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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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62/408

第62話「器用な男」

 5回表――先頭打者は白銀世代の二塁手斑鳩瞬。

(巧打とは言えないが、俊足とその軽やかさで十分に戦力の一角を担っている男。ランナーいない場面だし、盗塁とかで揺さぶりをかけてきてもおかしくはない)

初球スライダー、ボール球を打つ斑鳩。三遊間へと転がっていく打球。深めに守っていた田中が走って打球を拾う。その間にも斑鳩は猛スピードで一塁ベースへ駆け抜けていく。

(は、速い!)

田中が一塁ベースを見て驚愕――送球よりも早く、斑鳩は一塁ベースに到着した。


 「あ……は、はや……」

観客が唖然する。

「……斑鳩瞬――気分屋でパフォーマンスに波こそあるが、調子が良ければ間違いなく、県内最速だ」

乾監督がニヤリと笑った。斑鳩の内野安打に、会場全体がどよめく。

「……猿渡より速いんじゃね?」

大坂は苦笑いした。

「……だな」

江戸川の言葉にも、少し曇りが見られた。



 7番島田の犠打により、二塁へと楽々進塁する斑鳩。マウンドの新田は、平然とした様子で次の打者を見据える。

「8番、キャッチャー……迫田くん」

ウグイス嬢の声とともに打席でバットを構える迫田。バッティングこそ人並みだが、そのリード力は本物――――新田の前に三振に倒れる。2アウトだ。

(シゲ……打ってくれなきゃ困るって……)

二塁ベースから斑鳩が不満そうな顔をした。今宮がそれを見て話しかける。

「……でも、面白い状況なんじゃない? 黒鉄VS新田」

「……だな」

斑鳩も、今宮の言葉に笑う。


 打席の黒鉄大哉は、バッティングもできる。しかし、乾監督の意向で、9番打者という立場にある。

「黒鉄……(お前が打てることは知っている。だが……投手が打ちに行く必要はない。このチームには、お前が打てなくても点を取れるやつがいる。だから、お前には、投げることしか望まない)」

黒鉄は、新田のツーシームを打ち返し、ライト前ヒットにする。本塁へ還ろうとする斑鳩を、小林のレーザービームが制する。

「ふう……」

「ナイスレーザービームです翔馬さぁん!!」「サイコーです!」

レフトから佐々木が叫ぶ。ベンチからも古堂が叫んでいる。小林は鼻で笑う。

(声が大きいよ……)


 そして、三巡目に入るテッ高打線。1番の四方が打席に立つが、カーブを打ち損じてピッチャーゴロとなる。3アウトだ。

「……なんだあの曲がり方……頭おかしいんじゃねえのかよ……」

悔しそうにする四方に、黒鉄が話しかける。

「アンラッキーだったね四方さんよぉ」

「スライダー、シュート、カーブって……遊び玉1球もねえんだし、どれも厳しいところだし、マジ呆れるわ」

5回、ランナーを出すも無失点で凌ぎ切った新田。そして5回裏――



 4番大滝が、打席にたとうとしていた。

(低めに打ち返す――チェンジアップが来たら容赦無くかっ飛ばす!)

意気込んで打席に立つ大滝。しかし、黒鉄は変化球を一切使わない、ストレート一本調子で、大滝を完全に追い込む。

(2球連続ストレート……しかもアウトローとインハイ……どんなコントロールしてやがる。新田さんほどじゃないけど……十分バケモンだ……)

そして、ウィニングボールに使われた高速シュート。外角の淵にギリギリのところで滑り込んでくる変化球にタイミングが合わず、三振となる。

「あぁっと! クロ高の主砲大滝、バットが空を切ります! 二打席連続三振!」

実況の声に、落胆の声が混じる会場内。クロ高のベンチ入りできないメンバーたちも、スタンドで声援を送りながら悔しそうな表情を見せる。

「やっぱ上位打線が完封されたのは痛かったかも……」

一年生ピッチャー、小豆空也は試合を見ながらマネージャー小泉と共にビデオを回す。

「うん……(大滝くん……)」

「次の聖也、さっきは当たってたから、打ってくれると良いんだけど……」



 打席に立つ5番打者、伊奈聖也。

(ふぅ……)

大きく息を吐く伊奈。目の前に立つ黒鉄。

(最強の投手か……最強の投手が勝てる世の中じゃねえから野球なんだよ。絶対打ってやる)

ぐっと強くバットを構える。目先の黒鉄は嬉しそうに笑っている。

(正直――白銀世代だとか、暗黒世代だとか……そんな細かいことはどうでもいいわけよ……みんな俺より弱いんだからな!)

初球の高速スライダー、見逃す伊奈。1ストライク。

(やっぱ球速い……)

2球目のストレート、高めの釣り玉に間に合わず、2ストライクと追い込まれる。

(や……やべえ……)

伊奈はまた息を吐き直し、整える。

(多分、このピッチャーは……俺のこと大したやつだとは思ってない。多分、チェンジアップは使ってこねえ。俺が狙うのは、純粋に直球!)

3球目、低めギリギリに入るストレート。伊奈はそれを、打ち返した。

(ぐっ!)

少し力負けした……しかし、前進守備をとっていたセカンド斑鳩の頭上を超える。後退するも、落ちた打球。伊奈は全速力で駆け抜け、一塁ベースに到着した。

「うし……っしゃ! しゃあ!」

伊奈が強くガッツポーズをした。ベンチも沸く。

「おい! 伊奈! どうなってやがる!?」

「最っ高だぜ伊奈!」

芝や古堂が騒ぎ立てる。

(よっしゃ……やったぜ……これが突破口になれば……)

伊奈は静かに、もう一度ガッツポーズをした。


 (思ったより騒がないんだな……伊奈)

打席に立つ金条。何としてでも続きたい。しかし、黒鉄の投球の前に、三振に倒れる。続く小林もライトフライに倒れ、この回も結局得点圏にランナーを置くことができない。


 「黒鉄打たれてるじゃん……」

「斑鳩ァ……あれってお前の守備範囲じゃなかったの?」

「わりぃって……前進守備しすぎてた。まさか黒鉄の低め打ち上げるとは思わないじゃん?」

黒鉄と斑鳩がベンチに戻りながら話している。間に割って入る地村。

「……つけ入る隙になる。そういう考えはやめよう」

小さく呟く彼に、二人は少し苦笑いしながら頷くのだった。


 「い、伊奈くんすごい! この試合クロ高にとって初めてのヒットじゃない!?」

小泉は両手で口元を抑える。驚きが隠せないようだ。

「聖也は……昔から器用な男でさ……。今でこそファーストやってるけど、外野でも、ショートでも、どこでも守れたし、それにピッチャーだって出来たんだ」

「へえ……それはすごいね」

「バッティングは中2まで普通だったんだけど、だいたいその頃から背も伸び始めて……気がついたらクリーンナップだったんだ。あの伸び具合はすごかったなあ」

小豆の遠い目を見ながら、小泉も笑う。

「ふふっ……」

不思議に思った小豆が小泉に尋ねる。

「どうしたの? 急に笑って」

「いや……小豆くんと伊奈くん、全然見た目もキャラも違うのに、凄く仲いいんだもん。びっくりするわ」

「確かに……そうだね」

小豆が笑いながら彼が守っている一塁を見ている。伊奈の小さなガッツポーズを見て、小豆も小さくガッツポーズを返した。



 6回表、先頭打者の本田を三振に切って取る新田。

「うっし……」

小さくガッツポーズを取る新田を見て、気に食わない様子の本田。

(呆れちゃうよな……まったく……)

「本田にもう静ちゃんを打つことはできないでしょ? 仕方ないからバントに専念したら?」

黒鉄がベンチから笑いながらそう言っている。本田も苦笑いして適当に頷いた。


 3番打者木口が打席に向かおうとするところを、乾監督が呼び止める。

「木口、お前、初球本気でスイングしてみろ。ヤマカン張ってもいいからさ」

「え? そんなんで良いんすか?」

「ああ。逆にエリアの隅っこしか投げねえんだ。9つあるエリアの分け方を、4つとして考えればいいことを思えば、お前にできねえことじゃねえだろ? 任せるぜ」

「はい!」

木口は大きな声で叫んだ。少し嬉しそうな顔をしている。

(……最高じゃねえか。面白い)


 木口は打席で新田の初球を見ようとしている。

(逆に、この慎重派キャッチャーのことだから、初球からアウトローありえるよな。アウトロー一本に絞って……フルスイングっと!)

初球カーブを投げた新田――緩く山なりを描くボールを、木口はギリギリまで見て、打ち返した。

「よっしゃオラァ!」

叫び声と共に飛んでいく打球。レフト佐々木の頭上を超え、ツーベースヒットとなる。

「3番一年生、木口諒真ツーベース! 初球カーブを見逃しません!!」


 一気に作られたチャンス。4番地村が打席に立つと、会場のボルテージは一気に高まる。鉄日高校吹奏楽部の演奏も一際大きくなる――それでもなお、静かに……粛々と、新田を見つめ、バットを1回、しっかりとスイングする。

(敬遠……一塁空いてるから……敬遠しましょう。ここで打たれたら意味がありません)

金条の敬遠のサインに、新田も頷く。初球、大きく外したところにボールを投げたところ、会場全体がブーイングの流れに入った。

(新田さん……堪えてください……)

金条も苦しい表情になっている。目の前の新田は、依然として爽やかな表情で2球目を投げた。


 「おいおい! 勝負しろよ!!」

ベンチから斑鳩が煽るように叫ぶ。しかし、ネクストバッターの泉中がそれを制する。

「やめてください……それだけ、僕にプレッシャーが掛かるんですよ」


 「静ちゃん意外とガラスのハートだからなあ。正直なあ……敬遠すんのもピッチャーとしては屈辱なわけよ」

黒鉄は冷静にその場面を見ていた。

「黒鉄さんは……この場面、相手が地村さんだったら敬遠しますか?」

リリーフの宮城がブルペンで黒鉄に問う。

「……俺は打たれないもん。敬遠はしねえ。だけど……もし静ちゃんぐらいしか実力がないんだとしたら、この事実を受け止める他ないよなあ」


 新田は表面上こそ平静を装っているが、やはり心へのダメージが堪えている。

「……(俺に……彼を止める手立てがねえ)」

悔しい表情で、次の打席に立つ男――泉中水樹を見る。

(チャンスに強いバッターだが、地村に比べれば怖くない。冷静にいけば……大丈夫)

新田が投げた初球のスライダー。内側に切り込んでくるボールを、泉中はしっかりと打ち返す。しかし、ファウルになる。

「ぐ……」

予想以上のキレに、やはり泉中も黙り込む。

(暗黒世代……だからって正直こいつが新田さんから打たない保証はない。2球目は外に外したシュート。3球目は外いっぱいにカーブ。4球目、ナックルで仕留める)

金条の出したサインに、新田も頷き、シュートを投げる。外れてボール。

(新田さんはストライク先行。だったら外いっぱいに来ることを考えよう)

泉中は外に配球を絞る。しかし、少しベースから離れて構えた。

(新田さん相手に外角を捨てた――? んなわけないよな……でも……新田さんの投球を、囮みたいに誘って打ちに行ったって上手く当てずにゴロになるだけだよな!)

金条は新田に、当初の計画通り、外いっぱいのカーブを要求する。新田も頷き、投げた。

(だって……今日俺にとって、1番調子がいいのは……カーブだからな!)

外いっぱいに山なりを描いたカーブ。金条の予想通り、泉中はベースに強く踏み込んできた。

(誘ったとおり! やっぱり甘く見られたもんだよなっ!)

バットを振った泉中。同時に走り出した木口と地村。ボールは、回転をかけながら、バットにぶつかった。

「!!」

(水樹……お前は器用な男だぜ)

木口は三塁を回りながら、にやりと笑う。深めに守っていたセンター山口の前に――打球が落ちた。

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