泉ちゃん」

「前言撤回。行く」

(単純だな)

林里の言葉に手のひらを返した伊奈。金条は呆れる。

「それなら俺も行くわ。教える側小泉ちゃん一人じゃ大変だろうし」

「……確かに金条いたほうが良いかもな」

大滝もうなずく。古堂、伊奈、林里の三馬鹿はげんなりした表情を見せるのだった。





 久々のオフである平日の放課後。ミーティングも一切無く、『予定の空いた放課後』を送るのはおそらく一か月かそこらぶりぐらいだろう。そして、このまま明日からテスト前の部活動禁止期間、いわゆる部禁になる。

「大丈夫なんかねえ……あと三週間で北信越始まっちゃうのにテストなんかしてて」

「どこの高校もやってるわ。その分自主練習欠かさなきゃ良いんだよ」

古堂が机に顎をくっつけて悪態をつくので金条はノートで肩を叩く。

「あんまりやる気が無いようだと俺とのマンツーマンになるぞ……」

すぐさま姿勢を直す古堂。ここまで単純だと掌の上で転がしやすい。


 この野球部の勉強会参加者は、古堂、大滝、金条、伊奈、林里、佐々木、小豆、鷹戸。そしてマネージャーの小泉である。

「……随分誘ったね金条」

伊奈に誘われて参加した小豆はメンバーを見て苦笑いする。

「ああ。佐々木も勉強したがってたし、鷹戸は暇そうだったから誘った」


「んじゃ、始めますか!」

小泉が夏服のシャツの襟を直しながら声色高く言った。

「まずは数学から行こう。問題集の――」

小泉の口元を見ている古堂の肩を小突く林里。

「……小泉ちゃん勉強もできるとか。マジ完璧だと思わないコドー?」

「……わかる」

「伊奈もそう思うよな?」

伊奈に話を振る林里。伊奈はうなずくが、次の瞬間、とんでもないことを言い始めた。

「小泉ちゃん! 大滝がロクに聞いてねえからマンツーマンで教えてやってよ。俺ら金条と空也に見てもらうし」

「え? 俺ちゃんと聞いて――」

何かを言おうとした大滝の口を塞ぐ伊奈。大滝の耳元で囁く。

「……お前はそこそこできるんだから金条に教えてもらう必要ないだろ? 逆に俺たちがひどすぎるから……」

「ああ……(小泉さんにバカがばれたくないのか……)」

伊奈の意図しない形で納得した大滝。小泉は「わかったよ」と笑ってうなずく。


(マジ俺グッジョブ……)

誇らしげに笑う伊奈の顔を鷹戸以上の鋭い眼で睨んでいる者が二人……。林里と古堂である。

「イナ……マジ許セナイ」

「ソレナ……」

(うるさい……)

鷹戸は頬杖をしながら黙々と問題集を解き、悪態をついている。そんな三馬鹿たちの話をさえぎって金条が話を始める。

「……んじゃ、始めるぞ(いくらなんでも不自然すぎるだろ伊奈……。小泉ちゃんの顔真っ赤だぞ……)」



 テストという壁が立ち塞がるが、春の全国選抜大会への切符をつかむためには、チーム全体での改善が必要になっていた。そんな中、絹田監督の元を訪れる部員が一人。二年の1番バッターでショートの田中遊である。

「監督……お話しがあります」

「……なんだ」

その場で立ち止まって話を聞く絹田。太い腕を組み、明らかに威圧感のあるオーラを放っている。田中は、少々俯き、震える声で恐る恐る言った。

「……一番バッターの座を……降りたいです」

「!?」


 北信越大会まで、残り3週間だ。

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